第13話 人気運命線とバイオリズム

レンタルビデオ屋の2階にあるファミレスにて絢香とのプライベート時間を過ごしていた。彼女はステーキセットを注文し飲み物は水だけで良いと言う。

僕もかなりお腹が空いていたので絢香と同じステーキセットとドリンクバーを注文することにした。


まだ13時をまわったばかりの店内には客商売のお客さんたちがぞろぞろと入店してきてお祭り好きの沖縄県民たちは日常からもいちいちリアクション大きくキャーキャーとはしゃいで盛り上がっているのだ。


絢香には申し訳ないと思ったけれど、ヘビースモーカーの僕は喫煙席を希望して彼女はそれを快く了承した。

混雑している店内だが幸いにも空席が目立つ喫煙席に案内してもらったことで他のお客さんのはしゃぎ声を気にすることなく絢香との会話に集中出来そうだ。


「手相を見る約束でしたね。アキラさんは天運鑑定書は持ってますか?」


「天運鑑定書ですか?カバンに入ってるのでちょっと待ってください。」


絢香は手相だけでなく僕の天運鑑定書も観るという。天運鑑定書とは運気アップの方法が77項目に渡って書かれている、世界でたった一つだけの琉球占術の奥義が秘められた暗号のような鑑定書だ。


「マジカルカラーは緑。深層心理は樹。

パーソナルは公です。バイオリズムは高いとティンバさんから言われています。」


僕はカバンから一枚の鑑定書を取り出して絢香に渡す前に簡単な診断結果を伝えた。


絢香は目を光らせて天運鑑定書の隅々まをくまなくチェックしていた。鑑定結果が出るまでの独特の緊張感、運気レベルが高いと言われながらも35歳の現在に至るまで対した成果をあげてきたわけではない。本当に幸運の星の生まれなのだろうか。


テーブルには氷の入った水とアイスコーヒー、絢香のスマホと僕のノートが置かれていて、向かい側に座っている絢香の顔の小ささに比べて、胸元に飾られている天珠のネックレスがかなり自己主張しているように観える。


「なるほど!天運鑑定書を観てアキラさんのことなんとなく解りました。

次は手相を見せて下さい。」


絢香は天運鑑定書をテーブルに置くと、可愛らしい虫眼鏡で僕の手相を左右両方チェックした。


「アキラさんは右手がマスカケ線ですが、左手が変形のマスカケ線で面白い手相をしていますね!」


癒し系の絢香が珍しく興奮した様子を見せた。珍しいと言われることに慣れていた僕は才能や適職が知りたかったのだ。


「右と左でちょっとだけ違うみたいです。例えば、左手の月丘から出てる運命線は人気運命線と呼ばれているみたいです。

僕自身は自覚ないですけれど。。」


絢香は再度、僕の手相を確認して運命線なのか知能線なのか鑑定士によって判断が別れるとしながらも


「私はアキラさんの左手の月丘から出ている線は特殊な意味を持っていると思ってます。例えば、天運鑑定書ではアキラさんのバイオリズムはとても高い。これは運がいいだけでなく、人からも愛されるという意味を持っています。

一方で、手相の月丘は芸術やイマジネーション、人気を司りますので多くの人からの支援を受ける人気商売に向いています。


けど、変形マスカケ線から出ている知能線の先が二股に別れているので『ライター線』もお持ちです。マスカケ線自体は理系の方に多いのですが、ライター線や芸術分野にも強いマルチな才能があることを示しています。」


絢香の鑑定が盛り上がってきたところで、水を差すかようにウェイトレスがオーダーしていたステーキセットをテーブルに置きにきた。「ご注文は以上ですか?」と訊ねられ絢香が受け答えしている最中、僕はノートに幾つものキーワードを書きこんでいた。


「アキラさん、鑑定の話しはこれくらいにして温かいうちに食べましょう!」


「あ、先食べていて下さい。ちょっと記事のアイデアが浮かんだのでアウトラインだけ書いちゃいます!」


話しに夢中になって気がつかなかったけれど、このステーキセットを食べ終わったら家元との約束の時間までジャストタイミングかもしれない。

僕はスマホアプリからブログを展開し、タイトルに「月丘から伸びる人気運命線とバイオリズム」というタイトルを入力した。


絢香は熱々のステーキをナイフで器用にきりながら美味しそうに頬張っている。

いつの間にか彼女が左手に着けていた黒いストーンがスマホの脇に置かれていて、僕はその黒光りする大粒のストーンを観て羨ましく思った。

ひょっとして、7Aブラックルチルの14ミリかもしれない。KAKOが持っているゴールドルチルも14ミリだし7Aなので数十万円はするであろう。しかしながら、ブラックルチルはゴールドルチルより希少価値が高いので、店舗にだしてしまえばすぐに売れていってしまう。

彼女の7Aブラックルチル14ミリ一連は、店舗で売られることなく、コレクションされていたものを譲り受けたものかもしれない。


「アキラさん!ステーキは熱々のうちに食べたほうが美味しいですよ!

今は仕事でなくオフな時間なのですからスマホなんてしまって下さい。」


夢中になってステーキを口に運ぶ絢香の表情は赤ちゃんのように幼く観えた。

ステーキをこんなにも美味しそうに食べる彼女のこと、陽気でみんなとワイワイしたい深層心理が垣間見えて嬉しくなった。なぜならば、深層心理は親しい友人にしか見せない顔だからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る