第17話

「はあ!?!?!?」


 想定の数倍は固いぞこいつ。たかが足でこのレベルなら、全身はどれだけ固いんだよ。


 そこそこの衝撃を受けただが、一切怯むことなくこちらへ突進してくる。


「空を飛んでもらわないことにはどうしようもないか……」


 しかし、カブトムシは基本的に空を飛ぶことは無い。真に生命の危機だと感じさせる必要がある。


 次なる弱点となると、アレか。


 カブトムシの上半身と下半身を分けている謎の隙間。何て言うのか分からないが、とりあえず投げてみよう。


 どうやら上手くいったか?金属音が無い。


 しかし戻ってくる気配が無いな。


 ブーメランよりも先にカブトムシがやってきた。


 自慢の二本角でかちあげようと角を地に這わせつつ突進してくる。


「俺はカブトムシじゃない!」


 全力で横に飛んで逃げる。が、別に猪みたいに真っ直ぐにしか飛べないわけでは無いので臨機応変に対応してくる。


 全力で回避しつつ、どこか弱点となる部位が無いか懸命にブーメランを投げ続ける。


「どこも弾かれてしまうな。やっぱり持ち上げるほかないのか?」


 困り果てていると、とある物を見つける。


 羽の付け根に引っ掛かっているブーメランだ。


「アレを使って強引に羽を開かせれば飛ぶのでは?」


 いくら飛びたがらない虫でも羽が開いたら飛ぶ気になるだろう。


 そう結論付けた俺は、羽に刺さっているブーメランに的確に命中させ、てこの原理を使い羽をこじ開ける。


 片翼が開いた。


「どうだ?」


 しかし何事も無いように地を歩くカブトムシ。


「羽をこじ開けること自体に意味は無かったが、収穫はあったようだな」


 開いた羽の隙間から、戻ってこなかったブーメランが見つかった。よく分からない部分に突き刺さっていたのだ。


 あれをより深くに突き刺せば、大ダメージが入るだろう。


 希望が見えた俺は、ブーメランの先端に向けて次々に投げ続ける。


 それから数分後ブーメランは完全に体内に入り込み、死に絶えた。


「宝箱を開封。これでRTA計測終了だな」


 ストップウォッチを止めて計測を終了する。肝心のタイムは……?


「合計で2時間8分か。割とかかったな」


 巣鴨で48分、移動で10分、池袋で70分。


 ビートルのロスが無ければもう少し時間短縮が出来たが、今回は関係ない。


「とりあえず、俺がRTA世界一位だ」


 どう考えても速攻更新される記録ではあるが、配信としては十分だろう。


 キリが良いのでそこら辺で配信を終了し、C級への更新を済ませた。


 流石に帰宅は走って帰る気が起きなかったので車にて帰宅した。


 帰宅後、配信の反響を知るためにネットを開いた所割と好評だったらしい。


 D級というダンジョンをRTAで攻略したこと自体より、自分と同じ等級のダンジョンをああも簡単に攻略していく光景が受けたらしい。


 また、俺の神エイムが一番分かりやすく見られる回だったということも人気の一つだったらしい。


 特に凄かったのが海外人気。


 ジョブはブーメランマスターって言っているけど絶対ニンジャだよ!ジャパニーズニンジャは実在した!みたいなコメントが数多く見られた。


 なんなら海外のニュースサイトからジャパニーズニンジャの再来として特集を組んでも良いですかと直接連絡が来た。


 別に断る理由も無いので許可することにはした。


 という光景を全て見ていた涼は、


「ジャパニーズニンジャって、ただのエイムゴリラなだけなのに……」


 と大爆笑していた。


 帰宅時は素直にC級到達をちゃんと祝ってくれていたのだが、配信直後の反響を見てからは祝うという感情が完全に抜け落ちている様子。


「まあ配信者としてはウケるだけありがたいことだ」


 正直不本意ではあるが、俺のエイム能力の凄さを視聴者が理解して高い評価をくれた紛れもない証拠だ。


 FPSの人気が下がり、視聴者数も落ち込みを見せていたあの時を考えると、十分に幸せだ。


「くくくく……」


 ただ、配信者の事情を全く知らないこいつには関係ないようだ。





 後日、C級のダンジョンを一つ攻略した後


「なあ周人君、一緒に狩りに行かないかい?」


 と誘われた。


「涼とか?」


 実は涼はB級の冒険者。その中でもA級に上がるための攻略数が16個中9個を超えているかなり優秀な方だ。


「うん。素材が欲しくなってね。ちょっと浦安ダンジョンで狩りをしたいんだ」


「別に俺が居なくても良いんじゃないか?足手まといになると思うが」


 全く同じジョブ、同じ武器、さらに二人とも後衛ときた。どっからどう見ても役割過多だろ。


「まあ浦安はC級ダンジョンだし、多分周人君の方が狩りの効率が良いと思うんだよ」


「それはどういうことだ?」


「来てからのお楽しみだね」


 日頃家事をしてもらっているお礼として、手伝うことにした。


「なあ涼、本当に良いのか?」


「良いんだよ。宣伝の為だ、逆に私を手伝うと思って」


「そこまで言うのなら……」


 俺は涼に言われた通り、配信ボタンを押した。


「今日は配信する予定は無かったのだが、配信することになった。よろしく」


「というわけでよろしく!視聴者の諸君!AIM君のブーメラン職人、涼だよ!」


 涼は妙にはきはきとしていて、配信慣れしているようだった。


 流石に反応が気になったのでコメント欄を確認してみると、『涼可愛い』とか『専属の美人とかずるいぞ』みたいなコメントが多かったので大丈夫だろう。


「今日は俺のブーメランを作って貰っている涼の依頼で素材集めをすることになった。一応B級でブーメランマスターだから単純に俺よりも強いと思って貰っていい」


「私はブーメランの先駆者なのだ!」


 と高笑いする涼を見た視聴者は、意外な戦闘力に驚いている様子。


「というわけで、早速狩りに行こうと思う」


 カメラを再び空へ飛ばし、ダンジョン攻略を始めた。

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