第2話 彼の場合
これでよし。
諒汰が乗る自転車のカゴには野菜や肉が入っている。紬子がケーキを作ってくれるというので、自分は鍋の材料を買い揃えたのだ。
あっさり味が好みの彼女だから、鶏の水炊き鍋にすることにした。
普段はお互い一人で食事をしているから野菜が不足しがちになる。だから今日は野菜たっぷりの鍋パーティーにしたかった。
絶対に食材を痛めないようにいつもよりも遅いペースで自身のアパートへ向かう彼は、いつもよりも神経を集中させペダルを漕いでいく。
後ろから「キャッ」という声が聞こえた。同時に脇道から女性モノのハンドバッグを抱えてこちらに走ってくる男の姿が見えた。
十中八九ひったくりに違いない。その後ろには中年の女性が「つかまえて~」と叫びながらよろよろと走っている。
子供の頃から困っている人を見たら助けるように教えられている。相手はガッチリした体躯だが、ここでひるんではいられない。
食材満載のエコバッグをすれ違う寸前に相手にぶつけた。クリーンヒットだ。
相手はその場で倒れ込んだ。同時に作用反作用の法則で、エコバッグはぐちゃぐちゃになり、手から離れていった。鶏肉、水菜、豆腐、椎茸、ホンレンソウ・・・・道路の上にそれらが無残に広がっている。
うずくまるひったくり犯を取り押さえたら、すぐに警官がやって来て連行していった。
一件落着、ではあるのだが、もう一度鍋の材料を買うにはお金も時間もない。
助けた女性が大変恐縮して、お金を差し出してくるが、それが欲しくてした訳でもないので丁重に断って家路に着いた。
「さて、どうしたものか」
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