銀河の果てより、こんにちわ
葛城2号
プロローグ、でありますわよ!
人類には知る由もないことではありますが、宇宙には、人類種族の総力を結集しても手も足も出ない、神々のような『力』を持った種族が大勢いますの。
その『力』は正しく神々の仕業に等しく、強大の一言。星を作り、命を自由自在に生み出し、銀河から銀河へと気ままに移動することを可能としておりました。
……ぶっちゃけ、出来ない事があるのでしょうか……まあ、あるのかもしれませんね。
で、そんなハチャメチャなやつらがうろちょろしている宇宙には……そんな強大な『力』を持った種族たちだけが加盟している、『種族連盟』と呼ばれる、宇宙の法律として君臨する者たちがおりますの。
で、その種族連盟なんですけど、実のところは加盟している種族の総数、数えきれないぐらいにあるらしいんですの。
多過ぎて、種族として大まかにカウントしてもなお、それだけあるらしいんですの。だから、その下ともなればもう、数えるのが面倒になるらしいんですの。
――いくら何でも酷過ぎじゃありません?
太陽系どころか月に降り立つことすら四苦八苦している人類と同レベル(場合によってはソレ以上)のやつがウヨウヨしているって……人類涙目って話じゃありませんわ。
ワタクシが前と同じ大脳やら組織で形成されていたら、そりゃあもう震え上がっていたところですわ。まあ、今なら何とか出来るかもしれませんけど……いえ、話を戻しましょう
とにかく、……どれぐらい強大かと言えば、まあ、そうですわね。
人類の物資を集めに集めて用意して、出来うる限り大量かつ高威力の戦術核を叩き込んで(もちろん、全て直撃で)も、向こうにはダメージ一つ与えられないというぐらいに強大で。
逆に、向こうからすればフッと鼻息一つで完全壊滅してしまう弱小種族であり、ちょいと手を振るだけで宇宙の塵になってしまう……それが、この宇宙における人類の立ち位置……といった感じでしょうか。
……で。先程から何度か、で、で、で、と前置きを重ねておりますので、そろそろ本題に入りましょう。
その種族連盟なのですが、これまた人類には知る由もないことに……実は、人類が人類として大地にその存在を知らしめるよりも、遠い昔。
連盟を起ち上げた『白銀の種族』と呼ばれるヤベーやつを始めとした上位者たちが提案して広め、今日に渡っても未だに人気を維持しているゲーム……通称、『お遊び』と呼ばれるゲームがありますの。
その中身は……連盟に加入できない弱小種族の一個体を『駒(ボナジェ)』として連れてきて、代理の殺し合いをさせ、その勝敗を予想する……という頭オカシイものでしたの。
いや、本当に、何でそんなのしようと思ったのでしょうね。やっぱ頭オカシイからでしょうか……いえ、頭オカシイなりに、理由があったらしいのです。
それは、下手にやり合えば星々……いや、銀河レベル……いやいや宇宙規模での崩壊を招くだけでなく、場合によっては宇宙そのものを破棄しかねない連盟種族の強大過ぎる力が原因でありました。
――ぶっちゃけてしまえば、連盟種族はその強大過ぎる『力』のせいで、迂闊に身動きが取れなかったのです。
あいつら、鼻くそほじりながら星の一つや二つ、銀河の一つや二つぶっ壊すヤベーやつらですから……ええ、冗談ではありませんよ。
ええ、そうなのです。
身動きが取れないといのは、下手に何かをすると他種族を無用に警戒させてしまうという意味での、身動きが取れないという意味なのです。
例えるなら……う~ん、そうですね。
連盟種族は頭オカシイ筋肉ゴリラで、宇宙は小さなビニールプール、そこにプカプカと浮かぶピンポン玉という名の弱小種族……はい、想像しましたね?
連盟種族は別に何か悪さをするつもりはありません。また、不必要に諸々を荒立てるつもりもありません。
でも、彼らにとってはそのつもりはなくとも、彼らが動けばプールの水面に波紋が広がります。考えずに動けば水面は溢れ、場合によってはプールから零れてしまう。
それと同じで、彼らがちょっと苛立って何かを攻撃するという行為は、星々を粉々にし、種族そのものを絶滅させ、銀河を滅茶苦茶にしてしまうというレベルなのです。
――どこぞの野菜の戦闘種族が可愛く見えるレベルですね、まるで笑えませんけど。
連盟種族の彼らからすれば、星が壊れたなら直せば良いし、絶滅するのは弱いからだし、銀河も彼らからすれば荒れた庭先を耕して直すようなもの……その程度でしかないのです。
何せ、彼らは銀河と銀河の間を自由気ままに行き来出来るだけあって、その存在は人知を超え……というか、人知で括れる存在ではありません。
繁殖だってそれ用の個体を幾らでも作り出せますし、そもそも雄雌の区別すらないし、だいたい繁殖せずとも増えることだって可能だし、桁外れに長い寿命も、そう。
その気になれば肉体も無意味な代物で、資源なんて言葉は彼らにとっては死語で、ぶっちゃけブラックホールの中でも平気な種族(これはさすがに連盟上位に限られるが)もいるらしいですのよ。
――頭オカシイでしょ? もはや、バグキャラですわね。
でも、一つだけ。考えれば考えるほどヤベーやつらなのを再確認しますが、そんな彼らにも、実は弱点というか、怖れる物が一つだけありますの。
そんな者たちにとって、何よりも恐れるのは外敵ではなく……ただひたすらに続く退屈らしいんですの。
少し考えてみましたけど、まあ、分からなくはないですわね。自分の事に置き換えてみたら、まあ、少しばかりは共感出来ました。
生物が絶対的に恐れる『死』を超越した彼らにとって、もはや、生存する理由など何一つないのでしょう。文字通り、思いつく限りはだいたい叶うだけの『力』を有しておりますものね。
それ故に、連盟種族の頂点である『白銀の種族』を始めとした連盟上位の種族たちは、考えたのだと思います。
――より面白く暇を潰すには、何をすればよいのか、と。
ワタクシたち『ボナジェ』からすれば、くっそ迷惑な事この上ないですけれども、まあ、彼らは彼らなりに必死だったのかもしれませんね。
死なないのに必死とはこれ如何に……あ、いえ、忘れてもらってかまいません。
兎にも角にも、望んだ分だけ全てを手に出来るせいで、彼らは退屈を持て余していました。叶わない願いを見つけ出すのが難しいからこそ、上位種族たちは生きる目的がなくなりました。
それは、じわりじわりと効いてくる毒も同じなのでしょう。
頂点の『白銀の種族』は少しばかり違ったらしいのですが、それ以下の頭オカシイ連盟種族はみな……退屈に飽き飽きしていたのでしょう。
だからこそ……彼らはのめり込んだのです。代理で殺し合いをさせる『お遊び』に。
一度手を離れれば、後は勝手に決着が付く。そこに、彼らの手は入らない。
入るのは、『お遊び』を始める前。駒である『ボナジェ』のチューニングをどうするか……ただ、それだけ。
それだけしか出来ないからこそ、彼らにはウケたのです。
全てを自由に叶えられるからこそ、叶えられない不自由が新鮮だったのかもしれません。羨ましいですね、妬ましいですね。
勝とうが負けようが、その結果へと如何様な経緯を経て辿り着く……ただ、それを楽しみに彼らは『お遊び』に夢中になったのです。
上位種族がハマれば、それはその下の種族に回る。そこからさらに下の種族へと広がり、そこからさらに下へ。
ネズミ算で増え続けた『お遊び』参加への表明を果たした種族は、100年が経つ頃には……まあ、天文学的数字に膨れ上がったらしいんですの。
本当に、私たち元弱小種族からすれば迷惑極まりない話ですけど……それ故に、ルールが制定されました。
――そりゃあ、そうでしょうね(笑)
無数に存在する弱小種族とはいえ、有限ですもの。次から次へと『ボナジェ』にしてしまえば、最後に待っているのは連盟種族以外の絶滅ですから。
それは、連盟種族たちも嫌だったのでしょう。
何一つ手を加えていないやつを『ボナジェ』に改造&調整するからこそ楽しいのであって、作り出した『ボナジェ』を使うのは面白みに欠けるというか、本末転倒もいいところなのでしょう。
いつか、はっ倒してやりたいですわね……とまあ、そんな感じで制定されたルールは速やかに受け入れられた。
それまで、無秩序に弱小種族を集めては『ボナジェ』にしていた連盟種族たちは、そのルールに従って『お遊び』を行うようにしましたの。
結果、弱小種族たちは絶滅の危機を免れた……という話を、ですよ。
『――とまあ、これがオレッチたちの歴史であって、ちきちき……ちくゆう……ちきゅうじんである君が、今そうなっている理由なんすけど……理解出来たっすか?』
「説明するのが遅い! おまけに、1から10までワタクシってば悪くないではありませんか!?」
『いやあ、ほら、最初に説明しようかなって思ったけど、何か君の調整に夢中になっている間に……ほら、そういうの、あるじゃん?』
「ありますけど! 確かに、そういうのはありますけど……当事者であるワタクシにそれを言っちゃいますか!?」
『どうせ先に知るか後に知るかの違いでしかないんだし、だったら最後にあぷららら……さぷら……そう、サプライズってやつにしようと思ってさ』
「サイコパスの発想が生み出すサプライズほど恐ろしいものはありませんことよ!?」
『でもさ、ビックリしたでしょ? いやあ、どんな反応するかなって、ちょっとワクワクしてたんだよねえ……で、どうだった?』
「……正直驚きましたけど、半分ぐらい冷静でした」
『え、そうなの? オレッチとしては会心の出来だったんだけど……』
「いや、だって主様、ある程度冷静に動けるようワタクシの頭の中を色々と弄り回したでしょう?」
『あ、そうだった』
「いきなり意味分からない身体に改造、男なのか女のかよく分からない状態、わけが分からないまま殺し合い、その理由諸々を一度にドーンと出されたせいで、大脳組織が一気にバランスを取ってしまいましたわ」
『あちゃ~……一度にやり過ぎちゃったね』
「小出しにした方が良かったかもしれませんね。途中から、脳汁がぎゅるるんと掛け巡って一気に他人事みたいな感覚でした」
まさか、最後の『お遊び』を終えて、ようやくお役御免になった時に告げられるとは……さすがのワタクシも夢にも思いませんでした。
……。
……
…………おっと、その前に。さて、少しばかり話を戻しましょう。というか、先に自己紹介かしら。
まず、今は宇宙歴……何年だったかしら……最初の頃はまだ前の意識が強かったのですけど、不安定だった身体が定着してから、いまいち感覚が曖昧でして……まあいいや。
とりあえず、宇宙歴です。西暦ではありませんよ、宇宙歴です。で、そんな宇宙歴の中を生きるワタクシは、元人間(男)の、現ボナジェでありますの。
そう、実はワタクシ、前は男でしたの。いわゆる、イエローモンキーだとか言われていたりした人種……だったかしら。
その頃の『俺』は、平凡な大学生でした。『日本』という国に生れ落ちて育った、平和ボケしていたおバカな大学生。
それが、かつてのワタクシ。
思い返せば、アレはそう。
彼女に振られ、就職も上手くいかず、もう酒を飲むしかねえって安酒パカパカ胃袋へ流し込んで前後不覚に陥り、公園のベンチで泥酔していた、その瞬間。
ワタクシに降り注ぐ、淡い光。ハッと我に返った時にはもう、ワタクシは『俺』ではなくなっておりました。
高くもなく低くもなかった平均的な背丈は、首元まで小さくなり、かといって、バランス良く。
広くもなく狭くもなかった平均的な肩幅は、抱き締めればどうにかなってしまいそうなぐらいに頼りなく。
ぼさぼさの無造作ヘアだった黒髪は、まるで溶かした黄金であつらえたかのようなサラサラな金髪に。
強いてキモくはない程度であった顔は、今では誰もが見惚れる程に整った美貌へと。
街中へ出れば、誰もが思わず二度見してしまうような、金髪赤目のスタイル抜群な美少女……そんな姿になっておりましたの。
これにはワタクシ、たまげましたわ。
でも、そう長くは、たまげておられませんでしたの。
何故かって、そのように身体を改造されておりましたから。
こう、何と言えば良いのかしら。性別どころの話ではありません。初めからそうだったかのように、ワタクシは目が覚めると同時に己が馴染んでいることを実感するのです。
それに、ワタクシの頭の中に、大勢のワタクシがおりまして……その内に幾らかが驚くのですけれども、冷静なワタクシが落ち着けと宥めに掛かるのです。
加えて、ワタクシの中には『事情通なワタクシ』がおりました。
おかげで、パニックに陥りかけたワタクシはすぐさま落ち着き……『事情通なワタクシ』から、ワタクシの身に起きた事を一つ一つ教えていただきました。
ワタクシが、人間ではなくなったという事。『ボナジェ』に成ってしまったワタクシは、主の命に従い『お遊び』に出る必要があるという事。
その為に、改造されたワタクシは、ワタクシ自身に備わった『力』を正確に理解し、それらを十全に操らなければならない。
何故なら、ワタクシは『ボナジェ』であるから。
『ボナジェ』であるワタクシは、主の命に従うのは必然。『お遊び』で勝てなくとも主は喜びますが、死力を尽くして勝てばなおの事、喜びます。
なので、ワタクシは全てを注ぎ込むのです。それがただ一つの命令であり、ワタクシの存在理由なのですから。
……と、言うような使命と、ワタクシが生まれた理由を、ワタクシの中にある無数のワタクシの一つである『事情通』が、それはそれは丁寧に教えてくれました。
でも、ワタクシはつい先程まで、それを消去されておりました。いったい何故かと言えば、そうした方が色々と都合が良いからだとか。
改造直後は色々と動作不良を起こし易く、『記憶』という余計な要素は省いた方が安定するらしいのです。
なので、役目を終えるまでは真っ白に、無事に役目を終えた後、主より消去された記憶と経緯をインストール……という流れで、最初の話しに繋がるのですわ。
――ぶっちゃけ、何してんの?(真顔)、と思いました(憤怒)。
でも、そんなこと言えませんでした。改造されたからというのもありますけど、キレたところで、我が主である、あのファッキンくそマンボウには通じませんから。
マンボウの見た目なのに、クソ強いんですよ。ワタクシの戦闘力が53万とかなら、マンボウは銀河を滅茶苦茶にしちゃうレベルの強さなので……と、そうでした。
遅れましたが、我が主の外見、マンボウなんです。
そう、あのすぐ死ぬとか誤解されがちな、ふよふよ泳ぐマンボウです。それにそっくりなので、ワタクシはファッキンくそマンボウと……と、話を戻しましょう。
……とにかく、それから色々ありました。
兎にも角にも、『お遊び』に出るのは確定。泣こうが喚こうが結果は変わらないので、ワタクシも死にたくない一心で、死に物狂いで戦いました。
幸いにも……という言い方は大変腹が立って仕方がないのですが、幸いにも、私を改造したファッキンくそマンボウは、勝つよりも死なない方に重点を置いておりました。
つまりは、攻撃力よりも防御力、防御力よりも再生力。割り振るボーナスポイントをほぼ『体力』と『再生』に割り振った『ボナジェ』……それが、ワタクシなのでした。
おかげで、勝率こそ悪かったですが、死にはしませんでした。いえ、正確には、殺しきれなかったのです。
ある程度のダメージを与える事は出来るのです。
ですが、私の再生力を上回るダメージを与える事は出来ない。
ある一定を超える火力を持った『ボナジェ』でなければ、私を倒せないのです。
もちろん、ワタクシの再生力を上回る火力を有した『ボナシェ』の前ではワタクシ、息切れしたマンボウのような有様でぼろ負けしますけど。
……何か思い出したら腹が立ってきましたわね、あのファッキンメタリック乳でか女。
ワタクシの主がマンボウで、アイツがタコ。
同じ海の幸に囚われた家畜なのだから、『最初はぶつかって・後は流れで……』戦法にしましょうと持ちかけようとしただけなの……話を戻しましょう。
元人間(男)から、金髪赤目の美少女のボナジェ(性別不詳)に成ったワタクシも、つい先日、ようやく自由の身に成れました。
いったいどうしてって、それが『お遊び』のルールだからです。出場回数が一定に達した時点で、使用していた『ボナジェ』は使えなくなります。
いわゆる、お勤め上がりというやつです。
そして、役目を終えた『ボナジェ』は、その主より一定基準に達するまでの『ご褒美』を与えられた後、解放されるようになっておりますの。
例の、クソざ~こ❤な生命体を捕まえて、『君に決めた!』みたいな感じで繰り出して戦わせる頭オカシイやつらの強制バトルは、もうお終い。
――わが世の春が来た、というやつですわね。
そんなわけで、ワタクシは今、とある惑星のとある建物の中に居ます。あ、言っておきますけど、大多数の者たちが想像する建物とは造形が違いますよ。
一言でいえば、肉塊です。こう、びくんびくんと痙攣する内蔵で形成された建物……といった感じでしょうか。
ワタクシはもう慣れたというか、ワタクシ自身もその気になれば同じ状態に成るので気にしておりませんが、初見の方はさぞ驚かれるかと思います。
で、そんな肉塊の中心部に、ワタクシと……そう、『ボナジェ』に改造したワタクシの主であるファッキンくそマンボウ……『連盟種族』がおります。
このマンボウ、人間の言葉で言い表せばチャライ話し方しますけど、それに騙されてはいけません。
何せ、浪漫仕様とか言って、おそらくは金属の一種(だって、よく分かりませんもの)で『ボナジェ』を構成するのが主流となっている中、生体部品で構成するという馬鹿な事をするのです。
まあ、ワタクシが言うのも何ですけど、気持ちは分かります。
『ボナジェ』に成る前は、それなりにゲームを嗜んでおりましたので、あえて主流から外れた、勝つ気が有るのかと疑うような装備で勝利する、その浪漫は理解出来ますし、共感出来ます。
――でも、それをワタクシで試されるのは御免あそばせ(憤怒)。
生体パーツで主流に追い付く為に無茶をするのは結構ですけど、それで調整をミスして辛いのはワタクシですからね!?
思い返すのは……そう、7戦目となる『お遊び』の時。
相手の攻撃が私の頭部を破壊したおかげで、新たに眼球を増設して視界を確保せねばならなかった……そんな時です。
端的に言えば、暴走しました。何がって、ワタクシの生体パーツが。
見たままを語るなら、剥き出しの首より噴火した再生途中の無数のワタクシ……と言った感じでしょうか。
制御機能にエラーが生じたせいで、視界もワタクシも七転八倒。
何とか制御しようとするワタクシへ、加勢しようとする肉片のワタクシたち。でも、そんなワタクシたちですら、剥き出しの臓器からボコボコと新たなワタクシたちが噴き出す始末。
地獄絵図って、あの事を言うのでしょうか。
何と言いますか、頭の中もバッチリ改造されているので多少な事には驚きませんが、アレはビビリました。この時ばかりは相手も呆気に取られて手が止まりましたぐらいに、酷いモノでした。
……まあ、そんな光景を前に、やんや、やんやと喜ぶファッキンくそマンボウたちの方が酷いんですけれどもね……っと、いけない、また話が脱線しましたわね。
「……で、話を戻しますけれども、『ボナジェ』の役割を終えたワタクシは『ご褒美』を与えられ、解放される……ということで、よろしいのね?」
『うん、その通りっす。説明した通り、一定値に達するまでは何でも言ってね』
「それでは、男にも女にも成れてチート増し増しな各種の才能に、老若男女を問わず魅了する外見と無敵のボディ、何なら魔法染みた反則技が使えて、一生を500回繰り返しても使い切れないマネーをワタクシに与えた後で、地球に戻してくださいまし」
『あ、それは無理っす』
「拒否の判断が速いですわよ!?」
間髪入れずに拒否され、思わずワタクシ、地団太を踏みます。ぶちょりぶちょりと、肉の床から血飛沫がヤバいですけど、この程度でワタクシの気概は萎えません。
『君の外見とか変えるのは絶対駄目っす。少なくとも、オレッチは変えません。君が自分で変えるのはいいんすけど、オレッチはやりません』
でも、そんなワタクシの気概も、主のマジトーン(声色)の前ではシナシナのシナ~で、あります。
そういえば、そうでした。
このファッキンくそマンボウ、ワタクシを浪漫仕様で構成するぐらいなのだから、それを自ら変えるような事は絶対にしないマンボウなのです。
人間の言葉で言えば、ヲタクというやつでしょうか。
次から次に嫁を拵(こしら)えるヲタクではなく、ガチ恋ヲタクというか、推しと定めたキャラを10年20年と推し続ける、腰の据わったヲタク。
……本来、『ご褒美』は『ボナジェ』に与えられた数少ない権利であり、それは『連盟種族』の頂点である『白銀の種族』が定めた絶対のルールでございます。
ナチュラルに他種を家畜扱いし、物理的に玩具にしちゃう『連盟種族』ですら、『白銀の種族』の前ではタジタジ……大人しく言う事を聞くぐらいには絶対なのです。
でも、このくそマンボウは拒絶しました。
自らのヲタク魂に嘘を付けず、これが原因でヤベー事になっても構わない覚悟で、首を横に振りやがりました。
まあ、どこが首かは傍目には分かりませんけど。
何にせよ、さすがはファッキンくそマンボウ。限界を超えた、限界くそヲタク。それが、ファッキンくそマンボウ……我が主。
……。
……。
…………ええい、ならば仕方ありません。
プランBへと思考を切り替えたワタクシは、ひとまず、言おうとしていた『ご褒美』を全て破棄しました。
(見た目を変えるのは駄目……つまり、ワタクシが作り出した分体は別として、ワタクシの構成組織……生体パーツそのものを変えるのは駄目というわけですわね)
とはいえ、そうなると私が言える願い事は非常に限られてしまう。
というのも、ワタクシは他の『ボナジェ』とは異なり、生体パーツで構成されております。つまり、ワタクシに搭載出来るパーツが非常に限られてしまいますの。
まあ、そうなるのも分かります。
生体パーツにも特有の良さはありますけど、互換性という一点においては、ぶっちゃけ糞オブ糞……だから人気が無いわけですし。
なら、『連盟種族』が使う万能道具とか……そう考えるのは浅はかな考えというやつですわね。
何故なら、『連盟種族』が使う道具は、あくまでも『連盟種族』という頭オカシイ身体を持って初めて使いこなせる万能なんですの。
例えるなら、人間は人間用、動物は動物用、といった感じでしょうか。
ワタクシでも使えない事はないのですが、こう、出力が違い過ぎるせいで……乾電池4本で大型車のエンジンを可動させるぐらいの無茶振りと言えば、想像が付きやすいかしら。
これが主流の金属(?)で構成された『ボナジェ』であれば、『ボナジェ』にも搭載出来るようにカスタマイズされた万能道具がいっぱいありますけど……困りましたわね。
「……では、『知識』を所望致します」
『知識っすか? 具体的にはどんなのがいいんすか?』
「こうなれば、必要なモノは自分の手で作る他ありません。なので、宇宙戦艦とかワープ装置とか、そういう諸々を作れる知識……それと、その知識を十全に生かす機能が欲しいですわね」
『う~ん、そうなると……』
うねうねうね、と。
死にかけた魚の如く奇妙な痙攣を見せるマンボウの姿は正直ちょっと面白かったですが、口に出したらヤベー事になりそうなので、黙っている……と。
『とりあえず、君の身体で扱えるだけの知識でいいっすか? おおよそ、オレッチたちの知識や技術の0.2%ぐらいだけど……』
「それで宇宙戦艦とか自力で作れますの?」
『時間は掛かるけど作れるよ。ちゃんと材料を用意出来るように、生体パーツ用の物質転換装置(オメガチェンジ)を始めとして、諸々を搭載しておくから』
「痒い所に手が届きますわね」
『これで、だいたい……あ、まだ一定値まで足りない。他に何か有るっすか?』
「他ですか……そうですわね、ワタクシ、この身体に成る前は外国語をペラペラに喋ってドヤ顔する事に憧れておりましたので、
『お~、アレが有ると交流が捗るよね~……う~ん、まだ微妙に足りない。他に、かる~いお願い事はあるっすか? 出来れば、新たな機能を搭載する以外で』
「それは中々に厳しい注文ですわね……まあ、そうですわね。例えば、以前のワタクシが常飲していた炭酸飲料であれば、どれぐらいになりますの?」
『ああ、あれなら1分間に500ml飲む計算で、約6000万年分になるかな。頑張ってくれたから、サービスで7000万年分に出来るけど、どうするっすか?』
「7000万年ひたすら炭酸飲み続ける日々なんて嫌に決まっているでしょう!? 加減というものを考えてくださいな!」
まったく、これだから『連盟種族』というやつは……吐きそうになる溜息を堪えつつ、とりあえず、ワタクシは思考を巡らせる。
……基本的にはもう、思いつく限りの『ご褒美』は貰えました。
なので、他にもとなると、ちょっとすぐには思いつかないというか……でも、願い事はいらない、というわけにはいきません。
何故なら、それは『白銀の種族』が定めた絶対のルール。
よほどではない限り罰則を与えませんが、その名の効力は絶大。先ほどはヲタク魂を発揮したマンボウですが、基本的には他と同じくちゃんとルールを守るぐらいには。
つまり、一定値に達する願い事を言わなければ、このままファッキンくそマンボウと、うんうん唸りながら睨めっこ……う~ん、正直、嫌ですわね。
……でも、本当に困りましたわね。
せめて、身体が以前のモノに戻れるのであれば幾らでも思いつくのですが、この身体は……その、根源的な欲求すら、自分で分裂して解消する事が出来てしまうのです。
まあ、それ以前に脳内物質を自由自在に分泌出来る今のワタクシに、解消も糞も無いのですけれども。
なので、パッと思いつく事が全て、『いや、自前で解決出来ますし』で済んでしまうのが……う~ん……あ、いや、お待ちになって。
(里帰り――決まりましたわ!)
以前の……その単語に天啓を得たワタクシは、『以前のワタクシが住んでいた故郷に戻らせて欲しい』とお願いしてみました。
これには、マンボウもニッコリ……え、笑っているの? いないの? どっちなの?
傍目にはプクプクと謎の泡を吹いているマンボウからの返事は『それならギリギリ足りる』、であった。
……紛らわしい反応するなと思いましたが、結果オーライでございます。
そう思って怒りを呑み込んだワタクシは、『あ、でも、一つだけ気を付けるっすよ』戻ったら何をしようかなと考えようとした――が。
『既に、君の故郷の近くに他のボナジェが居るっすね。ちゃんとコミュニケーション取らないと危ないから気を付けるっす』
「え、他の?」
『ほら、前に君の頭部を粉砕して再生機能にエラーを起こさせたボナジェがいたでしょ? あの子もどうやら同郷っぽいっすね』
「あの腐れメタリックが居る場所で、このワタクシが平静を保てると思いまして?」
――あいつ、同郷なんですの!?
思わずそう叫びそうになったワタクシですが、すぐに頭が冷静になる。最初は面食らったこの感覚も、今では慣れたモノ。
……まあ、このマンボウが語る『近い』という言葉の範囲は、それこそ銀河数千個分の距離。いちいち言葉のままに気にしていては、こちらが持ちませんわね。
何せ、宇宙はとにかく広いのです。考え出すと頭がハゲますので、何事も程々に。
ワタクシは己の故郷を『地球』と呼んでおりますが、限りなく似通った歴史を紡いで、それこそ、傍目には見分けが付かないぐらいの今に至っている星があってもおかしくはありません。
『だと思ったっす……なので、君の故郷に似た歴史を経て進化した人類っぽい人類が住んでいた星でいいっすか?』
なので、くそマンボウのその提案に、私は特に思う所もなく承諾した。
だって、考えてみたら今のワタクシが故郷に戻ったところで、どうしろという話ですものね。
アレからどれだけの月日が流れたかは存じませんけれども、少なくとも、この身体に成る前のような立ち振る舞いで過ごせと言われても、無理です。
まず、見た目が違いますし……両親は……両親か……まあ、以前のワタクシは大事に想っていたらしいのですが、どうしようもないので放置で行きましょう。
――そう、ワタクシが脳内会議で結論を出した……直後。
『――それじゃあ、またどこかで。色々と楽しかったっすよ』
その言葉を掛けられ――次の瞬間にはもう、ワタクシは宇宙空間を漂っておりました。
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