第18話
浦安ダンジョンのモチーフはサバンナだろうか。点々と散らばる珍しい形の木と、そこそこの高さの草原。そして空気は若干乾燥しており、気温は高めだった。
「第一層はツインヘッドエレファントだね。牙が良い武器になるんだよ」
目の前に居たのは頭が二つ生えた象。体は非常に大きく、体重もしっかりあるのだろうとは思うが、あのでかい鼻が2つに耳が4つもあって視界もバランスも悪そうなのだが。
「簡単に小突いたら倒れそうな敵だな」
「あのモンスター、重力魔法で重心を操っているからバランス悪そうに見えるけど倒れないよ」
重力魔法なんて壮大な物を使ってまでバランスを取る価値ってあるのか……
モンスターの意図がよく分からん。
「とりあえずあいつは私が倒すよ」
そう言って涼は全力でブーメランを投げた。
空気を切り裂く爆音と共にブーメランは真っすぐ標的へ向かい、象の背中を切り裂き、派手に血を撒き散らす。
「もういっちょ!」
再び爆音を立てて飛ぶブーメランは二つある頭の片方に突き刺さり、頭蓋骨ごと貫通していた。
見るからに大ダメージを受けた象は、そのまま横に倒れた。
そして戻ってきたブーメランの戻ってくる方向に向かい、ダイビングキャッチをした。
「どうよ!」
アグレッシブなブーメラン殺法に目を奪われていると、戦い終わった涼がどや顔でこちらを見てくる。
「色々と凄い戦い方だな」
あまりにもパワフルというか、力任せというか。割と繊細なはずのブーメランとは思えない戦い方だった。
「いやいやいや、こっちが普通なんだからね。ブーメランはこうやって戦うんだ。あんな1㎞も2㎞も離れた地点から狙撃するための武器ではないよ」
「そう言っている涼もあの破壊力は可笑しいだろ」
空気抵抗とかをガン無視で投げていたのでそこまでだったが、綺麗に投げていたら音速超えていただろ。
「力は正義だからね!一切のデメリットや消費無しに力を行使できる。最高じゃないか!」
ブーメランという武器を使っている割には脳筋の方だったらしい。
「なあ涼、俺にアレを要求してもどうにもならんぞ」
俺は補正分以外に力は増やしていない。
「流石にAIM君にアレを要求はしないよ。レベル差もあるしステータスの振り方も違うしね」
「じゃあ何を?」
「弱点を突いて倒してほしいんだよ。ここのモンスター達っていい素材になる分馬鹿みたいに硬くてさあ。弱点に当てなきゃああするしかないんだよ」
ああいう倒し方をすると定期的に牙を破壊してしまう上に、体力の消耗も激しくてそんなに狩れないとのこと。
「なるほど。確かにそれなら俺に最適だな」
「ということでお願いします」
俺はこの象の弱点を教えてもらい、早速戦うことに。
「口の中と首元か」
どちらも巨大な耳と鼻で隠れているが、角度をしっかりつければ当てられないことも無いか。
試しに500m位先に居る象を狙ってみる。
「当たったな」
思ったよりも簡単に命中した。全力で走れば時速40㎞以上出るゾウだが、平常時はそうでもないからな。
弱点二か所を突かれたゾウは、横に倒れた。
「倒したぞ」
隣でゾウの素材を回収している涼に報告した。
「流石AIM君、仕事が早い。私が見込んだ通りだよ。次も頼んだ!」
丁度素材の回収が終わったらしく、俺が倒したゾウの牙の回収に向かった。
「とりあえず倒せるだけ倒すか」
俺は涼についていく道中で発見したゾウにブーメランを投げ続ける。
弱点に命中させられれば簡単に倒せるから正直ビートルよりも楽だな。
結局20体ほど素材を回収した。
「じゃあ次に行こうか!」
「結構なサイズだったと思うんだが、バッグは大丈夫なのか?」
「かなり大きいサイズだからね。車10台くらいは入るよ」
マジックバッグは容量に比例して重くなるのだが……
「結構力に振っているんだな」
「まあね」
俺は涼の案内の元、第二層に進んだ。
「次はブレードコアトルス、超巨大な翼竜だね」
空を見上げると、ヘリコプターより二回りほど大きい翼竜が空を飛んでいた。
「なるほど。ケツァルコアトルスか」
小学校の頃に流行っていた恐竜のアーケードゲームで見た覚えがある。
巨大な翼に細い胴体が特徴の最強の飛行生物。
「アレの翼がかなり鋭くて、斬撃系のブーメランとして有用なんだ。だけどあの高さを飛んでいる生き物にブーメランを当てるのは流石に厳しくてね」
「高度1000mくらいか。ブーメランに熟達していればその位容易じゃないか?」
あのスピードでブーメランを投げられるのであれば偏差撃ちとかの煩わしい計算は必要無いだろうし。
「無理に決まっているでしょ!普通アレは無理だよ」
リンネじゃあるまいし当てられると思うのだが……
「まあいいか、さっさと倒すぞ。弱点はどこなんだ?」
「顎だよ。脳震盪が起きるらしい」
「分かった」
俺は回収可能な位置にある鳥に当たりを付け、ブーメランを放る。
飛行生物ということもあり中々なスピードを誇っていたが、大したことは無かった。
「何体か落ちてくるぞ」
「オッケー」
涼は落ちてくる位置を把握し、順番に優しく受け止めていた。
「まだまだ余裕だよ!ジャンジャン撃ち落として!」
「分かった」
俺は涼のリクエスト通り、手当たり次第に鳥を落としていく。
「全てキャッチしているな……」
かなりの量が落ちてきているはずだが、全てを逃すことなくキャッチし優しく地面に置いていた。
「なあ視聴者。どう見ても化け物だよなアレ」
力や速度にステータスをかなり振っているとかでは説明できない芸当だった。
本気出したら瞬間移動して背後から殴るとかやってきそうな勢いだ。
今回は50匹程倒した後、終了だと言われた。
「流石AIM君。全て一発で命中させるだなんて」
「まあ俺だからな」
俺に命中以外の選択肢など存在しない。
「ちょっと待ってね。素材を回収してくるから」
それから涼は30分程で全ての素材をマジックバッグに回収して戻ってきた。
「仕事早いな」
「まあ私は職人だからね。手先は器用なんだよ」
手先が器用で済むレベルではないと思うのだが……
「とりあえず、次に行こうか!」
「まだやるのか……?」
「勿論!折角AIM君が手伝ってくれているんだから、出来るうちにやっておかないと!」
マジックバッグの底の見える様子の無い馬鹿げた容量もそうだが、70体ほどの素材を回収しても一切の疲労を見せない体力は凄まじいものだった。
「次はフレイムアルマジロ!炎を纏ったブーメランが作れるよ!」
第三層に居たのは一見ただのアルマジロに見える。しかし、その周囲の草が焦げていることから異常なまでの体温の高さを突きつけられ、目の前にいるこいつがモンスターであることを理解させられる。
サバンナは乾燥しているから延焼しやすいから焼け野原になっているのが妥当な気もするが、そこはダンジョンということなのだろう。
「頭が弱点だから、丸くなって頭を隠される前に攻撃してね!」
「そうなのか」
試しに目の前にいるアルマジロの頭に攻撃してみると、あっさりと倒された。
「問題なく一撃で倒せるみたいだね。じゃあお願いしても良い?」
「任せろ」
と安請け合いしたものの、アルマジロはこれまでのモンスターと違い小型犬位とかなり小さかった。そのせいで高い草に阻まれ、遠くにいるアルマジロを視認できない。
いくら命中率100%を誇る俺でも、居場所が分からないのならば当てようが無いからな。
せめてもの救いは、アルマジロの周囲が焼け焦げている為居場所を見つけるだけなら容易なことだ。
「大体そこか?」
草の焦げ方から大体の居場所を推測し、頭と思われる位置に投げてみる。
「当たったか?」
こちらからでは何も分からない。
俺の命中率を信頼している涼が倒したか分からないアルマジロの方に向かい、剥ぎ取りを始めた所で当たったことを察する。
「適当に投げても良さそうだな」
俺はそれからアルマジロが居るであろう焦げに向けてブーメランをぽんぽんと投げていく。
結果50回程投げて、涼のストップがかかった。
「じゃあ次に行こう」
「そうだな」
何となく予想はついていたが、まだ先まで潜るらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます