第9話 昼下がりの国際通りにて
家元との約束の時間はだいたい15時に電話する約束だっただろうか。
なんの目的もなく沖縄に来た僕は、沖縄の親族への挨拶まわりに出かける時間の余裕もなく、昼下がりの国際通りを一人つまらなく歩いていた。
国際通り沿いには占いと天然石のお店ミラクルスポットが2店舗あるはずなのだが、グーグルマップで調べてもいまいち場所が解らない。インターネット店勤務の僕は、リアル店舗での研修をせずに、すぐさま会社のナンバー2である佳子先生から文章力を買われて、『東京銀座店』と『東京新宿店』のサイト運営と広報企画部に配属された。
とはいえ、実際のリアル店舗が新宿や渋谷にあるわけではない。
鑑定師でありパワーストーンのセレクターである鑑定師が東京に住んでいて、鑑定のセッション依頼がくれば、日比谷の帝国ホテルや新宿のパークハイアットなどの一流ホテルへ出向き、JAZZやクラシックが流れるお洒落なレストランやBARカウンターへ出張して鑑定をするだけの話しなのだ。
究極を目指す思考の持ち主と知られるパーソナル匠(たくみ)のティンバは、もともとは東京の銀座でシステムエンジニアをしていた実績を買われて沖縄での修行を重ねていたのだが、あいにく、東京進出の足がかりとして期待して雇われたはずの彼は、インターネットが不得意だったことが発覚してしまい、リアル店舗に回されてしまったのだ。
僕はティンバの天運鑑定を受けた事がきっかけで、初級鑑定師になることを決めたのだが、30歳もゆうに過ぎて若いうちから結婚を考えていた割には一向に運命の人に出逢えないことを彼に相談したのだった。
彼は僕に占い師になることを勧めてきた。
バイオリズムと呼ばれる数値化された波線グラフを観て、僕の運気レベルが人並はずれて高いことに気づいたらしい。しかも、だいたいはバイオリズムに浮き沈みがあるのが通常なのに、僕の場合は高い運気レベルのまま安定しているから苦労しなくても成功するのだ、と彼は言う。
もしも、運命の人に出逢いたいならば、占い師として数多くの女性の鑑定を観て、ソウルメイトという結果がでた女性と結婚すればいいというのが彼の主張だ。
確かに、夢ばかり追いかけてきた僕は、現実世界よりも精神世界を追い求めてパワーストーンの世界にどっぷり浸かる生活をしていたから、浅いお付き合いの女性友達だけが増えていくことにも慣れっこになってしまい、それでも、『琉球に眠りし姫』の伝説だけを心の糧として運命を信じ生きてきた。
琉球に眠りし姫の伝説とは、簡単に言ってしまえば銘苅子(めかるしー)といわれる沖縄版の『羽衣伝説』のことだ。正確に言えば、羽衣伝説に登場する天女の生まれ変わりを信じている僕の母親から聞かされた口伝として伝わる都市伝説のようなストーリーなのだ。
幼き日に、羽衣伝説を母親から聞かされていた僕は、どういうわけだか、本家の羽衣伝説の生まれ変わりを信じるようになっていき『もっともっと!違うお話をきかせて!』と駄々をこねる僕の期待に応えるように、母親が苦心して創りあげたストーリーが『琉球に眠りし姫』の伝説なのだ。
しかしながら、思春期の頃、気づいてしまった。
母親の故郷・浦添市と羽衣伝説の舞台が同じということ。母親の旧姓銘苅(めかる)が、どうやら、羽衣伝説の銘苅子(めかるしー)とは完全にリンクしているという事実に。
母親が沖縄出身とはいえ、昔は航空券も高かったのでそうそう旅行にいけるはずもなく、母親が法事などで沖縄県浦添市に帰省する時には、長男である兄貴か長女の姉を連れていくことが定番だった。
最後に家族みんなで沖縄旅行したのは、僕が小学校低学年の頃のお話しだったので、37歳の若さで兄貴が亡くなった後の沖縄への先祖参りでは、満天の星空だった沖縄の夜空が見る影もなく、ひどく寂れた町に思えたのだった。
佳子先生が言うには、沖縄県民よりも、成功者の方が沖縄の魅力に気づいている。
誰だって、お気に入りの場所は教えたくないもの。成功者たちだけが知る、沖縄の秘密の場所。
そして、どこへ行くのか、よりも、誰といくのかによって、観る景色が180度違うのだ、と言う。
正直に言って、国際通りを歩いていると、だらだらと長く続く道に、同じようなものしか売ってないお店しかなくて飽きてくる。
僕は家元とKAKOに早く逢いたくて仕方なかった。
密かに気に成っているのは、那覇新都心だ。どうやら、アメリカ軍基地が撤退した広大な跡地を再開発して街つくりがされたため、国際通りなんか非にならないくらいにアメリカンでお洒落なお店がたくさんあるらしい。DFSという免税店やハイブランドだけしか取り扱っていないショッピングモール、その向かいにはTUTAYAやジョナサン。数十台止められるTUTAYAのパーキングとショッピングモールの道沿いにピンク色にカスタマイズされたワゴン車が一台あって、それがミラクルスポットの那覇新都心店らしい。
僕は国際通りの退屈さに耐え切れなくなり、タクシーを使って那覇新都心店へ向かうことにした。
一昨日、那覇空港に到着してから、家元とKAKOに出逢い、深夜までの講義を聴いた後には、ホテルにて佳子先生から電話があり、僕の運命の歯車はどんどん加速度をあげるようにして、もはや昨日の事ですら思い出せないほど、この先に待ち受ける出逢いに胸を焦がし続けていた。
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