最終話 頑固ジジイ炸裂!

 父さんの視線の先には、こちらに向かって歩いてくる一団の姿があった。その一団は俺たちに近づき、そして——



「お待たせして申し訳ありません。イナカノ町役場の者です。お約束通り、お迎えに上がりました」

「いえいえ、ワシも今来たところです。おや、あなた。ネット回線を通して見るより、実物の方がずっと男前ですな」


「いやー、流石『頑固ジジイ』さん、お口がお上手で」


 え? この人たち何言ってるんだ? 頑固ジジイって何だよ?

 確かに父さんは頑固だけど…… えっ?


「ああ、お前たちにはまだ言ってなかったな。実はワシ、ちょっと前に動画投稿サイトに自分のチャンネルを作ってな。『頑固ジジイの鉄道旅』という名前なんだ。それがどうやら『ばずった』みたいでな。最近、チャンネル登録者数が10万人を突破したのだ」


「…………え?」

「…………は?」


「今日は『案件あんけん』と言うんだったか…… そう、『行政案件ぎょうせいあんけん』というヤツだ。ワシは今日一日、イナカノ町さんにお邪魔して、町をPRする動画を撮るんだよ。あっ、もちろん報酬もいただくぞ? じゃあ、お迎えが来たんでワシはこれで。今晩またホテルでな」


 そう言って、父さんはお迎えの人たちと一緒に立ち去ろうとしたのだが……


「あっ! テッメェー、ちょっと待てよ! ひょっとしてオヤジがアタシを呼んだ理由って——」

「もちろん動画撮影のためだ。昨日乗った特急の個室は4人部屋だったからな。人が沢山いた方が、『動画ばえ』するのだ」


「じゃあ、父さんのその高級そうなビデオカメラも——」

「投稿用の動画撮影のために買ったのだ。高かったが、まあ必要経費というヤツだ」


「オヤジが散財してたのは……」

「広告収入でウハウハなのだ。お前たちの交通費を出すぐらい容易たやすいのだ」


「そう言えば、父さんは寝台特急の中で、これでもかっていうほどビデオを撮りまくっていたけど……」

「『サンライズ』の動画をアップすると、なぜか再生数が伸びるのだ!」

 確かにそれは、ネット界隈でよく聞く話だけど……

 いや、そんな話はどうでもいい。


「このクソオヤジ! 今までの家族の愛情っぽい話はなんだったんだよ!」

 秋奈がブチ切れた。


「ナニ言ってんだ? ワシはまたタクヤや夏樹と旅行に行くために、ガッポリ稼いでいるんだぞ? 妹のミキが大きくなったらミキも連れて行ってやるつもりだ。ああ、鬼嫁もついでにな」

 え? そんなこと考えてたのか?


「それから秋奈、お前どうせ貯金なんかしてないんだろ? ワシがバッチリ稼いで、お前の結婚式は盛大にしてやるからな! 楽しみにしておくがいい!」


 えっと…… それはそれで家族想いということなのか?


「じいちゃーーーん! なんかよくわかんないけど、頑張ってねーーー!!!」


 どうやらタクヤだけは、また旅行に行けると喜んでいるようだ。

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頑固ジジイの鉄道旅 〜ワシはもうすぐお迎えが来る身だからな〜 大橋 仰 @oohashi_wataru

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