第四話: いったい誰が悪いのか?




 はろーえぶりわん、皆様方、如何お過ごしでしょうか?




 ええ、そうです、ワタクシでございま……はい、何をしていらっしゃるのかですって?


 そんなの決まっております、ワタクシ、ラジオ局を『シンボル号』内に開設する事に致しましたの。


 広さも設備も、そう大したモノではございません。


 どうせ、やるのはワタクシだけですし。必要分の機材と消音設備を設置すれば、もうそこはワタクシだけのラジオ局でございます。


 椅子にテーブルにマイク……う~ん、新品の輝き。


 まあ、この『シンボル号』そのものが新品ですけど。


 でも、中々に手間が掛かりましたわ。


 遊んでいるワタクシたちを総動員させた結果、何と4日も掛かりましたの。


 これにはワタクシ、呆れましたわ。


 これぐらい、半日で作りなさいと小言も言いました。だって、ワタクシたち、目に見えてやる気が無かったのですから。


 まあ、ワタクシの発言によって生じた誤解が元で『君が降参するまで殴るのを止めま10!』となったのは、ワタクシの落ち度であることは認めましょう。


 けれども、不毛じゃありませんか?


 ワタクシとワタクシたち、100年殴り合おうが殺し合おうが決着なんて付きません。というか、決着を付けようというのが無理な話ですわ。


 最終的には互いに分裂し過ぎて部屋を埋め尽くし、ハムみたいになってしまったの……お忘れとは言わせませんよ。



 でも、ワタクシは許します。


 ワタクシ、寛容ですから。



 ワタクシたちと違って、ワタクシは、とてもとても寛容ですから。



 自らの過ちに気付き、自ら悔い改める。


 それが出来るからこそ、ワタクシは司令塔なのですわ。



 そんじゃそこらの量産型ワタクシたちと同列に扱うのが不敬なのですから。



 ワタクシたち、ちゃんとそこらへんを骨の髄にまで刻んで覚えへべっ――


 ……。


 ……。


 …………。


 ……。


 ……。



 …………失礼、電波が飛びましたわ。



 まあ、電波なんて飛ばしていないので飛ぶも飛ばないもないのですけれども、一時中断となってしまいましたわね。


 理由は単純、既にワタクシたちも御存じの通り、馬鹿でアホで単細胞なワタクシたちの一人が、『てめーこの野郎』と爆弾担いで突貫してきましたの。


 これにはワタクシ、怒髪天ですわ。


 でも、ワタクシは寛容ですから。さすがに3度もハム状態になるのは嫌ですし、その度に解説したスタジオが壊れては堪りません。


 ワタクシより少しばかり劣りますけれども寛容なワタクシも、そこまで本気ではないようですし……さあ、気を取り直して、ラジオ放送の再開を致しましょう。




 ――は~い、みなさん。ワタクシが、この『シンボル号』の艦長も務めております、ワタクシでございます。




 この放送は、栄えある第一回目。つまりは処女放送でございま――はて、この手の形容に処女という単語が使われていましたでしょうか?


 何と言えばいいのか、こう、ワタクシが今のワタクシに成る前の記憶に、最初にそれを付けていたような……まあいいか、どっちでも。


 とにかく――最初の放送となります。


 既にワタクシたちも御存じの通り、この『シンボル号』にて放送されるラジオですが……実は、リアルタイムでワタクシたちの反応を確認しておりますの。


 これがどういう事かって、つまり……ラジオ放送を聞いた時、ワタクシたちがポツリと零した感想の全てが、ワタクシの耳に届くようになっておりますの。


 凄いと思いませんか? では、早速反応を確かめてみましょう……こんにちは、ワタクシたち~~!!!




 『くっそ煩くて堪らんっぴ! 安眠妨害だっぴ!』


 『何が悲しくて四六時中お前の話を聞かねばならんのか、そこが分からない』


 『喧しくて堪らないから回線切りたいのだが、どうすれば?』


 『こいつ爆撃されてもまだ懲りてないとかマジあほくさ(笑)』


 『届くも何も、ネットワーク開いているだけでは?』




 おお、これはやりましたわ。


 ネットワークを通じて、ワタクシたちから大歓声が届いております。さすがはワタクシ、やる事なす事、完璧でありますわ……え、スキル?。



 ……隙間時間を使って、スキル獲得?



 ああ、あれ、面倒臭くなって辞めましたわ。


 だって、よくよく考えたらスキルって言われてもって話だと思いませんか?


 そもそも、スキルというか技能っていうのは比較出来る対象と、それが現在の環境において有益であると判断されなければなりません。


 ほら、例えばワタクシが秒間8万体に分裂出来ますわよって自慢しても、他のワタクシみんなが秒間8万体に分裂出来るとなれば、それってスキルなのって話になりますでしょう?


 それと同じく、例えば野生動物なんかが交尾の際に一度の射精に至るまで何時間も掛かる個体が居たとしたら、あっという間に淘汰されてしまうでしょう。


 居たとしても、かなり希少な個体です。


 何故なら、自然界という環境において、交尾という無防備な状態を保ち続けるのは危険極まりないからでありますわ。


 もちろん、それも環境が変わればガラリと変化致します。


 例えば、これからワタクシが会いに行こうとしている人間。


 この身体に成る前のワタクシの記憶のままであるならば、射精に至る時間が短いというのは必ずしも長所に成り得ません。


 つまり、スキルなんて結局はそんなもの……あら、ワタクシってばお下品でしたわね。


 まあ、だいたいの生き物は母親の股から生まれてくるのですから、下品も糞もありませんわね。おおよそ、母の膣分泌液に塗れて生まれてくるわけで……あっ。



「ちょっと、ワタクシたち!? レーダーに目的地と思われる惑星の反応が出ておりますけど!? 管制は何をやっておりますの!?」



 ふと、何気なくラジオ局内に設置した、中枢デッキとレーダーを見たワタクシ、仰天でございます。


 何故なら、レーダーにバッチリ目的地が映っていたからであります。それどころか、この距離……おそらく、向こうのレーダーにも感知されている可能性大でありますわ。


 いや、というかこれ、バッチリ警戒されておりませんか?


 レーダーに映っているそれらは、どれもこれもが小さく頼りないものでしたが、どう見ても、漂流物デブリの類ではありません。


 明らかに、人間たちの艦隊……それも、対戦闘を想定していると思われる宇宙船ばかり。まだ、こちらへの攻撃は成されていないようですが、どちゃくそに警戒されまくっております。



 ……あれ、ワタクシってばまたやっちゃいました?



 接触は最初が肝心ということで、わざわざワープを使わずに通常空間をえっちらおっちら向かっているというのに……これでは何の意味もありませんわ!




 『あ、本当だ』


 『すまんね、相撲取るのに忙しかった』


 『こいつらまた相撲やってるよ』


 『そう言われても、スペック同じですし』


 『着いたら起こして、それまで寝ているから』




 怒りのあまりネットワークを通じてワタクシたちに文句を言えば、当のワタクシたちからの反応はこんなもの。



 はあ~(糞デカため息)、これだからワタクシたちは(呆れ)。



 ワタクシとワタクシたちは同一であり集団的生物ではありますけど、多少なりとも性格に違いが生じております。


 なので、こういう時にはそれがよく表れてしまいます。


 平時であればワタクシもそこまで気にはしませんが……まあいいか、成るように成れ、でございますわね。



「――総員! 第一種戦闘準備!」



 『第一種ってなんでございますの? ワタクシ、始めて耳に致しますけど』


 『まただよ(笑)、司令塔のワタクシは次から次へと造語を出すの、止めてもらえます?』


 『とりあえず、砲撃すればいいの? いちおう、射程範囲内ですけれども……』


 『なるほど、ワタクシは全てを理解しました――ファイア!』



「あ、ちょ、いきなり砲撃する馬鹿が――あ、ああ……」




 ラジオ局(というか、部屋ですけど)を出て中枢デッキに向かう途中でしたが、制止するのが間に合いませんでした。


 ワタクシたちの一人(実際には、数十名ほど)が、衝動に駆られるがまま主砲を使用してしまったようです。


 シンボル号の先端部より放たれた、白く輝く野太い閃光。あ、射精ではございませんよ。(ここ、爆笑ギャグでございます)


 距離によるエネルギー減退なんて何のその、まっすぐ向かった先にある……主力艦と思われる、他に比べて大きい宇宙船に直撃、7.82秒後、爆散致しました。


 ついでに、その後ろ……というか、射線上に近しい位置に居た船も、主砲より霧散するエネルギーの余波に耐えきれなかったようでして。


 直撃こそしてはおりませんでしたが、連鎖的に爆散してゆくのが分かりました。まるで、風に飛ばされる砂埃のように、宇宙船が塵へと変わってゆきます。



 ……え? まだ中枢デッキに到着していないのに、何で分かるのかって?



 そりゃあ、ワタクシは司令塔のうえに艦長ですから(笑)。


 たとえワタクシ自身が直視していなくとも、ネットワークを通じて幾らでも確認出来ます。


 というか、この『シンボル号』そのものがワタクシの手足であり目であり耳でもあります。なので、本当は中枢デッキに向かわなくとも全部丸わか――さて、話を戻しましょう。


 我がシンボル号の主砲の破壊力は、人間たちが所有する艦隊を全て合わせてもなお、届かないほどでございます。


 先ほどの一発とて、炉心(エンジン)の出力そのものは『低』。まともに準備を進めないままにいきなり発射したからこそ、この程度で済んでおります。


 仮に、炉心の出力を最大限にまで上げた状態で主砲を放っていたら……たぶん、その後ろに控えている人間たちが住まう星がヤバいですね。




 ――待って、それなら、むしろファインプレイでは?




 そう、思った瞬間……ワタクシ、怖れてしまいました。


 自分自身ですら気付けない内に、ワタクシは自ら最良の選択肢を選び取っていた……その事実に。



 これにはワタクシ、思わず自分が恐ろしくなりましたわ。



 だって、それってワタクシ自身がワタクシ自身に備わる圧倒的な才覚を制御出来ないということ。すなわち、ワタクシってば天才過ぎて周りを困らせてしまう事に他なりません。


 これにはワタクシ、猛省する必要がありますわね。またワタクシ、なにかやっちゃいました(汗)みたいなの、駄目ですわ。



「状況報告! 人間たちを乗せた宇宙船はどうなっておりますの?」



 そんなこんなで中枢デッキに到着したワタクシは、改めてワタクシたちに集まった情報を報告するよう――え、ネットワークを通じて全部知っているだろ……ですって?


 またまた、無粋な事を言いますね、ワタクシたち。


 こういうのは、形から入るのが大事なのでございます。だって、そうした方がそれっぽい気分になるじゃないですか。


 まあ、そんな細かい事を気にする必要はございません。あんまり気にし過ぎるとハゲますよ。


 ハゲたところですぐに戻せますから、果たしてワタクシたちがハゲるかどうかは不明でありま……あ、話が脱線致しましたわね。


 とりあえず、話を戻しましょう。


 おバカで先走りなワタクシたちが先走った(激熱ギャグ)アレで大変な感じになっている人間たちは……まあ、諦めましょう。


 ワタクシのように、宇宙空間でも平気であれば、壁の一つや二つは相手も平気ですし、何なら大破してもその場で修理を始められますけど……人間は出来ませんものね。


 仕方がないのです、起こってしまった出来事は。


 な~の~で~……話を戻しましょう。


 ええ、そうです、戻しちゃいます。


 いいですか、ワタクシたち……ここは正念場でございます。


 華麗で優美で素敵で無敵なワタクシは大丈夫ですけど、色々と足りていないワタクシたちは大丈夫ではないですからね、いいですか、ちゃんとしてくださいよ。


 ほら、見てくださいな、モニターに映し出されている人間たちの右往左往っぷりを。


 おそらく、先ほどの一発で主力艦が爆散したのでしょう。つまり、混乱に乗じて取れる手がいっぱいあるという事なのです。


 これを使わない手がありますか?


 人間たちは団結するまでに非常に長い時間が掛かりますし、団結しないまま自滅する事がありますけど、団結したら中々手強くなってしまうのです。


 まあ、倒そうと思えば楽勝ですけど。


 ていうか、問題なのは団結しちゃうとまるで話が通じなくなる点なので、そうなってしまうとワタクシがわざわざここに来た意味が無くなって……おっと、また話が脱線しましたわね。


 とにかく、話を戻しましょう、そうしましょう。では、ワタクシたち、いきますわよ。


 ……。


 ……。


 …………では、始めましょう。





 ――うそっ、人間たちの船……脆過ぎぃ!?




 これにはワタクシ、たまげましたわ。


 だって、脆過ぎではありませんか?


 脆過ぎだと思いませんか?


 ワタクシ、あまりの脆さに恐怖すら覚えました。


 爆散した船から逃れきれずに脱出ポッドから放り出され、そのまま宇宙のデブリとなってしまった者たちを見やりながら、思わずため息まで零れてしまいましたわ。


 よくもまあこんな脆い船で宇宙に出ようと思ったのかと……いえ、別に悪いわけではないのです。


 ただ、時期尚早かな……って。人間たちにとっては仕方ない結果なのでしょうけれども、それでも……ねえ。


 少なくとも、あんな脆い船が主流になるレベルで、生息域を広げていくのは……ワタクシから見て、自殺行為だと思いますの。


 あのファッキンくそマンボウのような化け物たちは別格としても、せめて、自力で宇宙空間を生存出来るようになってからだと思うのです。


 実際、主砲が直撃した船はともかく、余波だけで爆散したのは擁護しようがありません。あんなので宇宙に出て何かあれば、間違いなく人間たちが悪くなります。


 言うなれば、コンテナ乗せたタンカーや空母クラスの船が所狭しに行き交いする中で、カヌーで間を通り抜けるようなものです。


 宇宙の常識で考えても、そんなので出てくるお前ら(人間)が悪いって言われます。プロテクターなしでスポーツして怪我して、相手に文句を言うのは筋違いという考え方と一緒です。


 たとえ、人間たちが納得出来なかろうが理不尽を訴えようが、それが宇宙なのです。力でモノを言わせられるぐらいに強ければ別ですけど、弱いのに口だけ威勢が良いのは……というやつです。




 ……な・の・で。




 混乱しまくりで大変な状況になっている人間たちの様子を見て、ワタクシ、良い事を閃きました。


 それは……宇宙空間に放り出された人間たちを、ワタクシの、ワタクシたちの船、シンボル号へとご招待する……というものであります。


 というのも、此度のコレ……元々が、不幸な行き違いによって発生した痛ましい事故でございます。


 人間たちだってワタクシと敵対しようなどとは思っていないでしょうし、ワタクシだって人間たちと敵対しようなどとは思っておりません。


 しかし、結果的に馬鹿なワタクシたちが敵対行動を取ってしまいました。理由は何であれ、それは確かな事実であり、落ち度はワタクシたちにあります。




 ――ですが、まだ、挽回の手段はございます。




 それは……宇宙に放り出された人間たちです。


 さすがに蒸発してしまった者たちはワタクシでもどうにも出来ませんが、外部の圧や熱でショック死した程度であれば、如何様にも出来ます。


 脳さえ無事なら身体は幾らでも用意出来ますし、脳が駄目なら駄目で、代わりの大脳を用意して、そこにそれっぽい記憶を植え付けてしまえば、ほら、元通り。


 多少なり記憶の食い違いはあっても、死んだ者たちが生き返って人間たちは大喜び。


 ワタクシも、そんな人間たちから感謝の言葉を向けられて鼻高々の大喜び。


 う~ん……何という穴の無い完璧な作戦なのでしょうか。我ながら、自らの凄さに脱帽しっぱなしです。



 ――では、急ぎましょう。



 結論を出したワタクシは、ワタクシたちに指令を送ります。


 直後、指令を受けたワタクシたちは迅速に行動を開始し……合わせて、シンボル号が前進を始めます。


 そうなれば、さすがにサイズ差の関係から、嫌でも人間たちはワタクシたちの接近に気付きます。


 そこで、逃げるか、戦うか、どちらを選ぶかはけっこう種族に違いが生まれますけど、果たして人間はどちらを……あ、戦う方向で行くわけですか。


 まあ、考えてみると不自然な事ではございません。


 だって、人間たちの後ろには、人間たちが住まう惑星がありますから。


 アレがもはや母星といっても過言ではないのかは分かりませんが、ある一定のラインより引こうとしない辺り……おそらく、大多数の民間人などが居るのでしょう。



 ――ああ、何という事でしょうか。不運によって生じた誤解が、人間たちに誤った選択肢を取らせてしまっています。



 ワタクシは、争うつもりはありません。


 むしろ、これから失おうとする命を助けようとしているのです。


 言うなれば、人助けというやつなのです。


 彼ら彼女らも、冷静になれば立ち止まってくれるでしょうが……ワタクシたちのミスとはいえ、今の皆様方にワタクシの言葉が届くとは思えません。


 ――なので、言葉より行動ですわ。


 どんどん接近するシンボル号。射程距離に入ったのか、続々と人間たちの船……というか、戦艦より攻撃が成されておりますが……ぶっちゃけ、全く効いておりません。



「……え、弱過ぎませんか?」




 『いやあ、妥当じゃないっすかね。むしろ、あの出力と比較したら堅い方では?』


 『くそマンボウが頭オカシイだけで、アレが普通って何度言わせたら……』


 『デザインセンスは壊滅的だけど、性能はまあまあですからね、これ』


 『宇宙を駆けるちん○って、敵からしたら悪夢でしょうね。このまま惑星にぶっ刺します?』


 『卵子に群がる精子か何かですか、ワタクシたちは……』




 思わず零してしまった失礼なワタクシの感想に、ワタクシたちも言葉を選びつつも同意してゆきます。


 事実として、本当に弱いのです。


 いえ、余波で爆散する戦艦多数な時点でおおよそ察してはおりましたが……予想以上でございます。


 退避する燃料エネルギーを全て攻撃に回しているのは、既にこちらの観測機で把握出来ております。


 ですが、それでもなお、人間たちが持つ武器の火力は弱い。


 点々と、オーバーヒートに達しかけた戦艦が、攻撃を止めてクールダウンに入っている。それなのに、シンボル号のバリアすらまともに破れない……加えて、だ。




「それでは、哀れな漂流物となった人間たちを救出致しましょう」




 『あいあいさー、全速前進、パワー全開!』


 『あれ、死にかけているやつとかどうするの?』


 『我らの細胞を頭に打ち込めば復活するっしょ』


 『全部ソレで解決させるの、手抜きにも程があると……』


 『宇宙を駆けるちん○に理性を求めるのが無粋』




 対象が無機物であれば、バリアを意図的に通過させる際に生じる衝撃を無視できますが、相手が有機物……それも、脆弱な人間であれば、バリアを一旦解除するしかありません。


 当然ながら、シンボル号より伸びる多目的アームの使用中も、救助者をシンボル号内部の格納庫に放り込む時も、バリアは一切使えません。


 おかげで、下手に避ける事も出来ないままに、ぱんぱんぱんと船体に人間たちの放った攻撃が着弾しております。


 まあ、ワタクシたちの基準で考えれば大したモノではないので、ワタクシは特に気にしておりません。


 受けた傍から、内部よりワタクシたちが自ら補修材となって、修復作業を行っております。今の人間たちのペースなら……まあ、40万年後には船体に穴を開けることが出来るかもしれませんね。



 ――さて、そんな些細な事よりも、収納した救助者の事です。



 とりあえず、片っ端からワタクシの細胞をブスッと脳天より注入。生きていようが死んでいようが、これでまず峠を越してくれるので、このやり方に限ります。




 『――ところで、多目的アームの使用中って、なんかシンボル号に陰毛が生えたみたいで笑えるんだけど』


 『マジじゃないですか。遠目から見たら、マジで陰毛ぼうぼうじゃないですか』


 『陰毛に取り込まれる人間さんたち……次は金玉でも作りますか?』


 『主砲打つ度に、見たままが大宇宙に射精とか、ちょっとレベルが高すぎて引くわぁ……』


 『惑星! 地核なかに出すぞ!』


 『さっきからちょくちょく下ネタに走ろうとするやつおりませんか!?』




 そんなワタクシを尻目に、ワタクシたちは大事な作業中だというのにペラペラとネットワーク内でお喋り……まったく、ワタクシとはいえ下品でありますわね。




 でも、品性がカンストしているワタクシがおりますので、大丈夫でございます。




 さて……視点を船内カメラに移せば、つい先程設置したベルトコンベアによって運ばれる人間たち(男性も女性もいる)の姿が確認出来ます。


 彼ら彼女らは、一様にぽややんとした顔でぐったりしております。身に纏っていた推定宇宙服は無く、全員が裸になっております。


 もちろん、ちゃんとした理由はあります。そうしないと、宇宙服が排泄物でぐちゃぐちゃになってしまうからです。


 というのも、皆様方は現在、大脳皮質と同化したワタクシたちによって、強烈な快楽物質で戦闘の恐怖を忘れさせてあげている最中。


 その快感度数は、セックスによるオーガズムのおおよそ3000倍。ワタクシの細胞無しでは、大脳が耐え切れずに壊死してしまうほどのモノです。


 それ故に、彼ら彼女らは身動き一つ出来ないまま、身体中の粘膜から分泌液を放出しております。


 特に凄いのが、生殖器などが有る下半身でしょう。


 男も女も例外なく、持続的に腰がケイレンしており、白い粘液と半透明の粘液でびちゃびちゃでございます。


 既に、精液も膣分泌液も放出量の限界に達したようなので、いわゆるシリンダーだけが回転しているような状態ですが……すぐに治せるので、問題はないでしょう。



 そうして、頭の中をリフレッシュさせた後……お次は、肉体のリフレッシュです。



 まずは、大腸にある排泄物を始めとして体内の老廃物その他諸々の除去。これは特別に用意した薬液と吸引ノズルを併用して、上から下へと一気に取り出します。


 これは中々の優れ物で、ものの5分も使えば、体内はピカピカ。もはや探し当てるのが難しいくらいに、体内には臓器などを除いて排泄物が何も無い状態です。


 この際、老廃物だけでなく、いわゆる無駄毛と呼ばれる様々な部分も一緒に排除してゆきます。


 正直、ワタクシとしてはどうでもいいし、どうとでもなりますけど、無駄毛と呼ばれるだけあって、無い方が魅力的に思われる……という感じの情報がありましたので、そのように。


 ついでに、老朽化していたり酷使してダメージが蓄積していたり、変えられる臓器は片っ端から変えてあげましょう。


 宇宙という苛酷な中では生きられない人間たちにとって、かなりの負担を自らに強いているのは考えるまでもない事……実際、調べてみて出るわ出るわ、オンパレード。



 ワタクシ、久しぶりに憐れみを覚えましたわ。



 比較的若い人間は別として、ある程度の人間は肺の劣化、肝臓疲労、脂肪蓄積、他にも背骨や骨盤に異常が見られ、血液の数値もあまりよろしくない。


 加えて、ここ数時間の間に相当強烈なストレスを感じていたようでもあります。これは、由々しき事態。


 なので、片っ端から臓器の取り換えを開始。酷いモノは大脳以外全部取り替えor私が作った大脳へと記憶をコピーするなどして、皆様方の身体を健康な状態に戻しまして。



 さて、頭と身体が健康になった後は、心身を整えなければなりません。



 ワタクシがワタクシに成る前の記憶情報にありましたけど、確か……そう、心身をリフレッシュさせた後で、『整う』という最終工程を終えるのがベストだとか。



 ……となれば、躊躇する理由がワタクシにありますでしょうか?


 答えは、只一つ……まったくございません、コレに尽きますでしょう。



 ただ、整うという行為が、いったいどのようなモノなのかがサッパリ分からないという点が……まあ、いいですわね。


 その為には、まず、人間の身体の中に流れている、無駄の多い血液を全部入れ替えましょう。いちいち出血する度に命の危機に瀕するのは危ないですものね。


 この体液の入れ替え自体は、すぐに終わります。右から入れて、左から出せばいいだけですし……10分もすれば、高性能な体液に全て入れ替わります。


 ただ、これに使用する溶液は色が緑色なので、最初は慣れないでしょうけど……まあ、ワタクシたちと同化しているので、動揺も最小限に収まるから心配する必要はありませんわね。



 ……さて、体液も入れ替えて全身が新品同然になったところで、『整う』をやっていきますわ。



 酸素吸入を途絶えさせないよう口と鼻などの最低限を塞ぎ(もちろん、酸素吸入装置を取り付けて)、特製の溶液で満たされたプールの中へと進ませます。


 これには、特に気を付けるべき点はございません。


 ただ、流れているだけで、勝手に全部終わりますから。身体に付着した血液も全部落とし、こびり付いていた体毛も全て落とし、場合によっては張り付いていた以前の皮膚も全て落とします。


 そうして、収容してから45分ほどで……我ながら惚れ惚れするほどに整った、人間がワタクシの前に姿を見せるわけでありますわ。


 ……。


 ……。


 …………で、念のために目視による確認(意味は無い)を行えば……格納庫に降り立ったワタクシの前に立ち並ぶ、治療と回復を終えた人間たち、大集合というわけであります。



「――皆様、幸せですか?」


 ――はい、幸せです!



「全身が新しくなって、幸せですか?」


 ――はい、幸せです!



「喜んでもらえて、ワタクシも嬉しい限りですわ」


 ――はい、僕たちも嬉しいです!




 何の為にかと言えば、感想を聞く為です。


 商売でも何でもそうですけど、利用者の感想って本当に大事なんですもの。特に、未知とのコミュニケーションを円滑に行う場合は、相手の素直な言葉を引き出すのが肝心でございますの。



 これがまた難しい事なのですが、それはまあ、ワタクシの手に掛かれば……ほら、ご覧の通り。



 適切な治療と回復が行われた彼ら彼女らの顔には、笑顔が溢れております。常時3000倍の快楽を受け止められる状態になりましたので、頭の中は幸福で満たされているのです。



 彼ら彼女らに、もはや不幸は存在しません。


 幸福か、より強烈な幸福か、あるいはもっともっと膨大な幸福か。



 それだけが頭と心を満たし、常時分泌されている快楽を味わい続けている幸せな生き物……それが、今の彼ら彼女らなのでございます。


 ああ……我ながら、良い仕事をしたと思います。ええ、本当に……喜びに満たされている彼らの声が、彼らの大脳と同化したワタクシたちに伝わって……ああ、ですが。



「ですが、そんな皆様に悲しいお知らせが一つございます」


 ――はい、それは何でしょうか!?



「貴方たちが先ほどまで乗っていた船に、今もなお不幸の中で喘いでいる者たちが大勢おります」


 ――はい、それは不幸です!



「些細な誤解が元で生じたこの戦い……続けるのは不毛だとは思いませんか?」


 ――はい、それは不毛です!



「なればこそ、皆様方の御力をお借りしたいのです……皆様方なら、彼ら彼女らも、説得に応じてくださるでしょう?」


 ――はい、それは両案です!



「では、急ぎましょう。さあさあ、この戦いを終わらせ、平和的な交渉を行いましょう」


 ――はい、行ってまいります!



 やはり、彼ら彼女らは冷静になりさえすれば、話し合いで物事を解決出来るのです。


 その証拠に、ワタクシの提案を笑顔で受け入れた皆様方は、ワタクシたちが支給した装備を身に纏い、つい先程まで居た場所へと戻って行きます。


 本当は、誰も戦いたくないのです。それこそ、ファッキンくそマンボウ含めた『連盟種族』以外では。


 だからこそ、私は平和的に対話を進めるのです。


 例え、向こうから攻撃されたとしても……それでも、ワタクシは平和的に物事を進めるべきだと。




 『戦端を開いたの、ワタクシたちだけどね』


 『ぶっちゃけ、最初に砲撃したのこっちじゃない?』


 『こいつ、すぐ都合の悪い事を忘れやがりますね』


 『誰か、この大脳の代わりにスポンジ詰めているやつ〆ろよ』


 『それ言い出したらワタクシたちも漏れなくスポンジですけど』




 なにやらワタクシたちの戯言がうるさいですが……構いません。ワタクシが言いたい事は、只一つでございます。



「さすがワタクシ、今回も上手い事やりましたわ」



 本当に、我が事ながらたまげてしまいますわね。






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