第23話 現代建築と風水と数字に隠されたシークレット

ブレックファーストを食べ終えた僕たちは、コーヒーを飲みながら、やがて来る風の時代における未来について語りあうことにした。


「絢香先生、古典風水(こてんふうすい)ってご存知ですよね?」

僕はコーヒーにミルクを入れてスプーンでかき混ぜながら絢香に尋ねた。


「うちの占術で使われてる方位学のこと?」

絢香はよく解らないと言った感じで眉間にシワを寄せて聞き返した。


「まぁ、方位学を含む、現代建築などにも取り入れられている環境科学のことです。」


「私、風水はよく解らないけれど、東から太陽が昇り西へ沈んでいくという法則は変えられない。

人間にとって住みやすい環境というのも宇宙の法則に則ったルールがあるとは思うよ。」

絢香はてっきり直感型タイプだと思っていたがたまに的を得たことを言う。確かに東から日が昇ることは科学の力を持ってしても変えられない。


「えぇ。確かに太陽が東から昇ることも宇宙の法則ですし、どんなに寒い冬だったとしても必ず、春には桜が咲きます。風水とはルールなのです。」


「確か、江戸時代に栄えたのも、東に東海道があり南に港があり、西側には川、そして北風が吹く冬には寒風を避けるための山があったことで栄えるための条件が全て揃っていたらしいよね。商人たちは貿易で江戸にやってきて稼いでも潮の関係で帰れないから江戸の城下町で金を落として、北風が吹く冬には疫病を恐れて帰っていく。そのため、地形が維持されてきたので今でも東京は日本で一番の経済都市であり続けている。」

絢香はパーソナル智(ち)の研究者タイプゆえ、博学で色んなことを知っているみたいだ。


「実は、横浜にもたくさんの友人がいるのですが、設計事務所の社長を父親に持つ友人から建築やデザインのお話しを聴かせてもらう機会があって気がついたのです。その子の父親は職業柄、風水を学んでいたらしくて、同じ時期に独立して設計事務所を構えた友人達の会社が年々倒産という憂き目にあっていく中で、最後まで設計事務所を存続できたらしくて。彼女のお父さんが言うには、ただ単に、運が良かっただけだ、と。」


「確かに、一級建築士の資格を持つ人はたくさんいるからね〜。風水を学んでいたことが他とは違うユニークポイントで差別化をはかれたのが大きいような気がするよねぇ!」

絢香は占い師だから当然のように宇宙の法則があることを信じているだろう。しかしながら、一般の多くの人も風水は科学だと信じているのに、誕生日から人間の性質を読み解く占術の話しになると怪しいと思われてしまう。その流れをつくってしまったと思われる一部の占い師を論破しなければならない。


「そのお父さんはお仕事柄、若くして、風水を学ぶ必要性を感じていたらしいのですが、もう何年も前に、GDPで中国が世界で2番目の経済大国になりました。風水を取り入れたホテルだと中華系の観光客からは喜ばれます。

例えば、僕は鍼灸整骨院に勤めていたこともあるのですが、東洋思想は、気の流れを重視することを教えて貰いました。一流ホテルに行けばすぐに気づきますがピアノが天に舞うような吹き抜けの空間であったりシンプルに空気が澄んでいてまるで高原にいるかのようなリラクゼーションを与えてくれています。」


「気の流れ。。。

目には見えないけれど重要だよね。」


「もしも、この先の近い未来、新型の悪性ウィルスが蔓延する時代が来たとしますよね。

たぶん、マスクをする習慣のない人達は、ウィルスに感染するリスクが高くなってしまうので死んでしまうかもしれません。

これは極端な例でしたけれど、人類史は疫病と戦ってきた歴史でもありますので大きな時代の転換期である現在から未来にかけては歴史を揺るがす大事件が起きたとしても不思議ではありませんよね。」


「確かに、安定が一番とされた地の時代から変化が激しい風の時代へとシフトされると西洋占星術の先生が言ってました。時代の黎明期というのは、新しい幕開けにふさわしい形でスタートするべきです。

アキラが言ったように一時的かもしれないけれど、新型のウィルスが流行って多くの命が失われる未来がやってくるかもしれない。でも、それはあくまでも平和な世界へシフトするためには必要不可欠な出来事かもしれないよね。」


「信じる信じないは別として、僕らが信仰している日蓮(にちれん)の生涯でも予言がありました。

法華経を信じないのならば、内戦と他国からの侵略戦争が起きる、という予言だったのですが、事実、内戦が起きた後に、モンゴルが攻めてきて日蓮の予言は的中したのです。日蓮はむやみやたらに幕府に忠告したのではなくすでに飢饉や疫病で亡くなっていく民衆の姿を法華経という経典に照らし合わせてまだ起きていない2つの大難が起きると確信したのです。」


「日蓮って鎌倉時代に法華経を広めたお坊さんよね。そんなに凄い僧侶だったんだねぇ。知らなかったよ。」


「日蓮は運命については変えられるものと変えられないものがあると言っています。

大きな運命と小さな運命の二つの両輪があって、大きな運命それ自体は変えられないのだとも言っています。この話しの結論は、宿命転換(しゅくめいてんかん)と言って、例え、今世で罪を犯した悪人でさえ法華経を行じていくことで今世のうちに必ず成仏できる、ということで帰着します。

ですが、大きな運命それ自体変えられないという思想はどこから来ているのかということが重要で、人は何回も生まれては亡くなり、また生まれてくるという3世永遠の生命であることが考え方の基となっています。」


「占いのお客さんも当たり前のように宇宙の法則や永遠の生命を信じている人が多いよねぇ。

私も生まれ変わりは信じているよ!

前世のことは解らないけれど今世で強運に恵まれていることから思えば、前世では徳を積ませて貰ったような気がするよ!」


「生まれ変わりを信じている人が増えたのは良いことだと思います。もしも、人生一度キリだ、と勘違いしてしまったら人間は破滅的な行動をとると思います。先程からなんでこんな話しをしているのかと言うと、東京進出後の未来について僕なりに考えてみたのですが。今のままでは、東京に実店舗を構えるのはリスクだと思っています。だから、残念ながら、僕は絢香先生の期待に応えられる人材にはなれそうにありません、すみません。」


僕は東京進出後の未来を語る上で『時』を待つことが重要だと考えている。遠回しに絢香に風水と建築や東洋医学、哲学について語った。それは、占いという性質上、目には見えない運気の流れを読み解くことも必要だがこんな非科学的にも思える話しを理詰めで語るには、多角的な視点で観なければならない。必然的に話しは永遠に感じられるほど長くなり、僕はコーヒーを口にした。


「アキラが言いたいこと、なんとなく理解できる。

東京は人口が多いから占い師としての需要はあるかもしれないけれどパワーストーンを扱うには家賃が高すぎるからリスキーってことよね。それにアキラの予言が万が一的中したとしたら、リモートワークが主流になり外出するのも規制がかかるかもしれない。」

絢香は僕の言いたいことを端的にまとめてくれた。

確かに、家賃が高いのもその通りなのだが、ネットショップでうまくまわっている以上は、わざわざ東京にリアル店舗を構える必要性が今はないのだ。西洋占星術を少しでもかじっている人ならば大きな時代の転換期こそよくよく注意して時を見守るしかないと言うだろう。だからインターネット経由で広く世の中に占術が広まっていくことの方が重要だと考えている。


「それもありますけれど、僕個人の問題でもあります。僕は店舗に縛られるのが苦痛です。

毎日変化があるノマドライフを捨てることは考えられないのです。実は、琉球占術以外にも学びたい占術があるのですが、今使用している宿曜占術(しゅくようせんじゅつ)以外にもマヤ暦や四柱推命(しちゅうすいめい)、算命学(さんめいがく)を学んでみたいのです。」


「マヤ暦に四柱推命に算命学かぁ〜。

面白そうだね!ちなみにアキラはマヤ歴ではkinいくつ?」


「kin111です。

たまたま書いた自叙伝がA4の紙で111枚になってしまったのでご縁に感じていますよ。」


「えー!

111なの?ゾロ目で縁起いいじゃん!」

絢香は目をまん丸くしてそう言った。

確かに、自分自身でもまさかゾロ目のナンバーに生まれていたなんてことは嬉しい反面、できるならば隠しておきたい事柄だった。手相を紐解けば天下取りの相と言われ、マヤ暦で観ればゾロ目のナンバーを持ち、さらに四柱推命で占っても弱点が見当たらないほど良い星の生まれであることを知ってしまった。男は自己承認欲求を満たしたくてどんな些細な事でも褒めてくるキャバ嬢にハマっていくらしいが、僕にとってはそれが占いというだけの話しなのだ。占いに行けば大抵ベタ褒めしてくれる。だから、一部の悪質な占い師がわざわざお金を払ってくれるお客さんに説教をすることが信じられない。


「絢香先生、そう言えば、今日は佳子先生が出張から帰ってくる日ですね。また面白いお話し聴かせて貰ったらシェアさせて下さい!」


絢香はコーヒーを啜りながら左手でオッケーというサインをつくってみせた。細長な顔たちのKAKOに比べて、丸顔の絢香だが全体的に小柄なため顔が小さく見える。彼女の長い睫毛や凛とした瞳を観ていると沖縄独特のゆる〜く始まる朝ですらお洒落な恋愛ストーリーの中に生きているような錯覚に陥ってしまう。コンポからはJAZZミュージックが流れている。練習中である黒いオルフェはまだうまく弾き語れないのだが、若者が多い那覇新都心店であるならば、流行りのJPOPでも弾き語りながら、絢香と共に楽しくお仕事ができそうだ。

この先、KAKOや絢香と過ごす日々の中で僕は青春時代へ戻ったようなトキメキを感じることになるだろう。それはまるで彩りの占術師が織りなすお洒落なラブコメディ。純愛と呼べるほど一途にはなれない。琉球王国はまだまだ夏真っ盛りといった具合でフレッシュなオレンジジュース片手に海辺で絢香とこのままずっと語りあっていたいし、刹那的な瞬間瞬間に宿るこの想いを大切にしていきていきたいと願うのであった。


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