愛しているゲーム
纏めることもないだろうが、『愛しているゲーム』がどういったものなのか、ルールを説明しておこうと思う。
・見つめ合い「愛している」という言葉を交互に言う。
・言われた際、先に照れてしまう。もしくは恥ずかしがってしまった方が負け。
シスターの話だと、別に「愛している」という言葉じゃなくてもいいらしい。
「好きだ」とか「一生幸せにする」とか、告白のような言葉でも問題ないみたいだ。
要は相手が照れるような言葉を言えばいい。
確かに、同じ言葉ばかりだと相手も慣れてしまうだろうし、言葉が限定されないというのはゲームの進行上、都合がいいはず。
―――というわけで、俺とシスターは早速ゲームをすることになった。
「…………」
「…………」
長椅子に座り、互いを見つめ合う。
シスターの顔はもう脳裏に刻み込むほど見てきたが、実際にこうしてまじまじと見つめ合うということは存外初めてかもしれない。
一方的に寝顔を見たりとかというシーンはいくらでもあったのだが……。
(いや、結構恥ずかしいぞこれ……ッ!)
この機会に告白をしたい―――そういう気持ちから始めたが、ここまで恥ずかしくなってしまうものだとは思わなかった。
シスターの琥珀色の双眸が向けられる。愛くるしく可愛らしい顔立ちや桜色に潤んだ唇が眼前に迫り、見つめられているという行為と「まじまじと見ていいものか?」という不安に似た照れが一気に襲い掛かってきた。
(これが『愛しているゲーム』か……子供達も、凄いゲームを考えるものだ)
シスターの頬が若干朱に染まっている気がする。
それでも目を逸らしてこないということは、このゲームに本気で勝とうとしていることだろう。
「ナギト……このゲームですが、負けた方は勝った方の言うことをなんでも一つ聞く、という罰ゲームを加えることを提案します」
「お嬢さん、それは余程の自信からきた言葉でしょうか?」
「はいっ……こうして見つめているだけだというのに、ナギトはどことなく恥ずかしがっているように見えます。つまり、すでに照れてしまっているということです!」
「ふむふむ」
「だから私は勝ちを確信してます! なので罰ゲームを設けたいです!」
なんて卑しいんだ、シスター。
とても聖職者とは思えないような発言だ。
とりあえず、一度自分の顔を鏡で見てきた方がいいぞ? 人のこと言えないと思うから。
(だが、俺としてもシスターには負ける気がしないんだよなぁ)
だって、あのシスターだから。
隠し事なんてできない、すぐに顔に出てしまうような女の子だから。
正直、恥ずかしいと思っているのは事実だが、負ける気は全然しないのだ。
「おーけー、じゃあそれでいこうか」
「ふふっ……そうこなくちゃ、です!」
シスターが悪いことを企む子供みたいな分かりやすい笑みを浮かべる。
「結局、どっちから始めるよ? シスターから行くか?」
「いいですよ……私から始めます!」
シスターは口を閉じ、大きく深呼吸をする。
その間、少しばかりの静寂が教会に広がった。
だからからか、異様な緊張感が芽生え、シスターが紡ごうとする言葉に胸の鼓動が早まってしまう。
そして───
「ナ、ナギト……私、私は……ナギトのこと、愛しています……」
告白の言葉が、シスターの口から出てきた。
(〜〜〜ッ!!!???)
照れくさそうに、耳まで真っ赤にさせて俯きながら口にされた言葉。
ルール上、言う側が照れたところで負けになるわけではないので、シスターのこの顔はセーフだ。
なのだが───
(そんな顔をしながら言わんでも……ッ!)
恥ずかしそうに口にしているから、本当に告白でもされているかのように感じた。
それがこのゲームの面白いところなのだろうが、いかんせんこれは……嬉しすぎる。
(シスターからの告白……夢だろうか? 照れるというより、幸せでパニックに陥りそうなんだが!?)
俺は今、どんな顔をしているのだろうか?
無表情に徹してはいるが……顔が赤くはなっていないか? 口元が緩んではいないだろうか?
自分で負けを認めるのは癪だが……なっているような気がする。
「(い、言っちゃいました……私、ナギトに「愛している」って言っちゃいました……! こ、こんな感じで告白をするのでしょうか……恥ずかしくて、できるか不安になります)」
シスターが何やらブツブツと呟いている。
そして、そのあとにシスターは上目遣いで俺の方を見た。
「ナ、ナギト……お顔が真っ赤です」
……やっぱり、なっていたか。
でも仕方ないと思う。好きな人に言われて嬉しく思わなかったり、照れなかったりする人なんて絶対にいないのだから。
「……分かった、今回は俺が照れたということでいい。その代わり―――シスターが先にやったんだから、次は俺でいいよな?」
「ひゃ、ひゃい……っ!」
俺がそう言うと、シスターは肩を跳ねさせる。
緊張しているのが丸分かりだ。先程赤くした顔も元には戻っていないし、この時点でシスターの負けを言ってもいいとは思う。
(だけど、せっかく告白をできる機会に恵まれたんだ……せめて言うぐらいはしたいよな)
シスターは言われて嬉しく思わないかもしれない。
ロイスさんに言われているかもしれない言葉を言われたところで、シスターは照れてくれないのかもしれない。
それでも、もう金輪際俺が伝えることはないだろう言葉を、俺はシスターに対して抱いている想いを乗せて口にする。
「シスター……俺は、ずっと前から―――シスターのことが、好きでした」
「~~~ッ!!!???」
ゆっくりと、その言葉を紡ぐ。
すると、シスターは先程以上に顔を真っ赤に染めて口をパクパクさせてしまう。
一方の俺も、照れと気恥ずかしさによって……顔に熱を昇らせてしまった。
「にゃ、にゃぎとが……私の、ことを……しゅ、しゅきっ!? ど、どどどどどういうお返事をすればいいのでしょうか……ッ!?」
「ま、待て待て待て! これはゲームだからな!?」
好きなのは好きなのだが、ゲームという体裁がある状況で肯定はしたくない。
俺がそう口にすると、シスターはハッと我に返ったように俯き始めた。
「そ、そうですもんね……ゲーム、ですもんね」
「……そうだよ」
「そう、ですよね……」
気まずい空気が俺達の間に流れる。
シスターが平然と受け入れてくれたら、照れてくれなければこんなに気まずいことにはならなかっただろう。
というより、ここまで照れてくれるなんて思わなかった。
いや、それよりも───
(こ、こんなにも告白が恥ずかしいものだとも思わなかった……ッ!)
村で世帯を持っている人達は凄いと関心せざるを得ない。
こんな過程をクリアして結ばれているなんて、素直に尊敬するぞ、これは。
「……シスター、顔真っ赤だぞ」
「うぅ……真っ赤にならない方が無理ですもん」
「そ、そうだな……俺も、恥ずかしかったし……」
「は、はい、そうですよね……!」
お互いに顔を逸らす。
何故か、互いに相手の顔が見ていられなかった。
「こ、今回は引き分けという形でしときたいのですが、シスターはいかがでしょーか……?」
「さ、賛成しておきます……」
───こうして『愛しているゲーム』は終わることになった。
嬉しかったような、それ以上の気恥しさを覚えてしまったような。
その日一日、俺はシスターの顔をまともに見ることができなかった。
一方で、シスターはそれから四日ぐらい目を合わせてくれなかった。
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