第8話 ピンクタイガーアイとゴールドルチル
佳子先生から電話があった深夜過ぎ、いつの間にか僕は寝ていたようだ。
夢から覚めた僕はベッドから時計に眼をやる。11時11分。
『1111』というぞろ目のナンバーを引き寄せてしまったようだ。
沖縄は不思議な島だ。仕事運、金運を司るルチルクォーツとピンクタイガーアイを持ったのは今から数年前の話しになるけれど、腕に着けた瞬間から起きたキセキは今でも鮮明に覚えている。
それは2年前の事。個人事業主として大手リラクゼーションの会社にセラピスト登録していた僕は、時間単価こそ高かったものの、なかなか収入が安定しない不安定な生活を送っていた。
リラクゼーションの仕事がない時には知り合いの社長から現場作業のアルバイトを貰うこともあった。ルチルクォーツは個人事業主の人が持つといきなり一日の単価があがるような金運を引き寄せることがある、とパワーストーン辞典でみていたので、ルチルを持つことはずっと憧れていたのだ。
ルチルとの出逢いは突然だった。
沖縄の親族が亡くなったので葬儀に出席するために家族と共に、国際通り沿いのビジネスホテルに宿泊していたのだが、法事が終わると特別やることもなく、タクシーで行けるところも限られているので、僕はおよそ1.6キロメートルにわたる国際通りの一本道を、夕刻すぎ一人で歩いていた。
国際通りはステーキ屋さんか民芸店かパワーストーン屋さんくらいしかない通りだということに気づいたのは、国際通り入り口から中ほどにある沖縄県内にはじめてできたドンキホーテまで歩いてきた時だった。
国際通りから裏道に入ってみると、中々抜け出せない迷路のように入り組んだ道沿いに、琉球グラスの専門店や沖縄版戦隊ヒーローのフィギアなどのおもちゃ屋さんに出逢い、異国情緒たっぷりなのに、なぜか昭和の古き良き時代にタイムトリップしてしまったような錯覚に陥ってしまった。
シルバーアクセサリーの店では、店員さんが店の外に出てチラシを下ったり威勢の良い声をかけている。店員さんが言うには、元・総理大臣の安倍首相の第一次政権が終わった時に、彼は沖縄に来て聖地巡りをしていて、うちの店でご家族にお土産を買っていったという。その時に元・首相と店員全員で撮ったという記念写真には、袈裟姿で杖を持って満面の笑顔を浮かべる安倍首相のプライベートでみせるお茶目な一面が写しだされていた。
僕は政治の世界には無関心なのだが、なぜか心温まる気持ちになったのだ。
その後、安倍さんは首相の座に帰り咲いて第二次安倍内閣の長期政権を樹立したのだが、
『陰徳あれば陽報あり』の言葉通り、島全体がパワースポット呼ばれる沖縄県の聖地巡りが彼にもう一度首相に返り咲くパワーを与えたこと。誰も観ていないところでの地道な活動を神様はちゃんと観ていたのだろう。スピリチャルファンの僕たちにしてみれば嬉しい体験談だ。
国際通りには、僕が大好きなパワーストーン屋さんが数えきれないほど軒を連ねている。しかも、無料で占いをしてくれて、パワーストーンをセレクトしてくれるのだ。
無料の占いは九星気学。生年月日さえあればすぐにラッキーカラーが解るというアルバイトでもできるような子供だましの占いだったのだが、東京では見かけることのない『ピンク色のタイガーアイ』を見つけてしまったので、友人への沖縄土産として購入することにしたのだ。
そして、これだけパワーストーンの流通量が多い沖縄だからこそ『ゴールドルチルクォーツ』が2000円台から選びたい放題だったのだ。東京ではどんなにランクの低いルチルでも最低1万円はするはずだ。僕はためらうことなくピンクタイガーと自分用のルチルクォーツを買って、ホテルへと戻り、初めて持つゴールドルチルの可愛さに酔いしれていた。
その矢先、知り合いの社長から連絡があり、今仕事が忙しいから手伝って欲しいと言われ、アルバイト料は『15000円』でいいか?と。僕はこの手の肉体労働系のアルバイトをする時は日当『9000円』が相場だと思っていたので、パワーストーンを持ち始めた瞬間からの約6000円もの単価アップに衝撃を覚えたのである。その夜、久しぶりに電話をくれた友人から飲み会に誘われたり、ブログのアクセス数が飛躍的にアップしたりと、不思議な体験談を重ねてパワーストーンの神秘に魅了されつつあったのだ。
東京へ帰ってから友人に勝負運を司るピンクタイガーアイをプレゼントしたのだが、その後、5号機のAタイプと呼ばれるギャンブル性の低いタイプのパチスロで勝負をしていて、通常ではありえないほどの連チャンを引き続けたという報告を受けた。Aタイプのパチスロ台は通常では2万円勝てれば高設定だというのに、ピンクタイガーアイをプレゼントしたその友人は、1000円の投資で『10万円』を手にしたという。
あまりにも、不思議な勝ち方だったので、お寿司をご馳走になり、ピンクタイガーアイを貰ったお礼と言われて『一万円』をくれたのだが、実は、ピンクタイガーアイ自体は2000円で購入しものだということを友人には内緒にしていた。
台風の日とは知らずガーデンクォーツを求めて蒲田の隣町である神奈川県の川崎へ出かけた日は、ぎりぎりまで、ピンからキリまで数本あるパワーストーンのチョイスに迷っていて、スピリチャル好きの店員さんと一時間以上、パワーストーン談義で盛り上がってしまった。
あまりにも可愛いパワーストーンが低価格で売られていたので決めきれずにいた僕に
店長さんから「そういえば今日は台風が来るらしいですよ」と思い出したように言われて、僕は水晶の中に箱庭をインクルージョンした可愛らしいガーデンクォーツを購入して、袋には入れずに、そのまま左腕に着けて帰ることにした。
パワーストーン屋さんが入っているショッピングモールをでると、南の空がスモッグかかったような雷を伴う雲に覆われて、台風の影響による強風により、仕事を中途退社して駅へと急ぐサラリーマンの姿を多数目にした。もしも、南の方面へと向かっていたら、僕たちは台風の影響で電車が止まってしまい帰れなかったかもしれないほどの大型台風だった。
しかしながら、ラッキーカラーの赤い電車の先頭車両に乗り込むと、京急川崎から友人宅の大森海岸駅へ北へ北へと向かう電車は、台風から逃げるようにして、一つ駅を通過することに徐々に光が差し込み、目的地である大森海岸駅に着いた時には、東西南北、全て雷雲に覆われてぴかっという雷鳴が轟く音が遠くから聞こえてきたのに、不思議と大森海岸の上空だけは夏の日の晴れやかな青い空から一筋の光が友人の住むマンションを照らしていたのだった。
すっかりパワーストーンのキセキに魅了されてしまった僕たちは、スピリチャルブームに乗って、琉球占術の初級鑑定師として猛勉強をした。お客さんが付かないうちは修行と思い家族や友人たちの鑑定を無料で観て、鑑定数を重ねていくことに占術の的中率の高さと人間関係を良好に保つための学びである事にきがついたのだった。
友人たちは僕の身の回りに起きるキセキを目の当たりにして徐々に占術とパワーストーンに興味を持ち始めていき、有料の鑑定や高級パワーストーンを購入してくれたのだった。
ストーンの後押しで結婚できた友人や、ギャンブル運が上がった友人、長いうつ病生活から見事に蘇生して社会復帰した友人たち、たくさんの感謝の声を頂けるようになり、この占術は単なる占いではなく『科学』であり『宇宙の法則』に照らし合わせても疑う余地がないほど、キセキを起こし続けるのであった。
僕は琉球入りした初日目に聞いたKAKOの体験談を思い出していた。
彼女が持つ7Aのゴールドルチルの事が気なっているのは、もはや宝石といってよいほどクォリティーが高いパワーストーンの相場の高さを知っているからだ。KAKOの持つゴールドルチルを観ていると僕が国際通りで買った2000円のルチルなど子供のオモチャのように霞んで観えてしまうのだ。
東京中を練り歩いて気づいたこと。
それは、沖縄でしか本物のクォリティの高いパワーストーンには出逢えない、という事実だったかもしれない。KAKOは7Aゴールドルチルに恥じないほどの出世をした。
インスピレーションが沸き、人気運があがり、そして仕事運に結びつく。
東洋一お金儲けが上手いといわれる華僑たちがこぞって質の良いゴールドルチルを求めて旅をし、始祖亡きあとは家宝として代々に継承していく、まさにゴールドルチルは金運アップのストーンの最高峰として神挌化される運命にあるのであった。
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