赤緑“まめ”合戦

砂月ちゃん

赤緑“まめ”合戦

こんにちわ。

私はとある片田舎の町にある喫茶店兼ペンション【ストロベリームーン】という、あやかし神使しんし達がやって来る、ちょっと不思議なお店の娘理子りこといいます。


実はこのお店のバイト2人も、この辺りでは一目置かれているあやかし豆狸まめだ満月まんげつ徳行とくゆきなんです。


今時のあやかし達は昔と違って、『葉っぱのお金や神通力で人間を騙して逃げる食い逃げ。』なんて事はしません。

真面目に仕事をして稼いでいるんです。

まぁ偶に騒ぎを起こしたりする者もいますけど……


そんな時は【ストロベリームーン】の豆狸まめだにおまかせ下さい。


とまぁ、いつもなら言うところだけど……


今回騒ぎを起こしたのは、その豆狸まめだ二人(二匹?)と町を見守り、騒ぎを起こすあやかし豆狸まめだと協力して鎮める神使しんし狐のタグチ達の方だった!


今日は定休日。いつもなら家族で出掛けるところだったんだけど定期テスト中なので、部屋にこもって勉強をする事にしたの。


テスト中だろうとおかまいなしに、面倒事を持ち込む豆狸まめだ達が、今日は大人しいのがちょっと怪しい気がするけど……


この前『勉強の邪魔をするな!』と強く言ったから流石に気を使ってくれたのかな?

どうやら今日は、安心して勉強に専念出来そうね。


ところが私の期待は、呆気なく崩れる事になった。

暫くすると、喫茶店の裏庭の方(私の部屋のすぐ側)でバキンと何かが壊れる大きな音がして、急に騒がしくなって来た。


聴こえて来るのは、よく知った声……



『今日という今日は、決着を付けてやるぞ!

覚悟せぇ神狐きつねめ!!』



この声は徳行とくゆきね。



『それはこっちのセリフだ、豆狸たぬき!!』



こっちは神狐のタグチ。



『お前達、あんまり大声出すと理子りこに見つかるじゃろうが!』



満月まんげつ……

『大声を出すな。』と言ってるけど、アンタの声が一番大きいわよ!



『『大丈夫、大丈夫!ちゃあんと【結界石】を置いておいたから、どんだけ騒いでもばれんわい。』』



なるほど…どうやらさっきの音は、騒いでいるのが私にばれない様に置いておいた【結界石】というのが壊れた音だったらしい。



『それより早う、続きをやろうやぁ!』


『『『そうじゃ、そうじゃ!続きをやろう!!』』』


『『今年こそは、我ら神狐きつねが勝つ!』』


『『なんの今年も我ら豆狸たぬきの勝ちじゃ!!』』



騒いでいる連中は、毎年こんな騒ぎを起こしていたようね。

最近まで彼らあやかし神使しんしがこんな身近に居るなんて知らなかったから、全然気づかなかったけど……



『それ撃て撃て!神狐きつねなど真っ赤にしてしまえ!!』


『なんの!それ豆狸たぬきを緑色に染めてやれ!!』



んん?神狐きつねを真っ赤にして、豆狸たぬきを緑にするって、いったい何やってるの?

もうとにかく五月蝿いし、気になって勉強に集中出来ないじゃない!!



『フフン!そんなへなちょこに当たるものか!

今年は新兵器があるんじゃ。祭りのクジで当てた最新式のじゃぞ!!』



えっ!?って、ちょっと何持ち出してるのよ徳行とくゆき



『フン!残念じゃったのぅ。お前達がを手に入れたという情報は、ワシらもとうに知っておったわ!

じゃからこっちも手に入れておいたぞ!』


『お前達が持っているのより最新式の物を通販でうておいたんじゃ!』



ちょっと待って、最近のクジや通販ってなんかあるの??



『見てみぃ!コレが通販でうた最新式のじゃあ!!』



ビックリした!!

なぁんだ鉄砲かぁ。そういえば、夏祭りで豆狸たぬき達がけっこう凄い水鉄砲当ててたわ。

それなら安心ね。

ちょっと五月蝿いけど、我慢出来ない程じゃないか。

それほど害は無いし……


て…あれ?豆狸たぬき神狐きつねが、今騒いでるのって下の裏庭よね?


しまった!そこには洗濯物が!!その事に気づいて、慌てて部屋を飛び出しサンダルを引っ掛け現場に駆けつけた。



「ちょっとアンタ達!何やってるの!?洗濯物が汚れたらどうするのよ!?」



と叫んで庭に入った瞬間……



『『『『そこかぁ!?』』』』



四方八方から私に向かって水が掛かって来た。しかもコレはただの水じゃない!

この匂いは墨汁?



まさか…そんな…ありえないわよね?

だけど嫌な予感は的中、豆狸たぬき神狐きつね両方から掛けられた墨汁で、私は緑と赤と茶色に派手に染っていた。



『『『『あっ!!!』』』』



墨汁を被った私の姿を見て、水鉄砲を持った豆狸たぬき神狐きつね達は、慌てて人化を解き走り寄って来た。



『し…しもうた!間違って理子りこに当ててしもうたぞ!!』


『『『どがんしょう?』』』



『どがんしょう?』じゃないわ!墨汁のシミは落ちにくいのよ!!


「…………。」


『『あ…あの…お嬢?理子りこさん?

コレにはいろいろと訳がありまして……』』


『まさか理子りこが居るとは思わなんだんじゃ!』


『【結界石】置いといたはずなのに!?なんでじゃ??』



二足歩行の緑の豆狸たぬきと赤い神狐きつねが、上目遣いをしながら足元でなんか言い訳を始めたけど、どうでもいい……


何故か以前、ペンションの泊まり客で来た事のあるのヒロシが、のタグチと一緒に赤く染ってるのも、この際どうでもいい……


問題は私と同じように、緑と赤と茶色に染まったウチの洗濯物。

お母さん達が帰って来るまでに、なんとかしないと!



「墨汁で汚れた洗濯物、どうしてくれるのよ!?

このおバカ!!」



そう言って私は思い切り四匹にゲンコツをした。



『『『『痛っ!!』』』』


「それにこの服はバイト代貯めて買ったばかりの、白いニットワンピだったのに!アンタ達の所為で台無しじゃない!!」


『『『『ちゃんと全部、綺麗にするけぇ堪忍してつかぁさい!!』』』』



四匹はひたすら謝っているけど当然の事よね。



「当たり前でしょ!とにかく、私はお風呂に入って来るから皆んなが帰って来るまでに、なんとかしといてよね!」


『お嬢、そりゃ無理じゃ。ワシらの神通力じゃ洗濯物の汚れは落とせん。』


「えっ!?じゃあどうするのよ満月まんげつ?」



さっき『全部綺麗にする。』って言ってたのに『出来ない。』って?



『ワシらには出来んが、外注に出せば大丈夫じゃ。』



徳行とくゆきが言い出した。



って?」


小豆洗いクリーニング屋に頼めば良いんじゃ。』


「クリーニング屋?」


『隣りの県に居るからちょっと遠いが、今ならまだ新幹線が出とる。流石に直ぐには落とせんじゃろうから、暫く皆の神通力で誤魔化しといてくれ。

それから、ワシの代わりのバイトはヒロシ!頼んだぞ。』


『え〜それだとオレいつ休むの?夜、仕事があるのに……』


それは自業自得というものでしょ。徳行とくゆきはニットワンピと洗濯物を持って、急いで出掛けて行った。


そういえば、コイツらなんでウチの裏庭でサバゲーなんかしてたのかしら?『今年こそ!』とか言ってたけど?


まぁ良いか……

徳行とくゆきが帰って来てからでも。

それより早く墨汁落とさなきゃ。


徳行とくゆきはそれから三日後、随分やつれて帰って来た。その代わり、緑の墨汁は綺麗に落ちていた。

もちろん洗濯物と私のニットワンピも。


どうしてそんなにやつれているのか尋ねると……



小豆洗いクリーニング屋に凄く怒られたうえに、こき使われてのう……

「墨汁で汚れた洗濯物を綺麗にしろ?落とせん事もないが相当手間じゃぞ?って何枚あるんじゃ!?

ワシの神通力だけじゃ到底足りんぞ!お前も手伝え!」

と言われて超特急で綺麗にする代わりに、神通力を絞りとられたんじゃ。』



うん…ソレは仕方ないんじゃないかな?



『それから、小豆洗いクリーニング屋からお嬢に土産じゃ。』



そう言って、徳行とくゆきは私に封筒を渡して来た。



「ありがとう。何だろう?クリーニング屋さんからのお土産?」



中身は、簡単な染み抜きの方法が書いてあるメモと手紙。手紙にはこう書いてあった。



〈お久しぶりです。先日お世話になった小豆洗いでございます。

コレはあくまでも、緊急時の応急処置です。

なるべく何もしないでクリーニングに出してください。〉


なるほど…良いアドバイスをありがとうございます。

ご迷惑を掛けた小豆洗いさんにはお礼に、今度ウチのスイーツセットを送くろう。もちろん、豆狸たぬきのバイト代から。



「ところでアンタ達、なんでウチの裏庭でサバゲーなんかしてたの?」

 


ひとん家の裏庭でサバゲーなんて迷惑よ。



『ああアレか?アレは[大晦日にスクモ様に【緑のたぬき】と【赤いきつね】どちらを食べて頂くか。]の勝負じゃ。』


「えっ?スクモ様って土地神様の?」



スクモ様というのは、遥か昔からこの町を護っていらっしゃる土地神様。

霊験あらたかで、この町はずっと大きな災害などあった事が無い。



『スクモ様はこの前の件で随分小さくなられたから、どちらか片方しか食べ切れんじゃろう。』



そう言って豆狸たぬき神狐きつねはそれぞれ【緑のたぬき】と【赤いきつね】を何処からか取り出して来た。


うんまぁ、今は小学一年生くらいのサイズだからね。

だからってウチの裏庭でサバゲーしないでくれるかな?

そこで私はフっとある事に気づいた。



「ねぇ?それって普通サイズのよね?」


『そうじゃが?』


『『『『【赤いきつね】と【緑のたぬき】と言えばコレじゃろう。』』』』



まぁそうなんだけどねぇ。仲良いわねアンタ達……



「それってさ、コレじゃダメなの?」



そう言って私は買い置きしておいた、【赤いきつね】と【緑のたぬき】の“まめ”サイズのカップを取り出した。すると豆狸たぬき神狐きつねはそれぞれの“まめ”サイズのカップを見て黙り込んでしまった。



「コレいつも小腹が空いた時に食べてるんだけど、この“まめ”サイズならスクモ様も両方食べられるんじゃない?」



すると豆狸たぬき神狐きつねがプルプルと震え始めた。あれ?何かマズかったのかな?



『『『『流石はお嬢(理子りこ)じゃ!』』』』


『ワシらでは到底思い付かんかったのぅ!』



どうやら違ったらしい。



「そ…そう?コレで解決したから、もうウチで『どっちを食べてもらうか?』でサバゲーとか辞めてよね。」


『『『『わかった、わかった。もう『』じゃやらんわい。』』』』



ところが数日後、今度は『』で揉めて徳行とくゆきの住処のお寺を荒らし、住職にこっぴどく叱られる赤い神狐きつねと緑の豆狸たぬきを見る事になるとは、この時の私は知る由もなかった。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤緑“まめ”合戦 砂月ちゃん @natuki0163

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ