第14話 龍神天珠に矢が刺さるスピリチャル現象

絢香に促されるがままにステーキを食べながら雑談を交わしていた。


「アキラさんはこの後店舗研修ですか?」


「たぶん店舗研修だと思います。

メール鑑定をさせて頂いてるので、対面の鑑定は少し緊張しています。」


「私はほぼ対面の鑑定しかしていないので、メール鑑定には興味あります。

店舗だとお客様のパーソナルとカラーは鑑定を出す前からなんとなく解ったりしますよ。でも、メール鑑定ではお客様の顔が見えないから大変そうですよね。」


「えぇ、僕もはじめのうちは家族や友人の鑑定を出してたので普段から交流があればすぐにイメージつくじゃないですか?鑑定書通りに生きているので凄く当たってる!ってすぐに解る。

メール鑑定ではお客様の顔が見えないのでメールの文面と鑑定書からイメージをするしかないので慣れるまで苦労しました。けど、やっぱり凄く当たるって評判高くてストーンの販売にも結びつきやすいですよ!」


サーロインステーキをナイフできりながらメール鑑定の実情を絢香に話した。

絢香は僕よりも早くに食べ始めてたのにもかかわらず僕の方が食べる速度が早いようだ。たぶん、話すスピードのまったりとした感じからして彼女の行動力が低いことも関係しているのだろう。


「アキラさんの身につけているストーンは三眼天珠ですね!後、ファントムアメジストのは翡翠の龍ですか?」


僕の左手を観て絢香はストーンセレクトが気になったようだ。


「えぇ、三眼天珠は福・禄・寿で家庭運や健康などに良いとされる天珠なのでティンバさんに勧められました。

ファントムアメジストは紫炎の創だった時代に村田智子先生からセレクトしてもらって後に翡翠彫りの龍を追加しました。絢香先生は左手に着けてるブラックルチルだけでなく、天珠のネックレス素敵ですね!」


絢香の胸元に飾られている天珠のネックレスは家元や佳子先生が身につけている天珠のネックレスよりはコンパクトに観える。が、やはりパワーストーン大国の沖縄だからこそファッションの一部として全く浮いていない。お洒落に見える。


「このネックレスつくるまでは長かった〜!毎月のお給料でこまめに天珠をコレクションして一年でようやくネックレスにできました。私もアキラさんと同じで『龍』が好きなんですよ!

今、一番欲しいのは洞察力が高くなると云われる龍眼天珠です。高いけど絶対に欲しいからお仕事頑張って売り上げあげなきゃ!」


「絢香先生は龍好きなんですね〜!

五本爪の龍は中国でも皇帝のシンボルとされているから金運など飛躍的にあがりそうですね!」


「龍神天珠なら持ってますよ!ゴールドルチルと組み合わせたのですが、その時は社長をさせて頂いてました。」


絢香はブラックルチルと共に身につけていた龍神天珠をみせてくれた。

一見、普通の龍神天珠なのだが矢が刺さっているマークが出ているのは初めてみた。通常ならば矢の刺さっている天珠などあり得ない。僕は衝撃を受けた。


「絢香先生。その龍に斜めに入っている矢のマーク、初めて見ました!

はじめから入っていたマークなのですか?」


「え?矢のマーク?」


龍神天珠を観ながら矢の刺さっているマークに対して指摘してみると、絢香は目をまん丸くさせて「ヤダー!怖ーい!」とオーバーなリアクションをしてみせた。


「はじめ買った時はこんなマーク無かったのですよ。えー!いつからこんなの出てたんだろう?人からの嫉妬やネガティブな感情を受けてたのかな。」


僕は沖縄入りしてからいくつもの不思議な体験をしていたので慣れたつもりになっていたのだが、絢香の龍神天珠に刺さった矢のマークのことは科学では全く証明できないし若干の恐怖すら感じていた。僕の身に起きた出来事と言えば、ファントムアメジストの色が悪くなったり三眼天珠にヒビが入ってしまった程度のものだ。沖縄は本当に不思議な島だ。

霊感の強い人ならば聖地巡礼することはおろかなんだか恐怖心に襲われてホテルから一歩も出られないで帰ってきたという友人もいる。たぶん、この島は第二次世界対戦の時に多くの犠牲者をだしたから、繊細な人に対しては辛い仕打ちをするかもしれない。一般人にこんなことを話しても信じてはくれないだろう。

しかし、全ては素粒子でありエネルギーで形作られているのだという説明を受け入れてくれるのであれば心霊現象などもある程度は科学的に説明することができる。幻聴や幻覚だって神と繋がったことによる現象かもしれないと言えば全て説明できるのだが精神科に連れて行かれてしまったら間違いなく閉鎖病棟から一歩も出られない生活を送ることになるだろう。神と繋がるということは特別な人にしか許されない行為ではある。古来琉球王朝でも卑弥呼のような神の声を聴ける女性がいて国王はその神の声をもとにして国つくりをしてきたのだ。


絢香は沖縄県民だから不思議な事象に対しての免疫がある。しかし、東京から来たばかりの僕は神々の島と詠われる琉球王国にて電撃が走るような出来事ばかり起きる日々をまだ受け入れきれずにいた。


「そういえば家元とお逢いする約束の時間が15時ですのでそろそろタバコ一本吸ったら外にでましょう。」

絢香との話しに夢中になって気がつけば14時30分になっていた。

僕は絢香に煙がいかないように横向きになりながらタバコに火をつけた。


「家元と一緒に行動できるなんてアキラさんはやっぱり幸運の星の下に生まれてますね!」


絢香はニコニコと笑みを浮かべながらそう言った。

絢香の出勤も15時だっただろうか。

しかしながら彼女は慌てる様子もなくまったりとした癒しの空間を僕に提供してくれている。彼女の属性は『緑陽』。

この属性の人たちは行動力が低いという特徴があるのだ。行動力が一番解るのは話すスピード感。絢香の場合にはゆっくりとしたテンポで話してあげないとよく聴こえないようだ。

僕の行動力は6億7千ある。通常は1億から3億くらいが標準なので、本来の僕は行動力8億のティンバと話してるくらいの速い会話のテンポが心地よい。

絢香と話していると色々なテンポが遅いので焦らされている感じがするのだ。

しかしながら、それが良いとか悪いとかではない。絢香の持つ魅力なのだ。


「絢香先生、お手洗い行っといた方が良いんじゃないですか?一度、店舗開けたら休憩もとれないみたいですし。」


「お気遣いありがとうございます!

ちょっと化粧直してくるので待って下さいね。」

絢香はカバンから化粧道具が入ったポーチを取り出して席を立った。

僕はさりげなく伝票を持って席を立ち先にお会計を済ませることにした。

鑑定料からしたらステーキをご馳走するくらいたいしたことない。

一玉で数万円もする高級なストーンも扱っているのだから一玉700円のピンクタイガーアイを2玉買ったと思えばステーキ代なんてかなり安いくらいだ。


さて、家元は一体どんなプランを立ててくれているのか?

浮気性な僕はKAKOのことを想い、このドラマのような胸熱くする知的な恋愛模様の日々に感謝するのであった。

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