第一話: 流行りのDIY、でありますわよ!

※ちょっとグロイ描写あり、注意要



 ……。


 ……。


 …………はい?



 思わずワタクシ、辺りを見回しましたわ。だって、いきなり宇宙空間ですもの。これにはワタクシの中に居るワタクシたちも驚きですわ。


 けれども、驚いたところで事態は変わりません。


 何気なく背中に感じる熱気に振り返れば、恒星より吹き付けられる熱波と光線によって、ワタクシの視界が一瞬ばかり白く染まりました。



(えっと……アレが仮に『太陽』なのだとしたら……)



 しかし、その程度ではワタクシの視界は防げません。


 すぐさま順応したワタクシは、そのまま太陽の衛星となっている惑星(その中でも、大きくて目立つやつ)から……宇宙における絶対座標から現在位置を測定する。


 ……絶対座標とは、原点を起点としてそこからの距離によって位置を表す座標のこと。


 これを把握しておかないと、ワープ等を行った際、想定していた位置とは異なる場所で再構成されたり、場合によっては誤差が数億キロメートルも生じるから、けっこう重要ですのよ。


 そうでなくとも、宇宙というのはビッグバン(事実なのかはワタクシも知りません)による膨張によって、常に座標がズレ続けております。


 全てが等しくズレておりますので、惑星等に留まっている内は何の問題も無いのですが……ふむ、なるほど。



 ――現在位置を特定したワタクシは、とりあえずは……近くの衛星に着陸する。



 それは、ワタクシの故郷においては『ムーン』と呼ばれていた衛星と思われます。思っていたよりも小さな重力と、10秒で飽きそうな殺風景を見やりつつ……さて、と。



『……ファッキンくそマンボウ!!!』



 とりあえず、思いっきり地団太を踏んでやりましたわ。衝撃でべこんとクレーターが発生しましたが、構う事はありません!


 何でかって……そんなの、決まっておりますわ。



『明らかに人類滅亡した後ではありませんか!? いくらワタクシでも、星の色ぐらいは覚えてやがりますわよ!!!』



 おそらくは『地球』と思われる星。大陸が有って、山脈が有って、広大な海が広がって……そんな、命が溢れた星。


 ワタクシの故郷と限りなく似通った歴史を経た、限りなく我が故郷に近しいはずの『地球』の色が……明らかに、ワタクシが知るソレとは異なっていました。



 有り体に言えば、緑色でした。何がって、青色の部分が全部緑色。



 言っておきますが、大森林がおりなす目に優しい自然的な色合いではありません。こう、何と言えばいいのか……大丈夫かと心配したくなりそうな色合いの、緑です。


 もうね、一目で『あ、生態系壊れておりますわね』というのが丸分かり。普通の人間なら、一口飲んだだけでそのまま永眠しそうな感じです。



 そのうえ、大陸の方もヤバいですわ。



 何と言っても、どこ見ても黄色。輝いているんじゃなくて、乾き切った黄色。月の上からでも、大陸ほとんど砂漠化しとるやんけ……と、他に言葉が出て来ません。


 もちろん、どこ見ても黄色ということは、本来であれば目に優しい色合いの緑なんてモノはありません。文明活動が行われている感じの熱源すら、ワタクシからは感知出来ません。


 とはいえ、文明の名残……廃墟と思わしき存在は幾つか確認出来ます。


 ワタクシは『ボナジェ』の中ではそういった性能が劣っているので、実際に降り立たなければ詳細までは分かりません……なので、降りましょう。



 月よりジャンプして、地球へと飛ぶ。



 距離にして約38万キロメートル。平均的な『ボナジェ』ならば一瞬で往復出来る距離ではありますが、ワタクシにはそこまでの移動性能はありません。


 体内にて精製した可燃性ガスを推進装置として、着火&加速。両手や両足からファイアー。


 ……何でございましょう、おぼろげな記憶の片隅より薄ら気恥ずかしさを覚えると同時に、こう……我ながら、くっそ遅いですわね。



(……あ、しまった。着地点を考慮しておりませんでしたわ)



 ヤキモキしながらも、ようやく地球の重力圏へと到達すれば、後はもう楽勝。引力に引き寄せられるがまま、ワタクシの身体は地表へと落下を始めました。


 押し潰された大気、ぶつかり合う分子によって生じる高熱が、ワタクシの身体を真っ赤に染めてゆく。


 思い返してみれば、生身での大気圏突入って始めてですわね。


 以前のワタクシ、そういうのにちょっと浪漫を感じていたみたいですけど……正直、ちょっと熱いだけですわね。



 ……で、地表到着。というより、着弾かしら。



 ずどん、とか。


 ばごん、とか。



 減速の為の機能なんて備わっていない故に、ワタクシの身体はものの見事にバウンドします。比較的柔らかい砂場を狙ったつもりでしたが、大きく逸れてしまいました。


 おかげで、ワタクシの身体は数百あるいは数千にも及ぶ肉片となって大地に散らばりました。周囲に生き物がいたら、さぞ驚いた事でしょう。


 何せ、何処からともなく飛んでくる血飛沫、音速に達した私の肉片が弾けて更に細分化しましたから……まあ、生命体がなさそうな場所に落ちただけ、マシでしょう。


 むしろ、海の真ん中に落ちなかった事を褒め称えましょう。


 しぶとさには定評が有るワタクシですが、同時に、脆さにも定評が有るワタクシ……でも、あんな汚そうな海水の中に落ちるのは御免ですから。



 ――さて、と。



 再生を終えた、いちおうの本体というか、司令塔であるワタクシが立ち上がれば、少し遅れて……分体したワタクシたちも再生を終えて立ち上がるのが見えます。


 乾いた大地と汚れた大気で満たされた、命無き世界。先ほどまで砂漠しかなかったそこに立つ……79万6441人のワタクシたち。



 ――これが、ワタクシに元々与えられた唯一の武器であり防具でございます。



 圧倒的なまでの再生能力と、増殖能力。そして、それらを応用して発揮する分裂能力。たった一欠けらの肉片から、ワタクシは数万体にも増えることが可能なのでございます。


 当然ながら、あらゆる状況や事象への適応力も桁違いで、融合するのも同じ速度で出来たりします。それこそ、超新星爆発の直撃を受けてもなお、ワタクシを殺しきれないでしょう。


 『ボナジェ』の中では下の下の下に位置する戦闘能力しか持たないワタクシが、最後まで生き延びた理由がコレなのです。


 仮に、本体である司令塔のワタクシを仕留めても無駄です。


 何故なら、ワタクシたち……本体と分体の間には、特殊なネットワークによって常に通じ合っているからです。



 ――くそマンボウ命名、『アリス・ネットワーク』。



 それは、ワタクシと同じく索敵や探知に性能を振り切った『ボナジェ』でなければ見つけられない程の、特殊な回線。


 ワタクシたちの心は個であり群であり、ある種の集合生命体なのです。


 機能停止に陥れば即座に別の分体へと移る。その分体がやられれば別の分体へと移る。司令塔は、定まってはいない。


 ワタクシたちは、僅かな微粒子さえ……いえ、残り香ぐらいの情報さえ残っていれば、そこから数万数十万へと瞬く間に増える事が出来るのです。



「遅いですわよ、ワタクシたち!」


『命令するんじゃねーっすよ、クソ雑魚なワタクシ!』

『いちいち分裂する阿呆はここですか、ここですね?』

『墜落しただけで全身バラバラになった『ボナジェ』の面汚しが何かほざいておりますわね』


「お、お前たち……!」



 ただし……本体というか司令塔であるワタクシの命令権が効力を発揮するのは、『そうしなさい』と正式に命令を下す時だけ。


 全てがワタクシであるとはいえ、ワタクシに命令されるのは、基本的にはプライドが許さないという事なのでしょう。いわゆる、矛盾というやつなのでしょうね。


 分かってはいるけど……というやつを具現化すれば、こんな感じになるのかもしれませんね……さて、と。



 ――命令します。



 自分との喧嘩ほど不毛な時間の潰し方といったらありません。故に、司令塔となっているワタクシは、ワタクシたちに命令(オーダー)を下します。


 途端――わらわらと集まって来ていたワタクシたちが一斉に動きを止めました。


 合わせて、ワタクシたちの間に繋がっているネットワークにて、改めて思考が連結されてゆく。瞬く間に広がる視界と意識の領域に、ワタクシたちの心は統一される。



 ――この星を隅々まで見て回り、人類が居たという痕跡を探しなさい。

 ――了解。


 ――滅んだのでなければ、おそらくは……宇宙へと移住を遂げているはずです。では、散開しなさい。

 ――了解。

 


 ネットワーク内にて命令を下した直後、ワタクシたちはいっせいに四方八方へと散ってゆく。


 もちろん、今の数では全く人手が足りない。なので、ワタクシたちは一斉に増殖と分裂を繰り返す。意識が、次々に新しく増えてゆくのを感じ取る。


 ぽろりと眼球が零れ落ちて空洞となった、真っ暗な眼底より噴き出す肉片。増殖の速度が速すぎて、圧力に耐えきれず幾つもの分体の身体が弾け飛ぶ。


 それら全てが、瞬く間に臓器を形成し、骨格を形成し、皮膚を形成してゆく。ものの30秒後には、ワタクシたちの総数は8955万890体へと増えました。


 けれども、分裂の速度が速すぎて、分裂を終えたワタクシたちの鈍足な退避では安全圏まで間に合わない。


 全速力で四方八方へと散らばってはいるが、その内の6割近くが、分裂したワタクシたちに押し潰され、ミンチになりながらも融合し、同化し、新たに分裂してゆく。


 傍から見れば、非常におぞましい光景だったでしょう。


 破裂したワタクシたちより分裂したワタクシたちを、その背後から更に分裂したワタクシたちが呑み込み、そこから更にボンと弾けて……2分後には、ワタクシたちの総数は14億にも達しました。



 ……でも、足りない。ワタクシは、ワタクシたちは、他のボナジェほどに優れた探知機能を備わっていないのだから。



 故に、ワタクシたちは数に任せた人海戦術で情報を集めてゆく。それしか、それだけが、ワタクシの武器なのだから。


 そうして……時間にして、一時間ぐらい後でしょうか。


 大陸という大陸をワタクシで埋め尽くし、嫌ではあったが海中をも埋め尽くし、そのままマントルの奥深くまで確認を終えた時にはもう……ワタクシたちの総数は約2京(きょう)にまで増えておりました。


 そこまで来ると、もう何処を見てもワタクシでございます。


 足の踏み場……まあ、踏み場ぐらいはあります。下敷きになったワタクシたちから文句の声が上がっておりますが、下に成ってしまった方が悪いので、苦情は受け付けません。



 ……ワタクシですか?



 ワタクシは司令塔特権として、丁度良い岩石の上でダラダラしておりますわ。破壊されると作業の手が少しばかり遅れるので、不満タラタラな分体たちの視線など気に止めてはなりません。



 ……さて、話を戻しましょう。とりあえず、分かった事は三つでございます。



 一つは、やはりこの星はワタクシの故郷で言う『地球』に限りなく近い歴史を経た惑星であり、人類が暮らしていた痕跡が多々見付けられました。


 何で、そう思ったかって?


 そんなの、日本語とか英語とか、見覚えのある文字が見つかったからです。さすがは、限りなく近しい歴史を経た惑星なだけはありますね。


 正直、滅ぶ前に遊びに行きたかったですけれども。


 加えて、これまた見覚えのある建物というか、その残骸というか、あれですわね、グリーン化されたスカイツリーと言いますか、それっぽいのもありましたわ。


 人の手が離れてから相当な年月が経っていたようなので、どれもこれも風化し過ぎておりましたが……それでも、人類が地上を脱したという確認が取れました。



 二つは、どうやらこの星の環境は人類が生きてゆくには適さない状態だということ。



 まあ、それは薄々分かっておりました。


 感覚的な話ですけど、こりゃあゴキブリだって生きられないよねと思うぐらいに、体内の解毒機能というか、免疫構造が活発になっているのを感じ取っていましたし。


 ぶっちゃけてしまえば、この惑星の大気……猛毒も同然な汚染具合ですもの。


 ワタクシ、こうして平気な顔で突っ立っていますけど、酸素濃度が明らかに低くて笑っちゃいますわね。そのうえ、どうにも澱んだこの空気……う~ん、汚染物質!


 おまけに、ビシバシと肌に感じるというか、このくすぐったい感じは……王道の中の王道、The・放射線ですわね。隅々まで殺し尽くすという鋼の意思を感じます。


 人類がこの地を離れてどれ程の年月が経ったのかまでは分かりませんが、残るやつは長く残りますし、こりゃあ宇宙へ逃げるしか手がないと思うのは当然でしょう。



 その証拠に、三つ目……何やら遺言のような言い回しでしたけど、そういった言葉が刻まれた特殊な石板が、幾つかの都市跡と思わしき場所に安置されておりました。



 石板なのは、長い年月に耐えられるようにする為でしょう。


 電子機器なんて長くて数十年の寿命ですし、その前に再生機器が駄目になります。それ故に、条件さえ揃えば1000年以上は保存出来る石板にしたのでしょう。


 ちなみに、その石板に記されている、実に言葉を選んで濁した言い回しの要点を纏めますと。



 ――俺たちだけ我慢するなんてまっぴらごめんだぜ!



 と、言った感じでしょうか。まあ、そりゃあそうですよね、みたいな中身でした。ていうか、これ……たぶん、政府とかが作ったものじゃないですね。


 でも、ワタクシとしては好印象ですよ、コレ。


 人類は間違っていたとか、そんなのが記されていたら興醒めもいいところですよ。建前も嫌いではないですが、過ぎれば醜悪ですし……あ、そうですわ。



「――宇宙へと飛び立った人類に、会いに行きましょう!」



 あまりに良い考えに、ワタクシは思わず片手を頭上へ伸ばし、大きく宣言しました。



 『え、わざわざ? くっそ面倒臭いんですけど?』

 『おう、考えておいてやるよ』

 『そんな事より腹減ったよなあ……ラーメン食べたい』

 『食いたければ細胞作り変えて作れば良いのでは?』

 『ラーメンとか、まだ人間の名残が有るのですね』


「お前たち、もう少し優しさというモノを学んだ方がよろしいと思いますわよ」



 ――ネットワークより伝わる……どころか、冷めた眼差しが向けられることと、あまりに協調性のないワタクシたちに、ワタクシ……思わず言葉が汚くなるのも致し方ないとは思いませんか?


 どうせ、する事は何も無いのです。いえ、誇張ではなく、本当にやる事が何も無いのです。


 食料も水も睡眠も性欲も、スイッチを切り変えるかのように何時でも出したり消したり出来ますし、そもそも性別なんて擬態しているだけで、ワタクシには無いですし。


 だいたい、故郷に良く似たこの星に向かう事だって、特に思いつく願いもなく、あのくそマンボウに急かされたから来ただけの事。


 この星にもまだ人類の営みが続いていたら、まだ、暇潰しが出来たでしょう。


 でも、ここには何も有りません。有るのは、残骸だけ。


 瓦礫同然の栄光を眺めて感慨深い想いに浸れるほど、ワタクシはここに何の愛着もありません。


 と、なれば、向かうしかありませんわ。でも、ひとまず、捜索範囲はこの銀河の中だけにしておきましょう。


 下手に他所の銀河へと移動して他のボナジェ……特に、ゴミ屑メタリックの所在を認知して、ワタクシ……平静を保てる自信がありません。


 まあ、人類がワープ技術を開発して、他所の銀河にまで生息域を広げていたら話は別でしょうけど……おそらく、可能性としてはかなり低いと思われます。


 単純に『ワープ』とは言っても、その中身はそれぞれ大きく異なる事が多いのです。


 おそらく、ワープ技術が運用されるようになっていたとしても、せいぜい別の星系への移動が限界でしょう。あるいは、生物の移動は無理……といった感じでしょうか。



 根拠?


 もちろん、ありますわよ。



 だって、他所の銀河に移動出来るだけの『力』を手に入れていましたら、とっくの昔に『連盟種族』の存在に気付いているはずですもの。


 ……ちなみに、『連盟種族』の考えるワープは銀河間の移動。長距離ワープで、異なる宇宙への移動ぐらいで……まあ、比べる方が間違いなので、話を戻しましょう。



「何にせよ、このまま滅びた惑星で大人しくしていても退屈だとは思いませんか?」


 『まあ……たしかに、それはそうだけど』


「どうせ、する事など何も無いのです。宇宙へと散った、この銀河の人類を眺めに行くのも悪くはないと思いませんか?」


 『……う~ん、まあ、することないし、それもいいんじゃないかな』



 ぎゃあぎゃあと喧しいネットワークへと問い掛ければ、文句ばかり告げていたワタクシたちも乗り気になる。


 実際、こんな殺風景な場所でダラダラ過ごすのは退屈な事この上ありません。ワタクシたちも、わざわざ退屈の中に身を浸して喜ぶような性格をしておりません。



「では、まずはこの星系から脱出出来る宇宙船を作りましょう。幸いにも、餌となる物質は星の分だけあります」


 『放射線塗れで不味いのですが……まあ、味覚なんて弄ればいだけですけれども』

 『宇宙からこれでもかと降り注いでいるのに、更に放射線を追加とか、味覚音痴にも程がありますわね』

 『いわゆる、追いオリーブというやつでしょうか? 以前のワタクシが、そんな感じの何かを目にした覚えがありますわ』 

 『頼んでもいないのに放射線ドカ盛り止めてもらえます? あればっかり食わされて、飽きてきたのですが……』

 『放射線放射線とうるさいですわよ! 味なんて分からないのですから、片っ端から取り込めば良いではありませんか』

 『そうですわ、どうせ物質転換装置オメガチェンジで別の物質に変えてしまうわけですし、何を取り込もうが一緒ではありませんか』

 『それを言っちゃあお終いですわよ』


「はいはい、はいはい。無益な暇潰しはここまでにして、作業に移りましょう」



 その言葉と共に、ワタクシは指令を送ります。


 一瞬ばかり動きを止めたワタクシたちですが、正式に命令を受ければもう、後は何処までも無機質に行動するのみです。



 ――どろり、と。



 ワタクシたちが一斉に、それでいて瞬時に液状化した。足の踏み場もないぐらいに絡み合っていたワタクシたちが液状化すれば、瞬く間に大地がワタクシたちだった液体で覆われました。


 そのうえ、変化はそこだけではありません。


 地表どころか海中(というより、汚染海?)の全てと混ざり込んだワタクシたちは、そのまま少し間を置いてから……ボコリと湧き立ったかと思えば、凄まじい勢いで蒸気を噴き出し始めます。



 その勢いは、凄まじいの一言でしょう。何せ、惑星規模で起こっているのですから。



 いったい何をしているのかって、分子レベルにまで別れて増えたワタクシたちが大気中へと広がり、この星の全てを覆い尽くし……完全に取り込む為であります。


 ……人によっては中々にグロテスクな光景なのでしょうが、焦る必要はありません。


 何故なら、ワタクシたちは命令に従って動いているだけ。つまるところ、これは生物における捕食活動……いえ、少し違いますね。


 外部より栄養を取り入れる必要が無いワタクシたちにとって、捕食という行為は必要ありません。ていうか、捕食でワタクシの活動エネルギーを補うのは無理です。


 これは、生体パーツとして組み込まれた『物質転換装置オメガチェンジ』を使用する為の行為です。


 機械式であれば、いちいち体内に取り込む必要はないのですが……まあ、ワタクシは生体パーツで構成された浪漫仕様なので、我慢するしかないのですけれども。



「ワタクシたち、どれほど取り込めましたか?」


 『海水は完全に取り込みました。もう、ワタクシたちしかありませんわ』

 『大気中の78%を吸収済み……たった今、100%になりました、全てワタクシたちですわよ』

 『現在、地殻を抜けて上部マントル、そのまま中心核へと進行中……下部マントルへの同化吸収開始……重力変動、行きますわよ』



 ネットワークより伝わる思念の直後、がくり、と。


 大地が、揺れた。


 いえ、もはや大地は無く、液状化したワタクシたちで埋め尽くされていますので、揺れたのはワタクシたちですわね。


 まあ、ワタクシたちが揺れたというより、マントルの同化と吸収を行った事で瞬間的に質量が変化したせいで、掛かる重力のバランスが崩れたからなのでしょうが……あっ。



 ふわり――っと。



 唐突に、ワタクシたちが浮いた。『中心核への侵入と同時に、同化吸収を始めますわよ』ほぼ同時に、ネットワークを通じて報告が成され――おっと、電磁波ですわね。


 マントルに次いで中心核までワタクシたちに置き換わり始めたことで、一時的に外核と内核との間に起こっていた対流が止まる。宇宙より降り注ぐ様々な風を受け止めつつ……すとん、と。


 ワタクシたちは、肩に圧し掛かる力と共に、一斉に元の位置に戻りました。


 置き換わったワタクシたちが意図的に引力を作り、四方八方へと散らばろうとしていたワタクシたちを引っ張る。いちいちバラバラに戻って来るのは非効率過ぎますものね。



 ……さて、と。



「さあ、この星は全てワタクシたちと同化しましたので、次は宇宙船……乗り物を作りますわよ」



 とりあえず、この惑星と同量の資源を確保出来たワタクシは。



「せっかくなのだから、派手なのを作りましょう!」



 フェーズ1の終わりを宣言すると同時に、フェーズ2を開始する宣言を行いました。


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