第125話 切ないけれど幸せな束縛

 わたしは、動物は好きな方です。

 過去にわたしに危害を加えた動物は嫌いですが(笑)。

 それは、モルモット。

 小学校で飼っていたモルモットに、指を噛まれたんですよねぇ。

 それ以来、モルモットは嫌いです。


 でも、たいていの動物は好きなんじゃないかと。

 実際に触れたり抱いたりしてきた動物の種類は、そんなには多くないと思うのですけど。

 犬、猫、ウサギ、シマリス、ハムスター、ハツカネズミ、インコ、カピバラ、豚、羊、アルパカ、ヤギ、牛、馬、鹿・・・・くらいかなぁ?

 思いつくままに挙げてみたら。

 残念ながら、猫はアレルギー体質になってしまったので、あんまり触れ合えなくなってしまったのだけどね。

 ・・・・ほんと、残念。

 大好きなんだけど、な。


 わたしが物心つく前から物心つき始めた時くらいの間、インコを飼っていた記憶があって。本当に、ぼんやりした記憶。名前も覚えていないくらいの。

 だから、申し訳無いのだけど、思い入れは全く無いの。

 ごめんね、インコ。


 次に飼ったのが、犬。

 子供によくあるお決まりの

「絶対にお世話はわたしがするからっ!」

 と強請りに強請って、確かわたしのお誕生日に家族に迎え入れたんだった。

 当時、【南極物語】という映画を知ったわたしは、その映画に出て来る犬から名前を取ったのよね。なんて単純な。

 仮にここでは『クマ』としよう。実際は違うけど。

 でも、出てたんだよ、南極物語にも『クマ』って。

『風連のクマ』って名前だったと思う。

 ・・・・女の子なんだけどね、うちのクマは。


 クマはね、飼い主の欲目を差し置いても、毛並みの美しい犬で、頭もめちゃくちゃに良かった。

 おトイレもすぐ覚えたし。

 お手とかお代わりとかも、オヤツ無しで言葉の指示だけで覚えたコ。

 結局、まだまだガキんちょだったわたしに『お世話』なんてできるはずもなく、母が全部クマのお世話をしていたんだけどね。

 だってほら、わたし自身がまだまだ『お世話』されているようなガキんちょだったから(笑)。クマを飼い始めた当時は、まだ悪さばっかりしてよく怒られていた時期でもあったし。

 クマは無駄吠えもしないで、1人(一匹)で静かにオモチャで遊んでいるような、全く手のかからないコだったな。

 なんなら、クマの方がよっぽど『お姉さん』な感じ。

 わたしが怒られてシュンとしていると、いつの間にかそっと側に来て寄り添っていてくれるような。

 わたし達は、姉妹みたいに育ったんだ。


 そんなクマが突然逝ってしまったのは、わたしが大学卒業の年の年末だったな。

 具合が悪そうで、動物病院に連れて行ったら、そのまま入院。

 その時、危ないかも、なんて言葉は獣医の先生からは聞いてなかったんだけど、何故かわたしはもう、それが最期のようなイヤな予感がしていて。

 結局、その日を越して数時間後の夜中に、クマは逝ってしまった。

 もう20歳を超えた大人だったのに、わたしはそれを受け入れられなくて、なんだか怖くて、動物病院にお迎えにも行けなくて、お迎えは両親が行ってくれたのだけど。

 帰って来たクマとその日は一日中一緒に居たなぁ。

 隣で寝たりして。

 もう、クマは起きないんだけど。

 一緒に寝たら、一緒に起きてくれるような気がして。

 または。

 一緒に寝たら、わたしも連れて逝ってくれるような気がして。

 でも実際はそんなこと、もちろんなくて。

 わたしは半身を失くした感じだった。


 クマがいなくなって1年と少し過ぎた頃だったかな。

 母のペットロスがわたしなんかよりずっと酷くて。

 また、犬を飼ったの。

 犬種は違うんだけど、色合いとか見た目がクマと似ていて。

 飼い主の欲目を差し置いても、その犬種として均整の取れたバランスの良い体つき。

 大きな耳と大きな目が、とんでもなく愛らしくて。


 ・・・・ところが、中身は大違い!


 いつまで経ってもヤンチャで手が掛かって、構ってちゃんだし覚えは悪いし。

 トイレを教えたのに、トイレを失敗して怒られるたびにトイレで不貞寝していたせいか、トイレを寝床だと覚えてしまったり(笑)。

 ほんと、おかしなコ。

 人間みたいに表情豊かで、その表情に何度爆笑したことか。

 色々な意味を込めて名前を付けたのだけど、ここでは『サチ』としましょうかね。

 この頃にはわたしもいい加減大人で、両親は比例して年を取っていて。

 なんていうか。

 サチはわたしの子供みたいな感じ。両親にとっては、孫だよね。

 だからかなぁ?

 クマにはあんなに厳しく躾をしていた両親が、サチには呆れるくらいに激アマ。

 対してわたしは、めっちゃ厳しくサチを躾ていたりして。


 ・・・・クマもわたしも、両親にはほんと、厳しく躾られたのにねぇ?

 ずるいよね、クマ。


 なんて、クマの骨が入った骨壺に、時々文句を言ったりして(笑)。


 クマとはもう全然違う、手がかかって仕方がないコ。

 でも、そんなサチは、失くなってしまったわたしの半身を、埋めてくれたような気がする。

 母のペットロスも、解消してくれたし。

 サチのお陰で、母は元気を取り戻して生き生きとしていたな。

 なんたって、元気じゃないと、サチの世話はできないから。

 クマの3倍は手がかかるコだったからね、いつまで経っても!


 でも、サチは晩年色々と病気をして、何度も手術を繰り返して。

 だからね。

 少しずつ少しずつ、わたし達家族も、心の準備が出来ていたように思う。

 もちろん、サチにはずっと元気で長生きしてほしかったけど。

 それでも、永遠に生き続ける事なんてできはしないって分かっていたし。

 サチを看取るのは、我々だろうなと、覚悟はできていたから。

 クマの時みたいに、突然すぎて、ぽっかり心に穴が開く事は、無かったんだ。

 サチが、逝ってしまった時も。


 サチを看取ったのは、両親だった。

 動物病院の酸素室で、苦しそうに息をしていたサチの呼吸が、少しずつ穏やかになっていって。

 最期は本当に穏やかな顔をしていたらしい。

 わたしはね。

 サチが逝ってしまうことを前提に仕事を休むなんて、いやだったから。

 サチはまだ頑張って生きてくれるはずだって、信じてたから。

 その日も、仕事に行ったんだ。

 ・・・・父から電話を貰って急いで病院に向かったんだけど、間に合わなかった。

 でも、後悔はしてないよ。

 サチは充分頑張った。

 わたしはサチの生きる力を信じた。だけど少しだけ足りなくて、少しだけ間に合わなかった

 ただ、それだけ。


 クマがいなくなって空いた心の穴はサチが埋めてくれていった。

 だからもう、わたしの心に穴は開いていない。

 だけど。

 わたしの中には、いまでもクマとサチがいて、ダントツに一番可愛くて愛しくて。

 他の犬を見ても、可愛いとか、触りたいとか、抱きしめたいとか。

 思わないんだ。

 あ、ちょっとね。ちょっとだけ、ね。

 普通に「可愛いな」って思う時は、あるよ?

 でも「クマとサチには敵わないけど」って、思うの(笑)。

 それはもう、絶対に敵わないの、どんなコも。

 これからもずっと。


 ちょっと「可愛いな」って思うと、とたんにクマとサチが思い浮かぶ。

 これって、わたしの中のクマとサチが、嫉妬してるってことかな?(笑)

 クマはそうでもなかったけど(多分)、サチは結構ヤキモチやきやさんでねぇ。

 友人から借りた『シーマン』というゲームをしている時に、画面に向かって『シーマン』って何度も呼びかけるんだけど、それを何か自分以外の他のコを可愛がっているのだと勘違いしたのだか、精神的に落ち込んじゃって、お腹を壊したくらいのコだから(^^;)


 わたしが他の犬をもうそれほど可愛がれないのは、クマとサチの嫉妬のせいだとすると。

 これってかなりの束縛だよね。

 でもね。

 いいんだ。

 もう会えないコ達の束縛は、それは切ないけれども。

 これはわたしにとって、ものすごく幸せな束縛でもあるから。


 今家にある、クマとサチの骨壺は。

 両親かわたしがお墓に入る時に、一緒にお墓に入ることになってる。

 そのために(これだけが理由ではないけど)、もともとあったお墓を墓じまいして、ペットOKな納骨堂に移したんだ。

 クマもサチも、何故か他の犬が好きじゃなかったからさ、ペット霊園とかで他の犬と一緒になるのは嫌がるだろうし。

 わたしたちずっと、一緒がいいよね♪

 だからずっと、一緒だよ(*^-^*)

 

 問題は、クマとサチの相性だな。

 クマは大人だしサチはガキんちょすぎるから、ケンカにもならないとは思うけども・・・・

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