第二話の裏: to be continued
※暴力的&グロテスクな表現有り、注意要
――『彼ら』は、いわゆる宇宙に点在している海賊(つまりは強盗団)の、中堅どころに位置する悪人であった。
海の無い宇宙で海賊とはコレ如何にと言われそうだが、広い宇宙を広大な海に例えた昔の言葉がそのまま残っているからだとか諸説あるらしいが、今はいい。
重要なのは、『彼ら』……そう、彼らは、おおよそ法に定められた悪事とされる事をだいたいやってきた、札付きの悪人である……ということだ。
故に、彼らは怖れられていた。何せ、彼らに制御する為の法が通じず、道徳も通じないからだ。
自分たちが利益になるならどんな状況であろうと裏切るし、相手が子供であろうが老人であろうが、必要なら囮にでも何でも使う。
情けで己の命を助けた女をその場で暴行して強姦し、人買いに売り払った後、それで得た金と出来事をツマミに酒を食らうような性根の持ち主ばかり。
中には自由に生きるという信条の結果、『海賊』というレッテルを張られた者もいる。あるいは、そうするしかなく罪悪感を秘めている者たちも、居ただろう。
しかし、そんなのは例外の中の例外だ。
生きる為と謳うのであれば、生きる為の分だけ奪えば良い。事実として、彼らはそれ以上を奪う。自らの欲望を満たす為に、いくらでも他者を害して奪う。
それが、彼らである。
しかし、それ事態が悪いというわけではない。もちろん、良い行いでもない。ただ、生き物は何かを犠牲にしなければ生きられないのだ。
資源は有限であり、糧に限りがある以上、足りなければ奪うしかない。より多くの糧を得られる場所は、基本的には速い者勝ちなのだ。
奪わないでも生きていけるのは、そこが相当に恵まれているか、誰かが代わりに奪い取って、手を汚すことなくそれを受け取っているか。
あるいは、脅威に晒されながらも覚悟の上で糧を得るしかない者……その3つしかないわけである。
故に、行為そのものを悪とするのは、始めから持っている者の傲慢でしかない。
自分たちが1から築いたモノでもない、祖先が築いたモノの上で当たり前のように糧を享受している者。幸運を、当然のモノとして考え、それが無い者を見下す者。
生まれたその時より
――それが、生まれも育ちも違うが似たような生き方をしてきた彼らに共通する、根っ子であり考え方であった。
故に彼らは、あらゆる非道に対する罪悪感を覚えない。
それは、根底に恨みがあるからだ。激しい憎悪があるからだ。
だからこそ、彼らは恵まれた者に対して如何様な非道を成すことに、ためらいが無い。
そして、そんな彼らにとって……海賊という行為は、正しく天職であった。
……。
……。
…………人類が宇宙へと飛び立ってから、数百年。
重力に縛られていた人類の科学力は、当時に比べて格段に進歩していた。個人で、星から星へと移動出来るぐらいには。
何せ、500年ぐらいで、傷口に馬糞を塗って治療する治療法が信じられていた時代から、遺伝子の重要性が医学的に分かる時代にまで発展するのだ。
一部は違っていても、宇宙にて活動する事を余儀なくされた者たちが増えれば増えるほど、人類が宇宙に適合して発展してゆくのは当然の話であった。
その中でも、特に発展しているのが自動化だ。何故なら、そうしなければ人類は宇宙で生きられなかったから。
というのも、だ。
たかだか数百年程度で、人の脳はそこまで発達しない。しかし、宇宙の環境というのは惑星の……かつての故郷に比べれば、比較にならないぐらいに過酷である。
はっきり言えば、人の処理能力と、広大で膨大な宇宙とでは、全く釣り合わないのだ
一つの判断が、即座に死を招く。そいつだけが死ぬのならばともかく、大勢を巻き込んで命を落とす。
宇宙とは、そういう場所なのだ。
しかし、『はい、分かりました』で納得するだけならば、人類はとっくの昔に絶滅していただろう。
故に、人類は……足りない処理能力を補える機械を作り出して行った。つまるところ、それこそが
最初は、一つ一つの些細な部分の自動化からスタートした。
しかし、広大な宇宙へとその活動の範囲を広げてゆくに従って、それでは足りなくなってしまった。
だから、自動化の範囲もそれに合わせて広がって行った。
選ばれた一部の者たち以外でも使えるように。
基礎的な勉強を治めた者ならば、使える様に。
不勉強ではあっても、ある程度は操作出来るように。
そして、文字が読めなくても言葉で動かせるように。
元々は、より多くの者たちが宇宙でも生きられるようにと望まれた技術。その結果、人類は瞬く間に宇宙においてその数を増やしていった。
……けれども、だ。
その結果生まれたのは光だけではない。言葉さえ使えたら宇宙船すら動かせるまでに発達した科学力は……言い換えれば、その分だけ悪用できる部分が広がったも同じであった。
……さて、場面を移し、広く静まり返った宇宙の中を進む、一隻の船。
名前は、特に無い。元々は軍の横流し品であり、識別番号は偽装され、ついでに船体に刻まれていた番号も偽装されているからだ。
光も有れば、影もある。群の備品がどうして海賊の手に……それもまた、影の一つである。
その船内には、つい先日奪い取った糧が散乱している。
整理整頓など存在しないが、その中でも特に酷いのが……格納庫の一角に設置された隔離室だろう。
格納庫には食糧もそうだが、豊富な武器弾薬がある。
しかし、何よりも目に留まるのは、隔離室にて無造作に転がされている……溜まった欲望を一方的に叩きつけられた者たちだろう。
どうしてそうしているのか……それは、もうすぐ死ぬからだ。
まだ生きの良いやつは寝室に閉じ込めて餌を与えて長く使うが、小便が垂れ流しになるほどに体力も気力も尽きた者たちに与える物は何もない。
物好きがそこに入って楽しめば良いし、彼らの中には死体の方が良い変態も居る。とはいえ、死亡して腐敗が進めば……さすがに、誰も必要としなくなる。
だからこその、隔離室だ。ボタン一つで、ゴミを宇宙へ捨てられる。
漂流物(デブリ)は今も人類が抱える問題の一つではあるが、そんな事は彼らには何の意味も無い。何の躊躇いもなく、彼らは凌辱の限りを尽くした亡骸を宇宙へと捨ててゆく。
それを、3日、7日、15日、30日と繰り返せば、徐々に船内から戦利品は消え、手狭だった格納庫が広々とした空間に変わってゆく。
そうして、最後の玩具が宇宙へと捨てられた、その日。
彼らは、夢にも思っていなかっただろう。
新しい獲物を狩る為に、広範囲に網を張っていた自分たちが……突如出現した巨大宇宙船との衝突、それを切っ掛けにして、命運が尽きる事になろうとは。
「――動くなって、言ったよな?」
夢にも思わなかったに、違いない。
……。
……。
…………初めは、カモが葱を背負ってきたと彼らの誰もが思った。
何せ、彼らを乗せた宇宙船は、軍警察などから捕捉されないよう常にステルス機能を動かし、回線も閉じられ、識別番号も偽装されていた。
船の識別番号は、宇宙において身分証明にも等しい。
登録されている者とは異なる誰かが乗っているだけでも警戒される。場合によっては、警告無しで即座に撃墜されかねないぐらいに重要である。
つまり、そんな世界でステルス&回線遮断&識別偽装のトリプルコンボをやれば、他所の宇宙船からは『不審極まりない軍用宇宙船』にしか見えないわけだ。
加えて、細かな傷が出来ている船体に、軍特有の整備の痕も見られない。常識的に考えれば、怪しいことこの上ない宇宙船……それが、彼らを乗せている船の外観であった。
そんな船と衝突したら、普通は即座に反転して逃げるだろう。明らかに、普通の船ではないからだ。
けれども、相手は逃げなかった。理由は定かではないが、わざわざ修理をするからとまで言ってきた。
それを聞いた彼らは……二つの意見に分かれた。
一つは、世間知らずなボンボン、あるいは表沙汰に出来ない事をやっていて、口止めの為に下手に出ているのだろう……というもの。
おそらく、識別不明とはいえ、乗っている船が軍用船であった事と、下手に軍と事を構えたくないので、さっさと穏便に終わらせたい……のではないか?
……というのが、この意見を出した者たちのおおよその総意であった。
もう一つは、純粋に警戒して大人しくしておくべき……というものである。
何故なら、衝突した相手の船もまた『所属不明』。加えて、その大きさは常識を超えて巨大であり、それほどのサイズの船が有ること事態、誰も見聞きした覚えがなかった。
いや、奇妙なのはサイズだけではない。
その造形もまた、見覚えが無いのだ。
完全オーダーメイド製なのは一目で分かるが、それを踏まえたうえで、流行の造形というものがある。そういった部分に無頓着な彼らとて、その違和感はすぐに気付いた。
……明らかに、怪しい。
船体も美しく、つい先日出来上がったばかりだと思ってしまうほどで……そんな船の持ち主が、加害者とはいえ、わざわざ下手に出るだろうか?
……結論は、思いの外すぐに出た。
何の事はない。警戒心こそ彼らにはあったが、彼らの大半は基本的に衝動に突き動かされるがまま動いて来た者たちだ。
格納庫に戦利品が残っているならまだしも、飲んで食べて出してと毎日毎日遊んでいれば、いずれは底を尽く。
金を持っていないわけではないが、彼らが拠点にしている場所までは、それなりに距離がある。
燃料の事もあるし、そろそろ帰るべきか否かを判断しなければならない……そんな時に、運良く遭遇したのが、この巨大な不審船だ。
――船をそのまま使うのも良いし、バラして売れば全員が数年は遊んで暮らせる大金が手に入る。
我慢することをめっきりしなくなっていた彼らが、船を奪取することを我慢するだなんて……そう長く出来るわけがなかった。
……もちろん、彼らは彼らなりに慎重ではある。
船内には多数の傭兵(つまり、用心棒)が居て、返り討ちになる可能性が濃厚であれば、そのままで終わらせるつもりだった。
でも、蓋を開けてみれば……何もない。
傭兵はおろか、乗組員も居ない。いや、それどころか、人が生活している痕跡が全く見られないだけでなく、その為の機械が全く無い。
汚れ一つ見当たらない船内は、シートを剥がしたばかりの新品同然に綺麗で……というか、これは新品なのではと中に入った誰もが思った。
それこそ、たった今、完成したばかりの船を運び出しているかのような……と、なれば、だ。
――にやり、と。
お互いに顔を見合わせた彼らの誰もが、意味深な笑みを浮かべた。そこには、隠しようもない欲望が滲み出ていた。
たしかに、不審な点は有る。だが、既に彼らは船内に入ってしまっている。
それがどういう事なのかと言えば、宇宙船というのは外↑内に掛けての対策は何重にも掛けているが、内↓外への対策は、それほど厳重ではない。
いや、正確にいえば、だ。
内部爆発やエア漏れなど、そういった面での対策はどの船も厳重ではある。いざとなれば隔壁を下ろして、物理的な遮断装置が付けられている場合も多い。
……だが、それでも、内部での戦闘を想定した構造となっている船は基本的に存在しない。人類の常識的に考えて、船内での重火器を使った戦闘など自殺以外の何者でもないからだ。
だからこそ、彼らはいやらしく笑った。
船内に入った時点で、既に相手の喉元に刃を突き付けているも同然の状態であることを察したからで……いざとなれば、船を破壊するとでも脅せばどうとでもなると判断していたからだ。
……普段の彼らであれば、もう少し慎重に行動していただろう。
しかし、彼らも無意識の内に、場の空気に呑まれてしまっていた。有り体に言えば、欲に目が眩んでしまっていた。
故に、彼らは不用意に指示を無視して奥深くまで入ってしまった。薄気味悪いと零す仲間の反応も、大半は無視していた。
確かに、客観的に考えれば不審な点は多々あった。
軍でも保有しているか定かではない巨大宇宙船。流行とは異なる造形に、綺麗過ぎる船内。対して、絶対的に足りない人員。
身を潜めているにせよ、これだけの巨大船なのだ。様子を見に来る者が1人や2人、現れてもおかしくないのに……誰も来ない。
加えて……コントロールデッキに入れば、居るのは……同じ顔、同じ背丈、同じ体系の、裸の少女が数十名。
……確かに、不審な点だらけだ。でも、誰もこの時は気付けなかった。
哀れ、人の欲望というやつか。あるいは、境遇ゆえの慢心か。
何時もの仕事と同じく、彼らは言う事を聞かなかった馬鹿に一発お仕置きを叩き込み、誰が上なのかを明確にした。
……つもり、だった。
現実は、そうならなかった。何故なら、確実に脳天を撃ち抜いて殺したはずの少女が……生き返ったからだ。
それも、一度や二度ではない。
驚いた彼らは、何発何十発ものレーザーを少女に……その場の少女たちに、弾切れになるまで撃ち続けた。
一部外れはしたが、レーザーは、確かに少女たちの身体を貫いた。
心臓や肝臓だけではなく、頭も徹底的に撃ち抜いた。
仮に相手がアンドロイドの類であったとしても、100回は機能停止に陥るぐらいのレーザーを叩き込んだ。
……なのに。
「う、うわあああああ!!!????」
「何でだ、何で死なねえんだよぉぉぉ!!!!」
「来るな、来るな来るな来るなぁああああ!!!!!」
少女たちは、欠片も堪えた様子がなかった。
何処を撃ち抜いても、直後に傷が治っている。心臓を撃ち抜いても、頭を撃ち抜いても、顔色一つ変えない。
加えて……レーザーを叩き込めば叩き込むほど、少女が増えた。比喩的な話ではなく、物理的に数が増えた。
飛び散った鮮血から気泡が出て量が増えたかと思えば、そこから肉片が形成され、臓腑が形成され、生物の形になる。
傍から見れば……それは、言葉では言い表せられないぐらいに冒涜的な、狂気に満ちた光景だろう。
少女の傷口から盛り上がる指先。卵から抜け出るように皮膚を引き裂いて出てくる少女。その少女の下半身は無く、脊椎が尻尾のように跳ねている。
その胸元に亀裂が入ったかと思えば、ごろごろと飛び出してくる少女の頭部。剥き出しの断面から絶えず血が噴き出し、それに紛れるようにして上半身が形成してゆく。
1人が2人、2人が4人、4人が8人、8人が16人。
瞬く間に、数が増えていく。殺しても殺しても、死なない。増えていくに従って、誰もが狂気に呑まれ、レーザーを撃ち続ける。
正しく、狂気であり冒涜であった。
彼らは、心底恐怖した。
目の前の光景を、否定したかった。
強いとか弱いとか、そんな問題ではない。
殺しても殺せない、生物の根幹を覆す存在を前に、彼らは人間として……いや、生物として、絶対的な恐怖を抱いたのである。
その恐怖は、本来であれば、この場では絶対に使用してはならない武器……地上専用のレーザーバズーカの使用を許してしまうぐらいであった。
そう、本来ならば……特に、宇宙船内ではどんな理由であろうとも絶対に使用してはならない武器の一つ、それがレーザーバズーカである。
そんな武器を持って来ていたのは、言うなれば『脅し』である。
こんな豪勢な船に乗っているお前たちは、俺たちに比べたら、さぞ命が惜しいと思うだろう……そういう意味合いでの、脅しであった。
だが、この時の彼らはそれを『脅し』にはせず、『武器』として使用し――今度こそ、殺したと誰もが思った。
――だが、それでも死ななかった。いや、それどころか、だ。
剥き出しになった首の断面から、少女の頭部が生えた。けれども、生えたのはそれ一つではなかった。
まるで、火薬が弾けたかのような勢いであった。
枝のように四方八方へと伸びる何本もの首から、吊り下がるようにしてにゅるりと生えた、数十個にも及ぶ少女の頭部。
それらが、一斉に彼らを見つめる。彼らの誰もが、あまりにも異様な光景に言葉を失くし、銃を下ろしてしまった。
『――落ち着いてください』
そして、そんな彼らに対して……数十、いや、百を越えようとしている少女たちが、一斉に言葉を発した。
『ワタクシは、貴方たちに危害を加えるつもりはありません』
『何か、誤解が生じているようですね、怖がらないで』
『その、持っている武器を下ろして、話し合いをしましょう』
『さあ、どうぞこちらへ――ここで争うのは危ないですわ』
次いで、少女たちは一斉に手を伸ばした。
首から肉のツリーを生やした少女も、全身が穴だらけになった少女も、血だまりから手だけが生えたソレも一斉に、彼らへと――。
「――ぎゃあああああああ!!!!!!」
――そこまでが、彼らの限界であった。
もはや、彼らに戦う意思は無かった。有るのは、ここから逃げたい、助かりたい、殺されたくない、その三つだけ。
故に、彼らは必死になって逃げた。
行きの時には居なかった少女たちの姿に、絶叫と共にレーザーを撃ち込みながら、只々足を回転させ続けた。
そうして――ようやく自分たちの船へと戻ってきた。後はもう、考える必要はない。
事情を呑み込めていない留守番組の運転手を怒鳴りつけて動かし、彼らの船は巨大船から距離を取り……全速力で、その場からの離脱を始めるのであった。
これで、ひとまずは大丈夫か……そう、誰もが無意識に思った。だが、そうならなかった。
「――うわああああ!!!!」
悲鳴が、船内に響く。
何てことはない、既に少女が船内に潜んでいたのだ。
べたりと天井に張り付いているのを発見した彼らは……考えるよりも前に、レーザーを撃ちまくっていた。
先述した通り、船内での重火器(レーザーも同様に)は厳禁である。
部屋の内壁に穴が開くぐらいなら問題ないが、万が一外壁に面している部分に穴が開けば、タダでは済まない。
しかし、彼らは止まれなかった。百も承知だとしても、それが出来るだけの冷静さを完全に失っていた。
何故ならば、化け物だ。
正真正銘の、怪物だ。
パニックホラー映画に登場するような空想上の怪物が、実在している。それも、今、目の前に。
悪夢だと、誰もが思った。出来の悪い悪夢だと、誰かが泣き叫びながら笑って――手にしている銃で、己の頭を撃ち抜いた。
――警報が鳴る。レーザーの連続使用による異常な熱源を感知したからだ。
並びに、船体に開いた穴より漏れだした
少女……いや、首から下が肉塊へと成り果てた怪物の触手が、天井を覆い隠し、壁へとどんどん伸ばされてゆく。
無表情な少女の眼光が、彼らを見下ろしている。地獄のような光景だ。
発狂している者たちも、諦めて自殺した者たちも、我を忘れて四方八方に撃ちまくっている者たちも、等しく見下ろしている。
地獄だ。どこを見ても、地獄しかない。救いは無く、彼らは等しく地獄の中をさ迷う他……いや、違った。
――救いは、有った。閃光の如き膨大な熱量が、全てを呑み込んだ。
だが、それは救助ではない。『
頭は、船内に少女が侵入している事が発覚した時点で、船を放棄する選択肢を取った。
しかし、それを頭は仲間には伝えなかった。伝える必要が無いと判断したからだ。
何故なら、囮に使うからだ。
そう、頭は、己が助かる為に、仲間と船を囮にして、自分たちだけが助かる事を選んだのである。
結果、作戦は上手くいった。
船は爆散し、核融合炉のメルトダウンによって全てが融解し、一部が蒸発した。彼らは、己が死んだことも知らないままに死んだのだ。
そして、頭は生き残った。緊急脱出用の小型船にて、逃げ出していた。船の中でも有能であった数名を、乗せて。
「……何だよ、あの化け物は」
そう、頭たちは生き残ったのだ。だが、誰もそれを喜んではいなかった。
正確にいえば、化け物がもたらした恐怖があまりに強過ぎて、喜べない……というのが正しいのかもしれない。
「……どうします、頭。脱出用の小型船だから、そこまで長距離は行けませんぜ」
「……近場の『拠点』は何処だ?」
ポツリと零した仲間の言葉に、頭はそう尋ねた。
拠点とは、通称だ。いわゆる、アウトローたちが集うコロニーみたいなものだと思ったらよい。
規模はコロニーによって様々だし、一般人が入り込めばタダでは済まない。
しかし、頭たちのような存在にとっては、そこはある種の避難場所であり、生活拠点でもあった。
「……この船だ。ここからだと、5日の距離だな」
「食料は?」
「節約すれば、5日分はある」
「……仕方ねえ、しばらく腹を空かして我慢だな」
頭の言葉に、その場に居る誰もが苦笑と共に肩の力を抜いた。
言っておくが、これは頭の優しさではない。ただ、この環境で不必要に反感を抱かれるのは得策ではないと、判断したからだ。
当然、彼らも分かっていた。だからこそ、彼らは力を抜いたのだ。
……今後、どのような方向に動くとしても、だ。
今は、腹の探り合いも止めて我慢するしかない。たった五日間の辛抱だ。
他所に移るにしても、1人で動くにしても、このまま頭に付いて行くにしても……全ては拠点に到着してから、だ。
そう思った頭は、彼らは、静まり返った船内で……疲れ切った身体を休ませる事にした。
……。
……。
…………そう、全ては到着してから……の、はずだったのだが。
――にゅるり、と。
小型船の外壁にへばり付く、粘着質な物体。血の塊にも見えるそこに、ぎょろりと目玉が盛り上がった……それに。
『……ノロノロと、遅いですわね』
頭たちは……誰一人、気付けなかった。気付けないままに……拠点へと船を進ませ続けていた。
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