第一章 累編~金魚屋の居候~
第1話 ようこそ金魚屋へ!
「
「違います。左前です。そろそろ覚えて下さいよ」
とっくに成人済みの累は十歳ばかりの少年に世話を焼かれていた。
スマートフォン世代で趣味弟の累は浴衣を着せてもらった事はあれども着物なんて、ましてや自分で着付けなんてした事もない。やれ中心がずれてる、やれ帯が緩んでるだのと着替える度にどこかを直される。
「そんな事よりさ、この真っ赤な着物どうにかなんない?」
「えー。金魚の侍みたいでかっこいいですよ」
「なんだそりゃ」
ここは《金魚屋》。
累は狐面の男とやりあったあの後からここに居候をしている。
「金魚すくいとは面白い事を言う。ならチャンスをやろう」
「チャンス?」
「金魚をすくって来い。そうすれば弟を返してやる」
そう言って面白そうに笑うと、狐面の男はこの巨大水槽のような場所から出て一軒の店に累を連れて行った。
そこは真っ赤な暖簾のかかった木造の一軒家だった。大きな大八車が一台停めてあり、それには小さな金魚が押し込まれた大量の水槽が積まれていた。両手で抱えられるかも怪しいほど大きい金魚鉢もあり、その大きさに相応しくまるまるとした金魚が独占にしてる。しかしどれも生き物とは思えないほどきらきらと輝いていて、まるで生きたパトライトのように見える。
金魚屋というからにはこれを売るのだろうか。けれど累は赤い光で突き刺してくる姿がなんだか気持ち悪かった。
そんな累の気持ちを他所に、男はずかずかと店内へ入り一人の少年を引っ張り出してきた。少年は累を見つけるや否や、わあい、と両手を上げて飛び跳ねた。
「ようこそ金魚屋へ!待ってましたよ!」
「え?もう俺達の事知ってるのか?」
「いいえ。誰ですかあなた?あ、僕は金魚屋当主の依都です」
「……あ?」
「これは金魚屋の定型句で意味はない。依都。こちらは跡取り殿の兄君だ」
依都はぴゃっと飛び上がり、星がこぼれているのじゃ無いかと思うほどに目を煌めかせた。わあ、と嬉しそうに累の周りを飛び跳ねる。
黒狐はよしよしと依都の頭を撫でたらくるりと背を向け店を出てしまった。
「待てよ!結はどこにいるんだ!」
「魂が回復したら教えてやる。それまでにこの世界を学んでおけ」
それじゃ、と言って大八車の横を通って小径に入り、累はそれを追いかけたけれどまるで誰もいなかったかのようにその姿は消えていた。
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