第4話 ミッドナイトウィング
銀座でのティンバとのセッションの翌日、僕は東京羽田空港の発着ロビーにて沖縄行きの航空チケットのキャンセルを待っていた。8月の終わりとはいえまだまだ沖縄は観光シーズン。
僕は第二の故郷である母親の故郷・沖縄の浦添市へ先祖参りする時だって、シーズンオフの2月を狙って、往復2万円の格安チケットを買って里帰りすることにしていた。8月の沖縄の殺人級の灼けるようなヤバい暑さにはほとほと参る。
同じ大田区の蒲田から羽田空港へ向かう交通経路は京急線のエアポート急行を使うユーザーが多いけれど、地元民はタクシーを使うことの方が多い。沖縄旅行はバックパッカーのように安い旅をする場所ではなく、ある程度計画を練ってレンタカーを借りて観光することをおススメする。スキューバダイビングや世界遺産巡り、北谷のアメリカンビレッジ、中部に位置する名護のラグジュアリーホテル、南部へ行けば最高聖地である久高島を一望できる最高のパワースポットへも行ける。
世界で一番美しいサンセットと言われるのは、宜野湾にあるサンセットビーチだけでなく、隠れ家的なエスニックレストランの庭で童話に出てきそうなブランコに乗りながら恋人とサンセットを観ながら語り合うのもお洒落でもある。たった一回や2回の沖縄旅行では、この島の持つ魅力は味わえない。
なぜならば、沖縄本島だけでなく、小さな離島に建てられた古来琉球の自然美をもとに設計されたリゾートホテルのプライベートビーチで過ごす沖縄時間が極上の癒しであるし、那覇の国際通りから少し車を走らせればハワイを感じれる場所などたくさんありすぎて、初めてきた友達にはどこへ連れていこうか本当に迷うほど魅力溢れる島なのだ。
夕刻7時を過ぎてスマホアプリを見ると羽田-那覇のキャンセルがちらほらと出始めている。
しかも、座席のナンバーが『55』番で、昭和55年生まれの僕は迷うことなくこの座席で沖縄へ向かうことに決めた。神の思しべし、といえばスピリチャルファンならば理解してくれることだろう。
青年時代の修行の期間を過ぎた30も半ばに差し掛かると、もはや、運命のスピードの速さに判断を迷うことが少なくなる。誰だって、普段は多く語らないだけであって、誰しもが、神の存在やキセキを信じはじめた時から、数字に隠された謎や自身のルーツを求めて、遊学を開始する。自分はなんてちっぽけな存在だったのだろうか?と、夜闇に打ちひしがれた夜もある。闇が深ければ深いほど、放つ輝きが大きいことを仏教の始祖である釈迦が説いている。万人の無限なる可能性に気づくことを悟ったのだ。
僕は亡き兄貴がずっと使用していたスーツケースとアコースティックギターを預けて、手荷物検査とボディチェックを終えると、最後のタバコを吹かしに喫煙所へ向かった。
灰皿が置かれたステンレス製の台の向かい側、どこかで見かけたことのあるような顔。
(あぁ、テレビに出演している女優の人か。)
幼馴染が音楽家ユニットとして人気があるせいか?人からはよく「羨ましい!」と興奮気味に言われるけれど、普段はばっちりメイクしている彼女たちだって、テレビを離れれば一人の人間である。タバコくらい吸っててもおかしくはないだろう。
しかしながら、こんな満月の日にわざわざ羽田で会ったのも何かの縁。僕はスマホのブラウザから彼女の生年月日を調べ、新しいタブを展開し、27宿曜占術で相性を調てみた。(なるほど、ソウルメイトか。一期一会とはいえ、どこかでもう一度会うような気がしてならないな。)
夜闇の静寂を切り裂いて飛行機のジェットエンジンが金属音と油が入り混じったような独特のうねり声をあげはじめると、あきらかにお嬢様育ちと思われる品行方正で端正な顔立ちの美人スチュワーデスがアナウンスをはじめ、僕はそれを聴きながら、それぞれの想いを馳せて南国沖縄へと旅立つ見知らぬ人たちとの無事を、密かに心の中で祈った。
僕たちを乗せた飛行機が、雲を突き抜ける瞬間には、宇宙の神秘を感じ、そして、空から地上を見渡せば、人間の力が及ばないと思えるほどの、大海原や大自然が色とりどりのカーペットのように映り、人の夢や希望が混ざり合う街は、漆黒に染まっていく中で、月明かりだけが唯一の希望であるかのように思えるのである。ライト兄弟が飛行機を発明してからざっと100年。いまだ科学では証明できていない、古代文明の知恵と現代科学でも勝てないギザの大ピラミッド建設のシークレット。
古代文明の人たちは、現代科学よりも優れた飛行船を持っていて、神に近づきすぎたゆえ、滅びたのであろうか?子供の頃によく読んだ、宮沢賢治の銀河鉄道の夜の世界観は、僕にインスピレーションや想像力を与えてくれた。こんな感動的な素晴らしい夜には人間を詩人へ変えてしまう。
僕たちは一体どこからきて、どこへ向かって歩いていくのだろうか?
その答えを僕たちはまだ知らない。
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