第四章 [ファイナル・カウントダウン]


テキサス州防衛隊基地



 「レイブンの調子はどうだ?」下士官が尋ねる。


 「問題なく、良好であります!」隊員が応える。


 「レイブン下部に取り付けたVisible Lightも問題なくラジコンで操作可能です。」隊員が応える。


「宜しい。知事からの要請だ。早速だが、そのレイブンを持って、ノース・セントラル・パトロールへ行ってくれ。」下士官が言った。


「了解致しました!」隊員は下士官に敬礼した。




テキサス大学ダラス校


  太陽が沈みはじめ、やがて辺りは幻想的なオレンジ色の空模様へと変貌する。

本来であれば建物や木々や人々は、その影となり、それでいてその一部に溶け込むように自然と調和されたハーモニーを奏でるはずであった。


しかし・・。


 ダラス校の周辺を取り囲むように、他の学生や周囲の住民は不安そうにただ見守る。軍や警察は規制線を張って、大学近辺の一般車両の進入を禁止している。


現場から少し離れた場所には、万が一の被爆患者を運搬する救急ヘリと、防護服を着た医療スタッフが数人待機し、消防隊も駆けつけていた。


「見て!見て!綺麗なマジックアワーを。」

モハメド・ヘクター教授は両手で双眼鏡を形取って、沈む太陽を眺める。

「みなさんにとっては、これが良い見納めになるわね。」


 人質となった学生達十五名は極度に衰弱しきって居た。


モハメド・ヘクター教授はザビーンを呼ぶ。


「バスのリセット。」


「分かりました。」ザビーンが携帯に電話する。


「さて、みなさん。マジックアワーもそろそろ終わります。そして長い夜を迎えようとしています。でも、長い夜なんて、もう迎える必要はないのです!だって私達が”太陽の火の玉”になるんだもの。」


「教授!」ザビーンがモハメド・ヘクター教授に慌てた様子で言った。

「どうしたの?」

「通信障害で携帯が繋がりません。」ザビーンが言った。


「これだけの騒ぎを起こしてるのですから、もうリセットしたと考えるべきでしょう。彼らは十分果たしてくれました。次は私達です。」


「しかし。・・・分かりました。」ザビーンが言った。



「それと後、一名、私のバリケートに追加しなさい。」モハメド・ヘクター教授はザビーンに命令する。



「嫌!離して!」女子学生の一人が、泣きながら、何度も何度も座り込み、ザビーンの手を振りほどこうとする。モハメド・ヘクター教授に髪を撫でられた女子学生であった。


「静かにしなさい!私とこんなに近くでリセットを迎えられるのよ。もう二度と体験出来ないのだから。」


「残りの学生はどうしますか?」ザビーンが尋ねた。


「そうね、うつぶせに寝かせば?」


 モハメド・ヘクター教授を中心とした六角形の陣形は、「The Erik Jonsson School of Engineering and Computer Science」と学校名が刻印された場所で形造っていた。



ダラス・ポリス・デパートメント・ノース・セントラル・パトロール


 17536 ヒルクレスト・ロードに位置する警察署で、ここからだとテキサス大学ダラス校までは、車だと最短で八分弱で到着できる。


 「ヒルクエスト・ロード」を右折して、「フランクフォード・ロード」右折。「ウオータービュー・パークウエイ」を左折して、「フランクリン・ジャニファー・ドライブ」へ。そのまま直進すれば、左方向にテキサス大学ダラス校が見える。


クリーム色の建物一階では、慌ただしく署員が出入りしていた。


一階の緊急作戦会議室には、HRT隊長のジョーイ・ニコラス大尉、ランディ捜査官、ナリサの三人が居た。



 「挨拶は抜きだ。早速、本題に入ろう。」ジョーイ・ニコラス大尉は、半導体学科のErik Jonsson Schoolの外周見取り図をホワイトボードに張り付けた。


 「・・・。」ナリサは頷いた。


 「”汚れた爆弾”を持つモハメド・ヘクターを中心とした六角形は、正六角形ABCDEFのそれぞれの頂点に、テロリスト五名と人質の学生一人が配置されている。」


 「このうち、頂点Aに人質が配置されている。即ち、半導体学科の出入り口近辺となる。厳密に言えば学校名が刻印された場所でこの正六角形地点を"G"としよう。」


 「"G"の裏側、すなわち半導体学科の建物を"H"とすれば、"H"の外周は突出した柱が屋上まで達しており、唯一、学校出入り口に面した屋上だけ平坦となっている。

この屋上の地点を"I"としよう。」


 「"I"地点を狙撃地点と選択した場合、標的"G"までの距離が近すぎるわね。」ナリサが言った。


 「その通り。しかも一度に、”汚れた爆弾”かモハメド・ヘクターの無力化。五名のテロリストの無力化。そして人質の学生一人の救出をこなす必要がある。」

 ジョーイ・ニコラス大尉は説明した。


 「状況は極めて厳しいな。」ランディ捜査官はナリサを見ながら言った。


 「次に、"G"に隣接する道路についてだが、2513 ラットフォード・アベニュー(大学前道路)とそれを交差する838 フランクリン・ジェニファー・ドライブの二つのみだ。」


 「・・・。」ナリサは考え込む。


 「既に現場では規制線や放射線エリアを標識するハザードシンボルの設置を終えてる。」ジョーイ・ニコラス大尉は説明した。


 「"G"地点を狙える場所は、ラットフォード・アベニューとフランクリン・ジェニファー・ドライブが交差するACTIVITY CENTER(レクレーション施設)しかないわね。」

 「標的を狙えるギリギリの角度や距離を考えても、ここしかないわ。」

ナリサは言った。

 

 「これから夜間になるというのにな。」ランディ捜査官が言った。


 「残りの十四名の人質は?」ナリサが尋ねた。


 「"G"地点で軟禁状態らしい。」ジョーイ・ニコラス大尉が言った。


 「く、いつでもリセット出来るという事か。」ランディ捜査官が言った。


 「テロリスト五名の武装状況は?」ナリサが尋ねる。


 「五名とも非武装だ。モハメド・ヘクターのカリスマ的存在に魅入られたと言うべき存在だな。」


 「・・・。」


 「だた、そういった存在だからこそ、モハメド・ヘクターが倒れた場合に起こす五名のアクションは予測がつかない。」

 「しかもその五名はモハメド・ヘクターの教え子達だ。」


 「何とも言えないな。」ランディ捜査官が言った。


 「ところで何か名案があると聞いたが?」

 「あんたが言ってたものは準備しておいたぞ。」ジョーイ・ニコラス大尉がナリサ           に言った。


 「確率は五分五分、それに賭けてみる?」

 「ウランが360nmの紫外線を当てると黄色に発光するのは知ってるかしら?」

  ナリサが尋ねた。


 「いや、知らない。」


 「しかしそれは、直接ウランに紫外線を当てないといけないんだろ?」ランディ捜査官が言った。


 「その通りよ。それをヒントにするの。種明かしは実に単調。でもこういう時だからこそね。」


 「その掛けに乗ってみるか。」ジョーイ・ニコラス大尉が言った。


 「有難う。」ナリサの言葉にジョーイ・ニコラス大尉が初めて笑顔を見せた。


 「後は、大学と大学周辺の電力遮断をお願い。」ナリサが言った。


 「ああ。任せておいてくれ。」ランディ捜査官が言った。


”コンコン”

 ドアをノックする音が聞こえた。


 「失礼致します!」

 緊急作戦会議室にテキサス州防衛隊の隊員が入って来た。

 「知事からの要請でこの作戦に参加致します!」


 「ご苦労様。」ジョーイ・ニコラス大尉が敬礼した。


 「よし!いよいよ決戦だ!」ジョーイ・ニコラス大尉が言った。



テキサス大学ダラス校


 「綺麗な夜景。今のうち目に焼き付けておいてね。」

 「見納めになるから。」

 モハメド・ヘクター教授は夜空を指さしながら言った。


  十四名の学生たちは、うつぶせに寝かされた。

 そして、それぞれが思った。


 神様にお祈りして助けを願う者。

 家族にお別れを言う者。

 ペットにしっかり生きていって欲しいと願う者。

 お前の事が好きだったと告白する者。

 もう一度、旅行に行ってみたいと願う者。

 単位を落として次こそは!と悔いる者。

 病院に通院しなくても良いと嘆く者。

 スポーツカーを購入したかったと悔いる者。

 バースディパーティーして欲しかったと嘆く者。

 馬鹿野郎!と愚痴る者。

 ゲームショウで一位を獲りたかった者。

 富豪になって豪邸に住みたかった者。

 明日は我が身だぞ!と罵る者。

 学校に行きたくなかったと悔いる者。


”RQ-11レイヴン、上空二百五十メートル到達”


”大学及び、大学周辺の電力遮断、二分前”


”こちらαチーム、ACTIVITY CENTERに到着”


”RQ-11レイヴン、32°59'09.1"N 96°45'00.3"W、テキサス大学ダラス校、上空二百メートル到達”


”こちらαチーム、狙撃班、所定位置、ACTIVITY CENTER屋上に到達”


”大学及び、大学周辺の電力遮断、一分前”


”RQ-11 レイヴン、間もなく目標"G"地点上空に到達”


”大学及び、大学周辺の電力遮断、三十秒前”


 「みなさん、神様にお祈りを済ませたかな?」モハメド・ヘクター教授が携帯を取り出す。

「では、”太陽の火の玉”になりましょうね。」


 ”電力遮断!”


 大学及び大学周辺は一切の電力が遮断され暗闇と化す。十四名の学生達は突然の暗闇に視界を奪われ、パニックとなる。


 「きゃあ!何も見えない!」


”RQ-11 レイヴン、Visible Light430(可視光線430)で照射!”


 青白い光が放たれる。それは地上から空へ一直線上に放たれてるように見えた。


 「そんなバカな?!どうして、この”汚い爆弾”が臨海に達してるのさ!?」モハメド・ヘクター教授が叫んだ。


 「チェレンコフ放射だぁあ!」サビーンの言葉に人質となった学生たちは逃げ惑う。


 「チェレンコフ放射ではないわ!持ち場を離れないで!」モハメド・ヘクター教授は叫んだ。


 暗闇とサビーンの言葉に動揺し鉄壁と思われた、その六角形のバリゲートの陣形は崩壊しはじめる。その六角形の中心に居たモハメド・ヘクター教授の姿が露わになる。


---「女王蜂は駆除しないとね。」暗視装置 JGVS-V八で捉えられた女王蜂は、その巣に一匹取り残されたように、その巣から動こうとしなかった。ナリサはSR-25の引き金を絞った。------


 モハメド・ヘクター教授に食らい付いたその弾丸は、胸部から侵入し体内で暴れ冠動脈に達し貫通する。


「い・・・あ・・。」モハメド・ヘクター教授は地面に倒れた。


 「いい見納めになったかしら?教授。」そう言って、ナリサがACTIVITY CENTER屋上出入り口に向かった。


 そこには、ジョーイ・ニコラス大尉が立っていた。

 

 「モハメド・ヘクターの死亡が確認されたそうだ。」


 「・・・。」


 「”汚れた爆弾”も送信用携帯も無事に回収されたそうだ。」


 「そう。」


 「送信用携帯の発信が”#”で打ち止めされていたらしい。短縮ダイヤルを使う気だったのだろうな。ワンタッチでなかったことが不幸中の幸い、間一髪だったな。」


 「人質達とテロリストは、どうなったの?」


 「人質達は今、臨時テント内で、念の為、一人一人、ガイガーカウンターを受けて貰っている。五名の非武装のテロリストには投稿を呼び掛けてる。」

 

 「そう。後は時間の問題ね。」そう言って、ナリサは階段を下りていく。


「有難う。」ジョーイ・ニコラス大尉は、そのナリサの後姿を見ながら敬礼をした。



※チェレンコフ放射

荷電粒子が物質中を運動する時、荷電粒子の速度がその物質中の光速度よりも速い場合に光が出る現象。原子力発電所の燃料が入ったプールの中で見える青白い光(wiki抜粋)


 残り五名のザビーンを含む、学生テロリスト達は投降してきた。

電力は元通りに回復し、やがていつもの活気に戻ろうとしていた。一連の「連続テロ」に関して報道されるが、それも夜と共に、やがて人々の記憶から消え去るだろう。




---「連続テロ」報道番組---


インタビュー

「バスの事件、怖かったよね。」


ベネット

「・・・・。」


インタビュー

「でも無事に帰ってきて本当によかった!」


ベネット

「私達ずっと、うずくまって、神様とママにお祈りしたの。」


インタビュー

「なんてお祈りしたの?」


ベネット

「宿題するって、お祈りしたの。」


インタビュー

「そう!ベネットちゃんはとてもいい子だね!」


ベネット

「有難う。」




~END~


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