第3話 特急はアトラクションじゃないぞ!

 それから俺は電車のことをいろいろ調べた。

 不思議なもので、調べたことをタクヤと話しているうちに、俺もだんだん旅行が楽しみになってきた。

よし、俺もタクヤと父さんと一緒に、旅を楽しんでやろう!




「————などと張り切っておったのに…… お前の乗り物酔いしやすい体質は、相変わらずのようだな」

 父さんの『ヤレヤレ』と言わんばかりの一言が俺に襲いかかる……



 鉄道好きの父さんとタクヤが考えた旅行の行程は、俺の想像を遥かに超えるものだった。

 九州へ行くはずなのに、なぜか初日の予定は、夜になってから東京駅で寝台特急『サンライズ瀬戸』に乗り込み、翌朝、四国の高松に到着するというものだった。


 いや、俺だって最近は、揺れの少ない新幹線や地下鉄なら酔わなくなったんだ。車も運転出来るようになったし。山手線だって乗れるようになったんだ、多少、頭痛はするけど…… でも、どうやら俺は、寝台車というものをナメていたようだ。


「パパ、もうちょっと頑張って! この後の予定は『栗林りつりん公園で散策』だから。パパは公園で休憩しとけばいいよ」


 おそらく…… 父さんは俺が乗り物酔いすることを見越して、この後は軽めの予定にしていたのだろう。父さんは何でもお見通しだな。

 でもそれなら、初めから寝台車なんてチョイスするなよ……



 現在時刻は7時30分ぐらい。俺はフラフラになりながらも少し歩いて、なんとか琴平電鉄の高松築港駅から3駅向こうの栗林公園駅まで辿たどり着いた。タクヤは『コトデンだ!』と言ってはしゃいでいた。そんなタクヤを見る父さんも嬉しそうだ。


 少し休んだおかげで、ずいぶん体力が回復したようだ。栗林公園に感謝だな。



 帰りはJRの栗林駅から高松駅に戻ることになっていた。特急『うずしお』に乗るためだ。高松駅まで特急に乗ると約5分、各駅停車でも約8分。


 旅行の計画を立てている時、俺が、

「時間もそんなに変わらないんなら、わざわざ特急に乗らなくてもいいんじゃないか?」

と言ったら、二人から、

『コイツ、バカじゃネエの?』

という顔をされたのをよく覚えている。


 更に父さんから追い打ちをかけられた。

「鬼嫁が大好きなアトラクションっぽい乗り物には、いったい、いくら金をかけて乗るんだ? 『うずしお』は、たったの330円追加するだけで5分も乗れるんだぞ?」

 いや、特急電車はアトラクションじゃないと思うんだけど……


「大丈夫だよパパ! 俺は子ども料金だから半額だよ!」

 いや、別にお金をケチってるつもりはないんだけど……




 特急『うずしお』が栗林駅のホームに颯爽と入線してきた。それを見たタクヤの喜びようと言ったら…… やっぱり一緒に来て良かったな。

 ただ、父さんはやたらとビデオカメラで撮影していたのだが…… そう言えば、『サンライズ瀬戸』の車内でも、父さんはビデオカメラを持って走り回ってたっけ。まあ、父さんも楽しそうで何よりだよ。

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