詰め寄る二コラ
夕食を食べ終え、三人で仲良く談笑したのちにそれぞれがお風呂へと入った。
女同士で何やら話があるのか、二コラとシスターは仲良く一緒に入ったみたいだ。
シスターの風呂上がりの姿は何度も見ているから慣れたとしても、二コラの風呂上がりの姿は初めて見たので、思わず少し目を逸らしてしまった。
二コラがニマニマと笑みを浮かべながら俺の方を見ていたので、恐らく俺の様子に気がついたのだろう。
恥ずかしい思いをさせられた。
そして現在、フクロウの鳴き声が聞こえ始めた夜中。
積もる話は風呂場だけでは終わらなかったのか、二人は遅くまで何やら談笑したあと、そのまま眠ってしまった。
来客……しかも、初めてこの教会に泊まるのだ。何かあったら困ると、二人が寝入るまで起きていた俺も流石に寝ることにした。
静寂が響き渡り、ゆったりとして訪れてきた睡魔が徐々に襲い始める。
その時———ギィ、と。階段を降りるような音が耳に入ってきた。
(シスターか……?)
瞼に薄っすらと光が浮かび上がる。
恐らく、シスターがランタンでも持っているのだろう。
ということはつまり、今日もロイスさんのところに会いに行くということだ。
(二コラがいるから、あんまり遅く帰って来なければいいが……)
ここで念押しでもすればいいのだろうが、ここで起き上がってしまえば「気づいている」ということがバレてしまう。
今度ロイスさんに会って、念でも押させてもらうか? いや、それだと結局俺が知っているとシスターに知られてしまう恐れが……。
(……シスターが早く帰ってくることを祈るか)
バタン、と。静かに扉が閉められる音が聞こえる。
俺は瞼を閉じたまま、明日のことを少し考えながら睡魔に身を委ねた。
♦♦♦
「……なさいっ」
「ん……」
「起きなさい、ナギト!」
首がガクガク揺さぶられるような感覚を覚える。
睡魔に身を委ね、重くなった瞼を開けると―――本当に揺さぶられていた。
「く、首が……ぐあんぐあん、って」
「呑気に寝ている場合じゃないでしょう!」
切羽詰まったような声が耳に響き、徐々に意識が覚醒していく。
すると眼前には二コラの顔があった。
白く露出の多い寝間着に、上に一枚は追っている状態で、少し目に毒である。
―――そんな二コラが、何故か俺の上に馬乗りの状態で乗っていた。
「……襲われるの?」
「襲うわけないでしょう!?」
いや、寝込みの俺にこの状況って……そういう風にしか見えないのだが。
「それより、本当に呑気に寝ている状況じゃないのよ!」
あまりにも切羽詰まった様子。
これは冗談を言っている場合じゃないと、俺は胸倉を掴まれたまま上体を上げた。
「……どうした? 何かあったのか?」
「何かあったって……何かあったのよ―――」
二コラが、若干涙を浮かばせながら叫ぶ。
「アリスがいなくなっちゃったの!!!」
「…………」
……そう言えば、二コラには言っていなかった。
「私が目を覚ました時には、一緒に寝ていたアリスの姿がなかったのよ! 二階にもトイレにもいなかったし、一階も探してみたんだけど、ナギトしかいなかったし……」
「あー、それはだな―――」
「ど、どどどどどどうしようっ! アリスは攫われちゃったのかしら!? こんな平和な村でそんなことはないって気が緩んでいたからアリスが……私がしっかりとしていないといけなかったはずなのに……ッ!」
二コラがあたふたと言葉を捲し立てる。
こんな狼狽える二コラの姿は初めて見た。ということは、二コラにとってはそれほどまでに大事のように思えたのだろう。
だが、本当のところはシスターは攫われてなどいないし、単にロイスさんの下へ向かっただけだ。
「とりあえず一旦落ち着け、な?」
「ごめんなさいっ! アリスの身に何かあったら、私は……!」
「いいから落ち着けって!」
俺は二コラの肩を掴んで、真っ直ぐにその瞳を見据える。
すると二コラは一瞬だけ肩を震わせると、徐々に狼狽えるのをやめて俺の目を見てくれた。
「で、でもアリスが……」
「大丈夫だって。別に攫われたわけでも、何かあったわけでもないから」
「そう、なの……?」
縋るようなルビー色の瞳。
凛々しく、お淑やかな雰囲気を纏っていた二コラという少女がとても弱く、細く感じてしまう。
これが年相応の女の子の彼女。
普段がしっかりとして大人びているため、こういう彼女の姿を見ると心が痛んでしまう。
もう少し早く言っていればよかったかな……だが、二コラは常にシスターと一緒にいたし、シスターに気づかれないまま伝えるのは難しかったように思う。
「あぁ……大丈夫だ。俺はちゃんといなくなった理由を知っているし、それを容認している」
「そ、そっか……よかったわ」
俺が強く言うと、二コラがホッと胸を撫で下ろす。
場違いで不謹慎かもしれないが、ここまでシスターのことを心配してくれていることに、少し嬉しく思ってしまった。
「だったら、アリスはどこに行ったの? ちゃんと説明しなさいよ」
「あ、あー……うん、まぁそうだよな。言わなきゃいけないよな」
どう伝えるべきか? そう迷ったが、二コラを本当に安心させるためにも伝えておかなければならないだろう。
だから俺は小さく溜め息だけ吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「実はな―――」
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