三人での食卓
「ん〜〜〜っ! やっぱり、ナギトの料理は別格だわ!」
荷物の整理などしている間に夕食頃となり、俺達は現在食卓を囲んでいる。
夕食はそれなりに凝って作るのだが、今日は一段と気合いを入れさせてもらった。
そのおかげもあって、テーブルには滅多に見ない豪勢な料理が並んでいる。
目の前で美味しそうに舌鼓を打つニコラを見ていると、自然と頬が緩んでしまった。
シスターも美味しそうに食べてくれるが、こうして客人にも美味しそうに食べてもらえると作ったかいが芽生えてくる。
「ですよねっ! ナギトの料理は本当に美味しいですから!」
「ねー……一家に一人ほしいわ」
「お前ん家にはもっと腕の立つ料理人がいるだろうに。嬉しいが、俺と比べたら失礼だろ」
ニコラは俺達と違って貴族様だ。
当然、自分で料理を作ることなどしないだろうし、専門の料理人などを雇っているはず。
ただの牧師と比べるまでもなく、そっちの専門の人の方が美味しいに決まっている。
「確かにうちの料理人が作る料理は美味しいけれど、ナギトの方が美味しく感じるのよ。なんて言うのかしらね……愛情が篭っているから、かしら?」
「分かりますよ、ニコラ!」
この子達はどうしてその要素が分かるのだろうか?
別に特段愛情を込めたつもりはないんだが……。
「ねぇ、うちで働かない? 給金もたくさん出すわよ?」
「……ニコラ?」
「あー、はいはい。悪かったわよ。冗談だから、そんな目で見ないの」
一瞬、シスターの目からハイライトが消えた気がした。
どことなく、体感温度が著しく下がった気がしたのは気のせいではないだろう。
温度を上げるために、俺は横に座っているシスターの頭を撫でる。
心なしか、体温が元に戻った気がした。
「……相変わらず、ナギト達は仲がいいこと」
頬杖をつきながら、苦笑いで俺達のことを見てくるニコラ。
「ニコラも仲良しさんですよ? ナギトさえ取らなければ……」
「取らないわよ……でも、そうねぇ。アリスも一緒にうちに来てくれたら、取られることもなく一緒にいられるわよ?」
「ぬぐ……! 魅力的な提案です……ッ!」
「揺れるな揺れるな」
まるで悪魔の誘いを受けたような顔をしているシスター。
確かに、友人といつでも会える距離というのは魅力的な話だろう。
しかし───
「……ですが、やっぱりやめておきます。私は、この村とこの教会のことが大好きなので」
シスターが申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
この教会には父さんと母さん……俺達を拾ってくれた両親の思い出がいっぱいある。
俺達が牧師とシスターになろうとした理由の一つに、その思い出を壊したくないというのがあった。
俺達が離れてしまえば新しい牧師とシスターが派遣される。
魅力的な提案でも、それは長い間ここにいた者としては「嫌だ」という気持ちの方が強いため、シスターが首を縦に振ることはないだろう。
もちろん、俺もだが。
「……知ってたわ。それも冗談だから安心しなさい」
「で、でもっ! ニコラのことも大好きですよ!? いっそのこと、ニコラがこっちに来るというのは───」
「貴族だから無理ね」
「で、ですよね……」
いずれ家督を継ぐ少女がこんな村に来ることはできないだろう。
分かっていたはずなのに、シスターはあからさまにしょんぼりした姿を見せた。
「ま、そんな暗い話をするな。またこうして集まればいいんだからさ」
「そ、そうですよねっ! 次は私達がニコラのところに行きますから!」
「ふふっ、楽しみにしているわ。とびっきりのおもてなしをしてあげるから」
シスターの顔に笑顔が戻る。
ニコラも、あからさまな態度は見せていなかったものの、少し残念そうな空気を漂わせていたので、明るくなってくれてよかったと思う。
せっかく集まることができたんだ。
暗いままの空気より、こっちの方が断然いい。
「そもそも、向こうの方が遊ぶ場所たくさんありそうだからな。正直、来てもらうよりも俺達が行った方が楽しいかもしれん」
「あら、そんなことないわよ? この村も、のどかで探検のしがいがあるわ」
「……探検するの? ニコラもいい歳だろうに」
「未知っていうものにはいくつになっても好奇心が揺さぶられるものよ。私がいる間は、色んなところに連れて行ってもらうから」
「……へいへい」
教会も、しばらく休みにしないといけないな。
まぁ、しばらく休むかもとは信者の方には言っておいたので、問題はないと思うが。
「私はフォーレンに行って海に入ってみたいです! 夏に行くとひんやりとして気持ちがいいと聞きました!」
「ふふっ、そうね。私は何回も入ったことがあるけれど、あれはいつ入ってもひんやりとしていて気持ちがいいわ」
「では、次行く時は海に行きましょう!」
「なら、水着も用意しておかないとね」
ニコラはそう言うと、何故かチラリと俺の方を向いた。
「……なんだよ?」
「次集まる時が楽しみね」
「は?」
「だって、こんなに可愛い女の子の水着姿が見られるのよ? 男としては、嬉しいことではないかしら?」
からかうような笑みを向けられて、思わず想像してしまう。
クビレのはっきりしている肢体に、靡く赤髪。黒を基調としたビキニと美しい造形美が夏の日差しによって輝く。
一方で、シスターは───
「ごふっ……!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「あらあら。ナギトって、意外とそういうのに免疫がないわよねー」
むせた俺に笑うニコラ。
心配してくれるシスターの姿を見て、想像の影響もあってか顔に熱が上ってしまった。
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