第3話 ティンバ〜凄い技を持つ一匹狼〜

東銀座へ着くと、たまたまタイミング良くティンバからのメールが届いた。

歌舞伎座のあたりで待機しているというメールを確認した僕は、方向音痴であるがゆえに、いまいち歌舞伎座への行き方を忘れてしまい、グーグルマップスで位置検索をしながら、南の方向へと歩きだした。

人気フルーツパーラー店である不二家レストランの前を通り過ぎる時、不覚にも、昔、付き合っていた彼女のことを思い出してしまった。彼女は東銀座の新築マンションに住んでいたので、銀座の街は僕にとって青春の思い出深き土地だった。

良く遊んだり外食したり、彼女の部屋で手料理をご馳走になった記憶は、30歳も半ばに差し掛かると、恋愛感情もわかずに一人でいることに慣れきってしまい、仕事や趣味であるバンド仲間と過ごす時間にこそ最大の生きがいを感じていた。


このまま「結婚は一生しないかもしれない」と友人にため息交じりの愚痴を漏らすと

「女からモテるのにもったいない!」と、口を揃えて言われることにも慣れていた。


しかし、占い師になる前職のセラピスト業界でも、女性が9割以上を占める職場だったので、女性と一緒に行動することは、単純に友達や同僚としてしかみれずに、年々、浅い付き合いだけの女友達が増えては、結婚して離れていき、また出逢う、というだけの話しなのだ。


ティンバは琉球占術で出会う前は、システムエンジニアをしていて、投資に興味を持ち始めたことがきっかけで数秘術(すうひじゅつ)を使い投資の時期やタイミングなどを予測していたらしい。

やはり、この世の中には、人智では計り知れない大いなる宇宙の法則によって動かされている。

できるならば、神の作り上げた設計図の一部分でも良いから知りたい!とこの世界の人間はみなそう願ってスピリチャルな世界への遊学を始めるのだ。


僕は源氏物語の影響を受けて、月の暦をベースとした宿曜占星術(しゅくようせんせうじゅつ)を趣味ではじめたことがきっかけで、琉球占術の門を叩いた。宿曜占星術は個人の特徴を観るのに的中率の高い占術として広くビジネスマンの間で知られている。なぜならばビジネスで組む相手との相性を観ることに長けているのが宿曜占星術だからだ。


宿曜占星術は長い間権力者たちしか使えない占術だったし、そもそも、唐に渡った空海の時代に仏典を装って日本に入ってきた歴史があるので、仏教徒であることが宿曜を使いこなす大前提としてあるのだ。

しかしながら、書籍などによって一般公開され広く知れ渡るようになった現在となっては、宿曜経を使いこなせるだけの器量なき人が営利目的だけで突っ走り、相性が悪いと出た相手を片っ端から断捨離していったり、もっと重症の人になると、日の吉凶で悪い日という結果が出た時には一切外出もできない、という可哀そうな人もたくさん見てきた。


琉球占術の凄いところは、一切の妥協をせずに、クライアントさんにとってのカウンセラーであり、プロファイラーとして、科学的根拠を示していることにあるのだ。


実は、宿曜占術でひも解くと、ティンバと僕は相性が悪い。深い付き合いにはならないだろうとは自覚しながら、適切な距離感を持ってして楽しく付き合っているのだ。


歌舞伎座の近くの交差点でティンバを発見した僕は、おない年であるにも関わらず、妙に老け年老いて観えるティンバのことを一瞬、哀れに感じてしまった。びしっとしたスーツ姿でビジネスカバンを持ち眼鏡をかけているティンバは遠目から観るとスタイリッシュで知的に観えるのだが、髪の毛を黄色に染めていることが残念に思える。

しかしながら、この人口の多い東京においては、待ち人を探すのも大変な時があるのに、金髪のスーツ姿のティンバは銀座にはいないタイプの属性なので、よく目立つ。

人込みの中で迷わずにティンバを見つけられたことに幸運を感じ、マジカルカラーに感謝するのだった。


「アキラさん!お疲れ様です!」

と、挨拶したティンバは、額に若干汗を浮かべていて、システム開発部の多忙な身の同士、心から「お疲れ様です!今日は貴重な時間を頂いてありがとうございます」と、僕は言った。


銀座の街並みを歩きながら話していると、ティンバのスマホは1分おきにピコピコと通知を知らせているので気になってしまい「沖縄からのパワーストーンセレクト依頼ですか?」と尋ねると

「アキラさんすみません!ちょっと本店に電話します」と言いティンバは本店へ電話をかけた。


ティンバは少しイライラした様子で「クライアントさんの5シークレットを教えて!」と、告げると、眉間にしわを寄せて、真剣な眼差しで「この場合は、クライアントさんの押しが必要だからガーネットをお勧めしたい。あとナンバーを入れるかは好みがあるからそっちで聴いて。」と言い電話を切ろうとしたが、思い出したように「在庫がなかったら、また連絡して!ヨロピコー」とユーモアたっぷりのセリフを吐き通話を終わらせた。


「沖縄からですか?」


「えぇ。さっきも言った通り最近からパワーストーンのセレクトもやらさせて貰ってるので。頭が爆発しそうですけど、奥が深くて楽しいです。」


「ガーネットは、恋愛の石ですか?」


「ガーネットだから恋愛とか一概には言えないけれど、一応恋愛成就のストーンとしてお出ししています。」


黒い石に観えるけどワインのような深みのある紅い石がガーネット。光に照らすと中心部には葡萄酒を凍らせて砕いた様な味わい深い模様が観える。恋愛において後一歩の勇気が必要な時にこそ持って貰いたい石のようだ。


「アキラさんは宮沢賢治がお好きだったと聴きましたが、僕も子供の頃に銀河鉄道の夜を観て影響を受けました。大人になってから気づいただけですけど。まぁ、僕はFF7のせいでクリスタルが大好きになってしまい、気づいたら占い師になってた感じです。」


人は同じような体験談を聞くと親近感が沸き、徐々に好きになっていく。

アキラはティンバとの間にあった距離感が少しだけ溶けた気がした。ティンバは熊野古道、高野山、空海の伝説の謎を探求するスピリチュアルツアーが開催されていることを紹介してくれた。密教系のスピリチュアルツアーは少しだけ怖い気もするけど機会があれば全国のパワースポット巡りをしてみたいものだ。


「もしも、宮沢賢治の世界観を深めたいならば、沖縄県に行ってみるのもお勧めですよ!」

子供のような瞳でワクワクした体験談を語るティンバ。

そのしわくしゃにしたティンバの笑顔はアキラにとってとても可愛らしく観えて、愛されキャラのパーソナル匠(たくみ)とアメリカンジョークを飛ばすノリの良さに、黄色のエネルギーを感じた。

3世代前のルーツを遡って探求してみることが自分自身を知るヒントになることと、全ての夢に繋がっている、というティンバの主張を聞いてアキラはこの人だったら間違いない、と沖縄行きを決めた。

なぜならば、アキラの母親の故郷は、琉球に眠りし姫の伝説があり、もしも、マスカケ線を持つ自分自身の強運が真実であるとするならば、宮沢賢治の持つ『827』と『法華経』の謎を解き明かせるヒントがあるはずだ!とやがてくるかもしれないソウルメイトとの大恋愛に心を熱くした。

ティンバとの夜は短い時間だったしすぐにクライアントさんの待ち合わせ場所でるアイリッシュパブへと消えていったが、アキラにとっては言葉にはできないほどのドキドキ感を覚えたのである。

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