第5話 DNAに刻まれた謎とマスカケ線
占術師ティンバの勧めるがまま、宮沢賢治と同じ誕生日の827の謎、そして、本名と手相に隠された強運の謎を追い求めて、僕は単身那覇空港へと降り立った。
那覇空港に到着したのはPM10時過ぎで、僕は疲れた頭を冷やしにブラックコーヒーとタバコを求めてすぐさま売店へ行き飲み物と沖縄土産のチンスーコーを購入して、喫煙所へ向かった。
少し前に、占術の開発者である家元から「到着したら電話をください」と短いメールが来ていたのだが、羽田-那覇の2時間弱のフライト中に書き上げた『気づき』を読み返してチェックしてから電話することにした。
ーアキラの気づきー
DNAに秘められたルーツを探るには、3世代前まで遡って探求してみること。
例えば、お墓参りにいきお寺の住職に父親の性に秘められた歴史と教えて貰ったり、親族とあって職業を尋ねてみたりしているうちに、橋本家の特色がだんだんと解ってきた。
上皇后美智子様と僕の祖母は正田という性だったことや橋本家は江戸時代に紀伊國屋という屋号で浅草界隈でお商売をしていた旧家であったこと、母親の実家は落ち目だった橋本家とは違いとても裕福な家系なのだが、母方のご先祖様は琉球王朝時代に大臣として王家に仕えた名家の血が流れていることを知った。
遠い昔の話とはいえ、琉球王族の血筋が流れていることと、僕の掌に刻まれている天下取りの手相が手相家から言わせれば完全にリンクしているというのだ。
マスカケ線を専門家に見せた時には
「記憶力が良く器用になんでもこなせてしまうほど才能があるので、何をやってもうまくいくが、刺激やトキメキを求めていく相が出ているため、飽き性で仕事が続かないのが問題だ。
適職は40歳前後で独立できるような仕事、例えばインスピレーションや他の人が経験できない体験をもとに執筆をしてみてはどうだろうか?
柄にもなく褒めちぎってしまったけれど、マスカケ線は本当に天才型な上に強運を持っているので、仮に失敗したとしても幾らでもリカバリーがききます。ぜひチャレンジしてみて下さい。
あなたの適職は小説家です。もっと言うならば占いの小説で成功します。」と鑑定士からはっきり言われてしまった。
瀬戸内寂聴(せとうちじゃくちょう)の書籍で、『文学においては落ち目の旧家の出の人ほど才能があって成功しやすいのだ』との趣旨のエッセイが書かれていたのだが、確かに昔から意味もなく文章は長くなっていく傾向にあり、放っておけば一日中メールを綴っていることもあった。
はじめて自叙伝を書いた時にも、たった7日間で111枚の原稿を書き上げてしまったのだが、スピリチャル世界において『111』というナンバーは特別な意味を持っていて、心の赴くままに書き連ねただけなのに原稿用紙が『111枚』になってしまったことに『神の意図』を痛感したのであった。
鎌倉時代に法華経を流布した日蓮聖人の経典には次のように説かれている。
釈尊滅後700年は正法時代(しょうほうじだい)といって釈迦の教えが通用する時代。正法時代から700年後は像法時代(ぞうほうじだい)、釈迦の教えを信じる気持ちがまだ残っているが、像法時代から700年後は末法時代(まっぽうじだい)に突入する。末法とは釈迦の教えを信じる衆生が少なくなり民衆の心が乱れ争いごとが絶えない時代の事だ。
奇しくも日蓮聖人は僕たちの故郷である大田区の池上宗仲低(いけがみむねなかてい)でご入滅されているのだが、地涌(じゆ)の菩薩(ぼさつ)のリーダーたちがここ大田区の地から泥の中から地湧きいずる如く立ち上がって、法華経を広めていくことになるだろう、という一聴すると不可思議にも思えるそのストーリーを法華経の熱心な行者である親友から教えて貰った時には、まっさきに宮沢賢治のエピソードを思い返して、思索する日々を過ごすことになった。
宮沢賢治は亡くなる最後の瞬間まで『銀河鉄道の夜』の執筆をしていた。
最後には自分亡きあとは『法華経を1000部刷って配るように』と父親に手紙を書き、命だけでなく全てをなげうって法華経の信仰を全うしてこの世をさっていった。
これまでのルーツを探っていくと、どうやら僕自身も法華経からは逃げられそうにない、そう腹を括って書き上げたのが『111』枚に及ぶ自叙伝だったのだ。
宮沢賢治とは違い、僕はいつ死んでも後悔はないところか、早く死にたくて死にたくて仕方なかった。
こんなにも人々の心が穢れた時代に生まれただけでも不運だと思っていたのに、正義を貫く法華経を流布し続けるなど意味のないことのように思えた。だから、僕は本物の仲間しか信じてはいない。
誰に何を言われようとも掴み取った実感と感覚だけは間違いない。時が来れば全てお話できるだろう。
ーアキラの気づき・琉球初日目・那覇空港にてー
僕は占術の家元の連絡から5分ほど日記のチェックをしていて気づかなかったのだが、グループの会長である家元がなぜわざわざ那覇空港まで迎えに来てくれたのか?という幸運に気づけずにいた。
なんの計画も立てずに沖縄へ来たから、沖縄滞在中に家元が僕のことが必要なのであればタクシーを使ってこちらから出向くのだし、やはり成功者は時間にきっちりしているだけでなくこのようなサプライズをして人を喜ばせるのが好きなのだろう、と簡単に考えていて、この先に待ち受ける急転直下のストーリーを僕は全く予測できずにいた。
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