二コラの来訪
ある程度の食材をもらい終え、教会へと戻ってきた俺達。
ご飯を食べるような昼時ではあるものの、軽くお腹に入れる程度しておいて、絶賛暖炉の前でくつろぐいた。
夕食は豪勢にすると決めたのだ、ここで食べてしまっては何かもったいない……そう判断しかたからである。
シスターも俺と同じように暖炉の前のソファーで頭を俺の肩に預けながらぐでんとしていた。
「お布団もいいですけど、暖炉の前というのも暖かくて気持ちがいいです……」
「そのまま寝たら風邪を引くけどな」
「その時はナギトが起こしてくれるという方向で―――」
「寝たら速攻で部屋に連れて行ってやるから安心しろ」
「わーい」
先程の訝しむ空気はどこに行ったのか?
しばらく経った今では、気にしている様子などまったくなかった。
現在は堕落まっしぐらである。
(っていうか、そろそろ二コラが来てもいい頃だな……)
昼過ぎと言っていたから、そろそろ来てもおかしくはないはず。
そわそわしてしまう気持ちを抑え、シスターの頭を撫でながらボーっと時間が過ぎるのを待っていた。
その時———コンコン、と。教会ではなく俺達がいつも使っている玄関の扉が叩かれた。
「ふぇっ? 今日はお休みなんですけど……誰でしょう?」
「誰だろうなー……」
恐らく信者の方ではないだろう。
大方の予想はついているが、シスターは首を傾げる。
「私が出てきますっ!」
シスターは立ち上がると、そそくさと玄関の方へと向かって行った。
俺はそのあとは追わず、そのまま暖炉の前でぐったりと耳を澄ませる。
予想が合っていたら、シスターの驚く声が聞えてくるだろう。
どんな反応をするのか予想しながら、少し楽しみにその時を待つ。
すると———
『えっ!? ニ、二コラ!? どどどどどどどうしてここにいるんですか!?』
予想通りの驚く声が響いてきた。
お兄さんは、驚く声が聞えてきて大変満足である。
そして、しばらくシスターの驚く声が響き渡ると、足早とした足音が近づいてきた。
「ナ、ナギトっ! わ、私を騙しましたね!?」
戻ってきたシスターが俺に詰め寄ってくる。
「騙したとは失敬な。ちょっとしたサプライズをしていただけだ」
「サプライズは大成功ですよ! いじわるさんです、二コラとナギトはいじわるさんですっ!」
「あっはっはー」
「もうっ 、もうっ!」
ポカポカと胸を殴ってくるシスターを見てご満悦な俺。
こういう反応をしてくれるのなら、黙っていて正解だったなと思う。
「ふふっ、ちゃんと驚いてくれてよかったわ」
そのあと、来客———赤髪を靡かせ、おかしそうに笑う二コラも部屋に姿を見せた。
その様子はとても楽しそうという風にしか見えなかった。
「よっ、二コラ」
「久しぶりね、ナギト。ちゃんと黙っていてくれていたようでよかったわ」
「そりゃあな、シスターのこんな反応が見られるんだから、黙っておくに決まっているさ」
「それもそうね」
二コラは大きめなカバンを床において、シスターが座っていた場所へと腰を下ろした。
貴族の令嬢が男の隣に座ってもいいのだろうか? とは思うが、もうすでに今更だろう。
そもそも、そういうのを気にする彼女でもなさそうだし。
「ナギトも二コラも酷いですっ! 教えてくれてもよかったじゃないですか!」
「でもそうしたら、アリスは驚いてくれなかったでしょう?」
「驚かないですけど、ちゃんと喜んでました!」
「あら……じゃあ、今は喜んでくれていないのかしら?」
「喜んでいますっ! 二コラと会えて私は嬉しいです!」
怒っているのか喜んでいるのか分からない反応に、二コラは口元を綻ばせる。
シスターはその顔を見て頬を膨らませると、不機嫌ですというアピールを見せながら俺の膝の上に座ってきた。
「まぁ、機嫌を直してちょうだい。あと五日間は一緒にいるんだし、アリスが不機嫌だと楽しくないわ」
「ふぇっ? 五日もいてくれるんですか?」
「えぇ、ナギトの誕生日までここにいるつもりよ」
「うわぁ、嬉しいですっ! 二コラとしばらくはずっと一緒ですね!」
だから、あのような大きい荷物を持ってやって来たのだろう。
五日間も滞在するとなれば、それなりに荷物も必要になってくるからな。
「というわけで、シスターの部屋で寝てもらおうと思うんだが、いいか? 流石に下で寝させるわけにはいかないし、男と同じ空間っていうのはマズいからな」
「わ、私の部屋ですか……」
俺がそう言うと、シスターが急に口籠ってしまった。
てっきり「別に構いませんよ!」って言うのかと思っていたのだが……。
「難しかったらいいのよ? ナギトだったら私を襲うことなんてしないでしょうし、雑魚寝でもいいから下で寝るから」
「強かだな、お前は」
「い、いえっ! 全然大丈夫です! 一緒に寝ましょう! えぇ、そうしましょう!」
二コラが少し困った顔をすると、シスターは慌てて首を縦に振った。
いつもとは少し違う反応に、俺も二コラも首を傾げてしまう。
二コラが滞在することに不満があるようには思えない。
先程の反応を見る限り、二コラが来たことに対しては嬉しいと思っているはず。
だったら何故? そんな疑問が湧き上がる。
「(ど、どうやって夜抜け出しましょう……まだ、お料理を教えてもらわなきゃいけないのですが……)」
シスターが何やらブツブツと呟く。
本当に小さい声だったため、ニコラも俺も上手く聞き取ることができなかった。
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