第2話 親孝行したいんだ!

「おい、そこの赤の他人。タクヤはそのナントカランドに行きたいと言ったのか?」

 父さんが口を開いた。


「いや、行きたいと言ったのは妹のミキの方だけど……」

 俺は父さんの問いに答える。


「本当にミキが言ったのか? お前と鬼嫁は結婚する前、しょちゅうナントカランドに行ってたな」

「そりゃあ…… アイツがアトラクションみたいなのを好むから……」


「お前、すぐ乗り物酔いするくせに」

「それは子どもの頃の話だろ? 今は…… それほどでも…… ないよ」



「なあ。お前はいつまで彼氏気分なんだ? お前はタクヤの父親じゃないのか?」

「……どういう意味だよ」


「ワシは若い頃、鉄道旅行が大好きでな」

「そうみたいだな。全然知らなかったよ」


「しかし、お前は小さい頃キャンプが好きだった。川で釣りをしたりカレーを作ったり、楽しそうにアウトドアライフを満喫してたっけ。だからワシは無理をして、当時としては珍しい今で言うSUV車みたいなものを買ったんだ」


「……感謝してるよ」


「なに、礼には及ばんさ。妹の秋奈が大きくなってソフトボール部に入ってからは、車が大きいおかげでいろいろ荷物を積んで応援に行けたからな。ヨソのお父さんやお母さんがたに、ずいぶん感謝されたもんだ」


「……秋奈も感謝してると思うよ」


「お前たちが生まれてから、ワシは一度も鉄道旅行をしていないんだ。でも、ワシは無理やり我慢していたわけじゃないんだぞ? ワシやバアさんにとって、一番の喜びはお前たちが嬉しそうにしている顔を見ることだったからな」


「…………」


「なあ、夏樹。お前はタクヤが鉄道の話をしている時の顔を見たことがないのか? まあ、お前や鬼嫁からしたら、きっとマニアな話をしているぐらいにしか思わないのかも知れないが——」


「そんなことは! そんなことは…… ないよ……」


「自信なさげな答えだな。ワシは釣りや山歩きのことなんてサッパリわからなかったが、お前と一緒に遊べて楽しかったぞ? いいか、夏樹。子どもなんてすぐに大きくなるもんだ。子どもが学校の部活なんぞに入っチマエば、親は応援に行って見ていることしか出来ないんだぞ?」


 確かにそうかも知れない。家族と出かけるよりも友だちと一緒にいる方が楽しくなったのは、いったい、いつ頃だったろう。


「せいぜい今のうちに、子どもと一緒に遊んでおくことだな。ただ、それは親の趣味に子どもを付き合わせるってことではないぞ。まったくお前の嫁ときたら…… アレはまだ子どもだし、お前もまだ子どもだな」


「……じゃあ、どうすればいいんだよ」


「タクヤと二人で九州に行ってこい。旅費はワシが出してやる」

「え?」


「そのナントカランドには、また別の日に行けばいいだろう。カ・ゾ・ク、4人水入らずでな」

「家族って言葉の使い方を間違ったことは謝るからさ…… それなら、母さんも一緒に4人で行かないか? 俺とタクヤの旅費は自分で出すからさ」


「フン。バアさんはオマエと同じで、電車に乗るとすぐに酔うからな。バアさんはまた別の機会に、お前の車で温泉にでも連れて行ってやれ」


「じゃあ、3人で行こう。まだ未熟かも知れないけど、俺はこれでもタクヤの父親なんだ。タクヤの喜ぶ顔だって見てみたいよ。それに…… 父さんにだって親孝行したいんだよ」

 子どもの頃、父さんにはさんざん可愛がってもらったんだ。少しぐらいお返しをしなきゃバチが当たるよ。


「本当にいいのか? ワシは老い先短いんだ。自分の楽しさを追求するぞ?」

「都合のいい時だけ年寄りになるんだから…… ああ、いいさ。父さんは自分のやりたいことをやれば」

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