第5話 気の利いた言葉より 心からの言葉

卒業の時。

クラスの全員がそれぞれ全員に宛てて、寄せ書きみたいなものを書いた。

今でも、持っている。


あるクラスメイトが書いてくれた言葉が、まんま「詩」のようで。

言葉のチョイスというか、センスの良さというか。

すごいな、と思った。

おまけに、その子は全員に宛てて、同じように「詩」の形で全く違う言葉を贈っていたらしい。

その人のイメージに合うような言葉を。

頭もよくて、フワフワした感じの、可愛い人。

そんで、こんな素敵な言葉を贈ることもできちゃうんだ。

天は二物も三物も与えるのだね。

すごく、彼女が羨ましかった。

彼女になりたいなぁ、と思った。

・・・そういう意味の「彼女」ではなくて、「彼女自身」になりたいって。

彼女になりたい、じゃなくて、彼女になりたいって。


もちろん、彼女になんかなれる訳ないし、彼女みたいにすらなれず、今に至っている訳で。


色々とね。

細々とではあったけど。

日々、言葉を使って文章を書いているにも関わらず。

いざという時に、気の利いた言葉のひとつも出てこない事ばかりで、結構落ち込んでた期間があった。

情けないやら、悔しいやら。

一応は文章書きのクセに、何やって来たんだろうなぁ、自分、て。

彼女ならきっと、こんな時だって、素敵な言葉を贈ってあげられるんだろうになぁ、って。

でも、できないんだよ、私には。

もう、ぜんっぜん。全く。

茶かす言葉なら、いくらでも出てくるのに。

気遣うとか。励ますとか。元気づけるとか。

もう、全く、出てこないの。

語彙力無いなぁ、センス無いなぁって。毎度毎度落ち込んで。

言葉を選び過ぎて、思ってる事すら、伝わらなくなっちゃった。

何言いたいの、これ?みたいな。


本末転倒も、いいとこだよねぇ。

いくら気が利いた言葉だったとしても、相手に自分の思いが伝わらないなら、何の意味も無いじゃないか。


それにやっと気づいてからは、別に月並みでもいいから、自分が思った事や伝えたいことを素直に伝える事にした。

それが、センスの良い気の利いた言葉にできるなら、それに越したことは無いんだけど。残念ながら、私にはどう足掻いても無理だから。

ストレートに素直に伝える。

それが私の伝え方なんだなぁって、思った。

随分時間が掛かっちゃったけど。


・・・・って。

簡単に言うけど。

これはこれで、結構難しくてねぇ。

素直に伝えるって、照れくさい事もあるんだよね、たくさん。

でも。

本当に伝えなくちゃいけない時は。

伝えたいと思った時は。

ちゃんと伝えないと、ね。

伝えられるうちに。

時間は有限だから、ねぇ。

悔いの無いように。


…これまた、難しいんだよねぇ…




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