第21話 俺にできること
『ふん、やはり勇者はつまらんな。殺すか』
そうだった。カッコつけたはいいけど絶望的な状況に変わりはないんだ。
どうする? 戦うか?
いや無理だ。勝てる自信がねぇし、眠ってるマリアを守りながら戦うなんてできそうもねぇ。
待てよ? もしマリアがこのドラゴンの弱点を知っていたら、攻略できるかもしれない。
こうなったら賭けだ。マリアが目を覚ますまで時間を稼ごう。
「待て」
頭を元の位置に戻そうとするブリギッドを呼び止める。
『なんだ、命乞いなら聞かぬぞ』
「そうじゃない。なんでそんなに俺を目の敵にするんだ。俺はお前に何もしちゃいないぞ」
エルシド市の市民が俺を怖がったのは、俺が凄まじい力を持った勇者だからだ。けどブリギッドは俺より弱そうには見えない。恨みを買う理由はないはずだ。
『知ったことか! 我は勇者が憎い! 我をここに封じた恨み、必ず晴らす!!』
凄まじい怒りからブリギッドは咆哮し、洞窟全体を揺らす。
こりゃ相当な怒りだ。けど、
「なんか悪さをしたから封じられたんじゃないのか?」
『フン! 善悪の基準など所詮人間の戯言よ。気に入らぬものを焼き払い、気に入ったものを奪う。それが我ら龍である!』
ムフ〜と鼻息を出すブリギット。
「確かに人間のルールなんざ関係ないのかも知れないけどよ、そのせいで勇者に封じられたのは自業自得じゃないか?」
『どこかだ! 我は卑怯な手段など一切取った覚えはない!』
拳を握りしめ、眉に力を入れて憤慨するブリギット。
『許さぬ! 我を謀り、ここに封じ込めた勇者も、女神も許さぬ!!」
「……」
俺はしばらく黙ってから口を開いた。
「謀かられたってことは、ハメられたのか?」
『そうだ』
怒りを抑えたブリギッドはまるで噴火寸前の火山のようだ。
『我ら龍は神や魔と並ぶ勢力。あるとき、勇者は我の悪行を許す代わりに魔王を倒すために協力してほしいと申し出てきたのだ』
まじかよ。とんでもねぇ勇者だな。ドラゴンを仲間に引き入れようとしたのか。反則みたいなこと考えるなおい。
ま、そもそも女神からカゴをもらっている時点で反則みたいなもんか。
『我の行いに対する許しなどどうでも良かったがな。魔王と相まみえるのも一興かと思ってな、我はこの山に赴いて勇者の提案を承諾した。共に戦い、魔王を倒した。だが!』
「わっ!」
ブリギッドがバサっと翼を広げ、風が舞い上がる。
『勇者は我を封印したのだ! これを見よ!』
「一体何が……あ」
目に入ったゴミを拭って前を向くと、ブリギットの足元にキラキラ光る何かがあった。
「それは?」
『神の加護が宿った忌々しき神器よ。神であれ魔であれ、龍であれ、刺された者の力を封じ込め、その場に縫い付ける力を持つという。奴はな、お前のような龍はこの世界に必要ないとほざき、これを指したのだ』
なんだそれ。騙し打ちじゃないか。勇者らしくない卑怯な真似をするな。
「……戦うことすらできなかったのか」
『そうだ。正々堂々と戦った末に敗北したのなら、まだ納得がいった』
ブリギットは落ち着いたのか怒りを引っ込めて、徐々に声のトーンを落とした。
『我は卑劣な勇者を憎む。お前の罪など許されるはずがないだろうと我を見下した勇者の顔を忘れぬ。我を裏切り、地の底に押し込めた悪行を許さぬ』
「辛かったな」
『フン。勇者の同情などいらぬ』
不貞腐れたのか、ブリギットは顔を逸らした。
俺はとりあえず殺される心配は無くなったと判断して座り込んだ。
そして、
「なぁ、その神器ってやつ、俺が抜こうか?」
考え抜いた末、俺はこう提案した。
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