第30話 『忘れる』って、才能だよ?だって

最初にお断りします。

これは、私の言葉ではないです。

私の大好きな、魔法使いの彼のことば(笑)。


確かに。

『忘れる』も才能だと思う。

彼はこうも言ってたな。

『世の中、いいことばかりじゃないしさ』

って。


忘れたくても忘れられないイヤな思い出もある。

辛い思い出もある。

でも。

びっくりするほど完全に抜け落ちている、忘れたいと願った思い出も、ある。

なんだろう、この違いは?


忘れたくても忘れられない思い出って、実はその思い出が自分にとって必要なんだって、心のどこかで思っていたりするものなんじゃないかな。

それか。

まだ自分の中で完全に決着がつけられていない思い出とか。

私が、びっくりするほどきれいさっぱり完全に記憶から抹消されている思い出は、まぁ、言ってみれば、苦い恋愛の思い出。

私の中では完全に決着がついているし、この先自分に必要な思い出とは思えない。

一応ね。

相手の名前も顔も覚えてるよ?

でも。

色んな所に一緒に行って、色んなことを一緒にしたはずなのに、全然思い出せない。

その時その彼がどんな顔をしていたか、どんなことを話していたか。

どんな服を来て、どんな風に笑っていたか。

私は彼に、何を話して、どんな風に接していたか。

全くと言っていいほど、思い出せない。

たくさん繋いだはずの手の形も、もう、全然。

別れた時には既に、私の過去から消し去りたいって強く思ったのは事実だし、かなり酷い別れ方をしたのも事実。

でも、こんなにきれいさっぱり、忘れるものかねぇ・・・・?

共通の知人がいるから、その知人を通して、相手の近況はたまに耳にはするけど、聞いたところで何とも思わない。

これまた、びっくりするくらい、何とも思わない。

聞きたくない!

とも。

ああ、そうなんだ、元気でやってるんだ、良かった。

とも。

全然思わない。


ふ~ん。


それだけ。

まるで、何の関係も無い他人の話を聞いているような感覚。

・・・・私、冷たいのか?

とも思うけど。

これはまさに、『忘れる』という才能が、遺憾なく発揮された結果ではなかろうか。

だって、さ。

その彼より前の彼の記憶は、ちゃんとあるしさ。

・・・・それだって、ちょっと悔しい気持ちが残る恋愛だったけど、でも、私には必要な思い出だとも思う。

だから、未だに忘れないんじゃないかなぁと。


恋愛に限ったことじゃなくて。

私、5歳以前の記憶が全然無い。

ま、小さい頃の記憶なんて、無くて当たり前だよね、って思ってたら、周りの人意外と記憶があって、びっくり。

みんな、5歳以前の事も、ちゃんと覚えているものなの?!

だとすると。

私の5歳以前の記憶も、『忘れる』という才能によって、抹消されたのかもしれないねぇ。

ま、困る事は無いからいいけどさ。


この、『忘れる』という才能。

自由自在に発揮できないところが、残念だね。

忘れたくないものにまで、発動されちゃうこともあるし。

せっかく覚えた英単語とか。

せっかく思いついたネタとか(笑)。

自由自在に発揮できても、それはそれで困るのかな?

衝動的に『忘れろっ!』って思って消した思い出が、実はとっても大事な思い出だったりすると、もう二度と思い出せなくなってしまうから。

それでもさ。

辛すぎる、悲しすぎる思い出は、『忘れたい』って思ってしまうよね。

それがもしかしたら、自分に必要な思い出だとしても。

まったく、うまくいかないもんだな。

『忘れる』っていう才能は。

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