第17話 世界で一番美しいサンセット
車内での家元の講義は、時間が経つにつれ各テーマ毎に白熱した議論にまで発展した。僕は冷たい水が飲みたくて仕方なくなったのだが、那覇新都心で買った完全に温くなったペットボトルのコカコーラーで喉に刺激を与えることにした。
窓の外に目をやると、琉球王国の歴史と米軍人統治下に出来上がったハワイを感じさせる海岸沿いの流れる景色が視界の先に飛び込んできた。
僕の隣に座るKAKOは喋り疲れたのか、無防備なほどにリラックスしきっていて、ベージュ色のパンツからチラチラとVラインを覗かせるほどに股を開いている。
先ほどから、KAKOはまるで夢の国の物語に登場するお城の中に囚われたままのお姫様のような、いと哀しげな瞳でこちらを観ることに僕は言葉にできないほどのジェラシーを覚えた。
この自分の心の中に巣食う嫉妬という感情には、KAKOの持つ教養の高さや育ちの良さから滲み出る品のある言葉使いなど、占術では読み解けない、何か、があるはずだと感じている。
しかしながら、それが恋心から発生したものなのか、単に成功しつつある者への嫉妬なのかがわからないまま、この美しい琉球王国のサンセットの夕陽と共に消えていきそうで哀しくなった。
家元は講義に夢中になり過ぎたのか、さっきから無言のまま車を走らせていて、僕たちは南部の美しい海を眺めながらそれぞれの想いに夢を馳せていた。
家元が車を停めて外へ出ると、高台から海が一望できるパワースポットに着いていることを知らせてくれた。
家元に促されるままに緑に茂った道を抜けるとマンゴーのシャーベットが溶けていくようなオレンジ色したグラデーションが地平線の向こう側に消えていく瞬間が視界に飛び込んでくる。
僕たち三人は神々の住む島と謳われている琉球王国の幻想的なサンセットを眺めながら、今までに体験したことのない感動が心の底から湧き上がってくるのを生まれて初めて体験したのである。
僕はKAKOの隣にいて彼女の邪念が解けて赤子のように潤んだ瞳に変わっていく様子をマジマジと観ていた。
それを遠目で見守っていた家元が僕たちに近寄ってきてこう言った。
「ここは世界で一番美しいサンセットと言われている場所なんだ。KAKOちゃんアキラ君、僕はここで写真を撮っているから、二人でお散歩しておいで。」
家元の突然の提案にびっくりした僕は言葉を失ってKAKOの方を観た。
KAKOは驚く様子もなく「わかりました、アキラさん行きましょう!」と言って、僕の二の腕あたりを掴まえて引っ張った。
その突然のKAKOの行動に僕は性的な興奮を感じた。絢香の腕を掴んだ時には癒しを感じたのに、KAKOから腕を掴まれた時には全く別の感情が脳内を支配し始めたのだ。
KAKOは丸い木で作られた柵に手をかけながら、海から吹く風にオレンジ色のスカーフが揺れて、今すぐにでも、物語の世界へと消えてしまいそうだった。
「なぜ神様は地球を創ったのかな?」
KAKOはそう呟いた。
KAKOの昔にどんなことがあったのかは僕は知る由もない。それはまるで別れた恋人に想いを馳せているかのようなセツナイセリフだった。
「どうして?ですかね。
でも、もしも神様がこの地球を創ったとするならば、きっと意味があって創ったと思います。」
KAKOの気持ちに少しでも近づきたい、僕は強くそう思った。神様が地球を創ったのかなんて今の僕にはどうでもいい。
ただ、消えてしまいそうなKAKOの魂を繋ぎとめておきたかった。
「アキラさんは東京出身だから綺麗な人がたくさんいて恋愛のチャンスがたくさんあって羨ましいです。私なんて昔からおっちょこちょいな性格で頑固だから、好きな人ができても自分からは告白できずに終わっちゃうんです。」
「確かに東京には綺麗な女性が多いです。否定はしません。
けれども、KAKOさんや絢香さんと一緒に行動を共にしていると沖縄にも魅力的な女性が集まってくるのだとはじめて気づきました。
僕自身は恋愛経験豊富なタイプではないので、たぶんKAKOさんは今までに出会った中で一番、魅力的な女性です。」
僕はKAKOと肩と肩が触れ合うギリギリの距離にいて抱きしめたい衝動を必死に抑えていた。
そんなことを知る由もないKAKOは僕の言葉遊びに浸りながらサンセットを眺めていた。KAKOに置き去りにされた感のある僕はふと絢香の顔が浮かびあがりこのまま多重恋愛になってしまったらどちらを選ぶだろうか?と神様に祈るような気持ちでいた。
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