おめかしした二人
「ピクニックに行くわよ!」
───翌日。
教会もお休みというところで遅めの朝食を終わらせると、唐突にニコラがそんなことを言い始めた。
昨日、あのような話をしてちょっと様子がおかしかったなと思ったのだが、ニコラはいつも通りの様子を見せている。
少し心配していたけど、普段通りで安心した。
「いいですね、ピクニック!」
寝不足を感じさせないシスターが両手を合わせて笑いながら賛同する。
昨日夜遅くに出掛けていたシスターだが、今日は朝頃ちゃんと戻ってきた。
ニコラは気づいたら横でシスターが寝ていたことに驚いたらしい。
まぁ、ニコラもあれから話し込んで寝ていなかっため朝起きるのが遅かったのだ、シスターが横で寝ていてもおかしくはない。
「というわけでナギト、お願いね」
「当たり前のように弁当を要求してくるな」
この面子だと必然的に俺が用意しなければいけないというのは分かっているのだが、命令されるとそこはかとなくやる気が失せてしまう。
とは言いつつ、実際にニコラがせっかく来ているので作ってあげようと、作ることにはなりそうだが。
「んで、行くって言ってもどこに行くんだよ?」
「そうね……確か、南の方に行けば大きな湖畔があったわよね?」
「あるな」
「そこでいいんじゃないかしら? 寒いけど、いい陽気だしちょうどいいと思うの」
冬にピクニックをすることはあまりないが、今日の空は快晴。
程よい陽気で風も少ないため、確かにピクニックするにはちょうどいいのかもしれない。
ここにいても特にやることはないので、ニコラの言う通りピクニックに行くのもいいのかもしれない。
連れて行ってやる的なことも言ったしな。
「それじゃあ、早速準備しなきゃですね!」
「そう言うけど、準備するのは基本俺な? 弁当も作らなきゃいけないし」
「馬鹿ね、女の子はいつだって準備があるものよ」
そういうものだろうか?
言われてみれば、シスターも出掛ける時は色々と出てくるのが遅かった気がしないこともない。
「お前らも準備があるっていうのは分かった。俺もどうせ今から弁当の準備でもしなきゃいけないから、思う存分準備でもしてこい」
「分かったわ───というわけだから行きましょ、アリス。あなたにあげたい服とかいっぱい持ってきたの」
「本当ですか!? 嬉しいですっ!」
シスターとニコラは仲良く手を繋ぎながら二階へと上がっていく。
俺はそんな二人の背中を見送って、小さくため息を吐いた。
「……さて、俺もさっさと作りますかね」
そして、重い腰を上げて準備に取り掛かるのであった。
♦♦♦
それからしばらしくして。
「こんなもんでいいか」
大きな弁当箱が二つ。
湖畔はここからかなり歩いた場所にあるので、あまり多くの荷物は持ちたくない。
それに、ちょっと前に朝ご飯を食べたばかりなので、それを踏まえてこれぐらいでいいだろうと判断したから、あえて二つで抑えた。
「……にしても、あいつら遅いな」
弁当を作り終わっても、一向に姿を見せる気配がない。
何か準備しているのだろうという話だったが、一体何をそこまで準備しているのだろうか。
「待たせたわね」
そう思った直後、階段を降りる音が聞こえてきた。
そこから姿を現したのはニコラだけ。
しかし、ニコラの姿は先程までとかなり違っていた。
(なるほどな、準備っていうのはこのことか……)
長い赤髪はサイドで纏め、黒のパンツと白のシャツを着ている。
上にはジャケット羽織っているが、パンツとシャツが体のラインを強調し、彼女のスタイルのよさをこれでもかという風に見てせいた。
あまり服にこだわらず、知らない俺からしてみてもオシャレなんだなと思ってしまう。
そして、それを着こなすニコラはかなり綺麗で美しかった。
「隣を歩く俺は鼻が高そうだな」
「あら、ありがとう。気合いを入れてよかったわ」
遠回しに褒めると、ニコラはすました顔でお礼を言う。
だが、若干口元が綻んでいることから、そう言われて嬉しかったということだろう。
流石にこの時間までおめかしをしていたのだ───よく考えなくても、褒められたら嬉しいに決まっている。
「中々、服を選ぶのに時間がかかっちゃったわ」
「ニコラだったらなんでも似合いそうだけどな」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、そのセリフは私じゃなくてアリスに言ってちょうだい」
ニコラが階段をまた上がる。
忘れ物だろうか? そう思っていたが、すぐにまた姿を見せた。
しかし、姿を見せたのはニコラだけではなく───
「あ、あのっ! まだ恥ずかしいのですが!」
「大丈夫よ、似合っているから。それに、あなたもその服「可愛い」って言ってたじゃない」
「私が着るのに違和感があるんですっ!」
「いいからいいから。ほら、ナギトも準備を終わらしているわよ」
ニコラに手を引かれて現れたシスター。
長い金髪にはウェーブがかかっており、ふわふわと優しい印象を与えている。
白いもふもふとしたコートや、白いセーター、肌色のロングスカートが更にその印象を増長させていた。
小柄な体躯と可愛らしい顔立ちのおかげか、シスターの清楚さと可愛らしさの両面を押し出しているようだった。
「…………」
そんなシスターの姿に、思わず固まってしまう。
いつもは滅多に見ない、シスターのおめかしをした姿。
彼女の違う姿を、俺は完全に見入ってしまった。
「ナ、ナギトが何も言ってくれないです……」
「あれは単純にアリスが可愛くて固まっているだけよ、安心しなさい」
自分の名前を言われたことによって我に返る。
せっかくおめかししたのだ、何か言ってあげないといけない。
でも、ニコラみたいにすんなりと言葉が出てこなくて───
「……す、すっげぇ似合ってる」
そんな、短くて具体的ですらない言葉しか出てこなかった。
だけど出てきた瞬間、一気に熱が込み上げてくるのを感じる。
「そ、そうでしゅか……ありがとう、ございます」
シスターは俺の言葉に顔を真っ赤にして俯いてしまう。
褒められたことに嬉しかったのか、それとも恥ずかしかったのか? 俺には分からなかった。
「ほんと、あなた達お似合いなのにね……」
最後、ニコラがそう呟いた声だけが部屋に響いた。
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