第157話 素直な好意は隠しきれるものではない・・・・というか、隠そうとする気も起きないらしい

 職場でね。

 今の直属の上司とは、わたしは全く考えが合わないんだな。

 (考えが合う人なんて、いるのかなぁ?聞いたこと無いけど)

 合わないというか。

 上司が何考えているか分からないし、何を目指しているかも分からないし。

 言葉では●●を目指す!

 って言っていたはずだけど、まるで違う方向(というか、真逆?)に向かって行動しているようにしか見えないし。

 なにしろ。

 我らの現状(というか、窮状?)を親身になって一緒に考えてくれる姿勢が全く見られない。


 伝えるべき事は伝えたから。

 あとよろしく。


 的な?


 それは管理職のあなたの仕事であって、平社員の我らの仕事じゃないと思うんだけど?


 と思うことも、平気で放り投げる。

 気がする。

 

 本当は違うのかもしれない。

 本当は、わたしが思うよりは、考えてくれているのかもしれない。

 でも、わたし達には一ミリも、それが伝わってこない・・・・残念ながら。


 でもね。


 前の上司がもう、その真逆の上司で。

 まず。

 異動したてで我らの職場に赴任されてきた時には、分からないこと、疑問に思われた事は、必ず確認してくださった。

 ご自身で、なんとか早めに職場の状況を把握しようと、努めてくださった。

 そのうえで。

 業務のピーク時には、必ず残業している社員達に気遣いの声を掛けてくださった。

 そりゃ、上司だからって、何でもかんでも問題を解決できるなんて、わたしだって思ってはいない。

 だけど。

 少なくとも、話を聞こう、問題を少しでも解決できる糸口を、一緒に見つけよう、そういう姿勢がひしひしと感じられる方だった。

 異動によって我らの上司では無くなってしまった後だって、お近くまでいらした際には様子を見に顔を見せてくださる。

 そんな素敵な上司。

 我らの職場の人間で、あの上司を嫌いな人などひとりもいないだろう。

 その証拠に、元上司が職場にいらした時には、場の雰囲気がガラリと変わる。

 どんなに疲れ果てていても、みんなの顔が笑顔になる。


 まぁ・・・・

 言いたかないが。

 現上司とのあまりの違いで、もしかしたら、前上司の素晴らしさが相対的に押し上げられてしまっている、という可能性も考えられはするけれど。

 底上げなんて無くたって、前上司は素晴らしい上司だってことは、みんなが分かっていることだから。


 で。

 先日の話。


 もう、本当に疲れ果ててうんざりして、別室での作業を終えて自席へ戻る途中。

 どこかで見たような後ろ姿が、わたしの少し前を歩いていた。


 誰、かなぁ?


 ぼんやりと思っているわたしの前で、その人が振り向く。


 とたん。


 もう。

 アニメの世界のように、背景がキラキラ輝いたよ!

 なんなら、たくさんの薔薇だって背負っちゃってるよ!

 だって、その人は、みんな大好き前上司だったのだから♪


 お互いにマスクをしていたけれども、前上司の目元がものすごく優しく笑ったのが見えて、わたしも思わず満面の笑顔になってしまった。

 自分でも、ビックリするくらいにテンションがダダ上がりなのが分かる。


「あぁ、平さん!元気?あれ?雰囲気変わった?髪型、かな?」

「お陰様でなんとかやっています!そうですね、髪は切りました。ふふふっ♡」


 声まで、ワントーン上がっていて。

 我ながら、好意がダダ漏れ!

 もちろん、恋愛的な好意ではないですよ?

 でもほんと、面白いなあって思った。


 元上司は、我らのお隣の部署に用があったらしく、


「あとでそちらにも顔出すから」


 っておっしゃったもんだから。

 わたしは走って自分の席に戻って、みんなに


「●●さん、来てるよっ!あとで顔見せてくれるって♪」


 とお知らせしたのでした。

 それはもう、みんなのテンションもダダ上がり(笑)

 わかる、わかるよ。

 嬉しいよねー、やっぱり!

 ちなみに。

 その時現上司はどっか行ってていませんでした。

 あーよかった♪



 我らの部署の一人が、現上司のさらに上の人間から


「前の上司と今の上司の何がそんなに違うの?」


 と聞かれたらしい。

 聞かれた人は


「全部です。何から何まで、全部」


 と答えたとか(笑)

 そんな事も分からないなんて・・・・ね。

 上層部の人間にも、がっかりだよ。

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