クレーマー

 僕はラーメン屋でアルバイトをしている。この店はお昼時でも数人しか客を相手にする必要がないので学生の僕には割の良い仕事だと思う。


「おい! どうなってるんじゃ!?」


 カウンター席から聞き慣れた怒声が店内に響き渡る。

 またか……。

 見ると老人が顔を真っ赤にしている。

 慌てて店長が厨房から顔を出すとその客は目の前に置かれたラーメンを指差す。


「こんな太い麺食えるか! ワシは細麺がいいんじゃ! それにスープもなんじゃこれは! 前来た時よりも不味くなっとるぞ! 油がキツイんじゃ!」


 どうやらクレームのようだ。まあ、飲食店では珍しいことでもない。

 こう言う時、面に立って僕たちアルバイトを守ってくれる店長には感謝しないとな……。


「申し訳ございません……。お代は結構ですので……」

「バカモンが! ワシはタダで飯を喰いに来たわけじゃないわ!」


 そう言って、老人は代金を払うと店を出て行った。

 あのお客さん毎日のように来店してるけど文句を言って帰るから厄介者認定されてるんだよな……。はぁ……。あのおじいさん早くいなくなってくれないかな……。


 そんなことを考えていた矢先、あの老人はピタリと店に来なくなった。

 亡くなったという噂がバイトの間で囁かれていた。




 その数ヶ月後、バイト先の店は潰れた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る