鬼族3
「ねぇ、ミズミ。あの鬼族の団長さん、顔見知りなの?」
砦を出るや否や、私はミズミに思い切って聞いてみた。扉の門を出て、すぐに道なりに森に向けて歩き出すミズミは、振り向きもせずに否定した。
「さあな。見たことある程度なんじゃないか」
「ふぅん……もしかしてミズミって結構顔広いんだ?」
彼女に追いつきながら問いかけると、ミズミは不機嫌気味にため息を漏らした。
「さあな」
あまり機嫌が良くないところを見ると、あまり触れられたくない話なのだろう。もしかしてミズミって男性嫌いなのかしら? 男性に見つめられた時の態度はあからさまに嫌悪感むき出しだったし、あんなに親切に対応してくれた団長さんにも、あまり好意的な態度ではなかったし……。もしかしたら――
急に私は不安がこみ上げてきた。この大陸には、人に悪さをする一族が多いとミズミは言っていた。それって、もしかしたら彼女自身も被害にあったことがあるからじゃないだろうか? それに出会ったばかりの時、あの薄着の服装は訳ありだと言っていた。
そんなことを思うと、今更ながら彼女に何があったのか、妙に気になった。でもカンタンに踏み込んでいい話題ではないような気がして、私は質問したい好奇心を押さえ込んだ。もし彼女が何か被害を受けているとしたら、人には言いたくないことかもしれないもの。
――しかし。
「何か聞きたげだな」
振り向きもせず唐突にミズミに声をかけられて、思わず私は跳び上がりそうになる。
「え、そ、そんなことないよ……」
反射的にそんなことがつい口をつく。あまりにも間のいい彼女の質問に、正直動揺を隠すだけで必死だった。でも言ってから後悔した。――嘘、ホントは聞きたいことがいろいろある――。でも……もし人に聞かれたくない話題だったら、安易に聞いてはいけないだろうしな……。
そんなことを考えていると、しばらく無言だったミズミがちらと横顔だけ向けて私に視線を投げた。
「……そうか」
そう言って微笑む彼女は何故か優しく見えた。改めて、彼女は不思議な人だ。あの強さもそうだし、何を考えているのかわかりにくいし、怖かったり優しかったり……。
優しいその表情に思わず油断した私は、思っていたことがつい口をついた。
「ミズミって不思議。なんだかタイミングが良すぎるよね」
「は?」
少々素っ頓狂な声を上げて、ミズミが訝しげな表情で振り向いた。
「なんの事だ?」
視線を上げれば、明らかに不思議そうにしている彼女の顔が目に入る。
「あ、いや、ミズミってなんか、声かけてくるタイミングがすごく――間がいいなと思って……」
私の説明に、彼女の表情が真面目なものに変わる。それを見て私は慌てた。
「あ、その、別に嫌とかそういうんじゃないんだよ! なんだか、私がミズミに話しかけたいなって思う時に限って声をかけてくるから……」
誤解がないように私が説明すると、暫しの間を挟んでミズミはまた背を向けて歩き出した。もしかして、気を悪くしたかな――? 私は咄嗟にそう思って、慌てて彼女に声をかける。
「あ、ミズミ――!」
「さっさと行くぞ。例の洞窟はもうすぐだ」
全く矛先の違う返しに私は一瞬戸惑う。怒ったわけではなかったのかな……?
そう思って考えこむ私を置いて、マントを揺らして歩くミズミの姿は徐々に遠のいていった。それに気がついて私は駆け出していた。
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