第16話

 帰宅して涼から聞いた話によると、あの時間での攻略は適正ランク帯だとかなり早い方らしい。


 理由は武蔵小山ダンジョンでゾンビを倒しすぎたこと。そのせいでD級の適正レベルを大幅に超えたらしく、C級も普通に攻略可能なレベルらしい。


 そんなことを聞いた俺は、こんな企画を実行することに。


「D級ダンジョン攻略RTAだ」


 昨日の神田ダンジョンは相性の問題だと思っていたから配信中は気にしていなかったが、他のダンジョンでも同じことが起こるのでは面白みが無いと判断したのだ。


「俺のステータスだとD級は少し低いらしくてな。ならば今日中に2つ攻略してやろうということになった」


「色々調べた結果、東京に限って言えばD級ダンジョン同士の距離が一番近いのが巣鴨と池袋の組み合わせらしい」


 日本中を調べればもっと近い所も見つかるのだろうが、探すのも向かうのも面倒すぎる。


 色々考えた結果、ここに落ち着いたというわけだ。


「というわけでここ巣鴨から始める。このストップウォッチを押した瞬間から池袋のボスを倒し、宝箱が出現するまでを挑戦とする」


「それでは、3,2,1,スタート」


 俺はスタートと同時に走り始めた。


 ここは狼のみが出てくるダンジョン。調べによると、階層ごとの格差が大きく、3層が普通のD級の3層よりは難しいらしい。


 第一層は草原で、敵はウィニーウルフ。F級相当の敵だった。


 第二層は森で、敵はウルフ。そこそこ強いが、それでもE級程度。


 速くもない上に数もさして多くない。そのため、あっという間に第三層へ。


「そこそこ強いとは聞いているが、どんなものだろうか」


 第三層は山の中腹あたりのような場所。そこに居たのは、グランドウルフ、ウィンドウルフ、フレイムウルフ、ウォーターウルフの4種。


 今までの2匹は灰色の綺麗な毛並みをしていたが、こいつらは黄、緑、赤、青と自分の属性のイメージカラーで染め上げられていた。


 こいつらは今までの奴らと同じく噛みついてくるのだが、その間に魔法を挟んでくる。


 遠距離攻撃で逃げ場を封じたり、直接攻撃して動きを鈍らせたりして、本命の噛みつきに繋げるのが主な戦法らしい。


 つまるところ本命が接近を前提としているので、今までの狼と同じく近づく前にブーメランを当てて処理。


 魔法もそんなに威力が高いわけでもない上に、当ててくることも無かったので何の苦労も無い。


 一切のトラブルも無く第4層のボス部屋に到達。即入る。


 そこには先程までの狼に加えて、黄、緑、赤、青の4色を毛に纏ったエレメンタルウルフがボスとして君臨していた。


 こいつは先程の4色の狼と違い、遠距離を主体に攻撃を仕掛けてくる。


 そのため、歪な比率ではあるが、前衛と後衛が揃った布陣となっていた。


「一瞬だったな」


 とは言っても先手をとって一撃で頭に当てれば終了なのだが。


「巣鴨は48分だ。次行くぞ」


 宝箱の中身を回収し、配信の音声と映像の録画を一時的に停止。急いで手続きを済ませ外へ。


「手続きは終了した。これからダッシュで池袋へ向かう」


 俺は配信を再開し、池袋へ向かう所を撮影する。不正はしていないと証明するためだ。正直な所誰も気にすることは無いだろうが。


 常にダッシュし続けることになるので、迷惑がかからないように自転車のルールに合わせて走る。


「ステータスの恩恵って凄いんだな」


 基本的にダンジョン内の移動は徒歩で、戦闘中も相手から視線を外さないようにステップが基本だったので気付かなかったが、めちゃくちゃ足が速くなっていた。


 自転車に合わせてはいるが、実際車とスピードの差は殆どなかった。


 待ちゆく人々がそんな俺を驚愕の目で見ていた。


 しかし俺はRTA中。道を間違わないようにスマホのナビをしっかりと聞きながら全力で目的地へと向かう。


「10分か」


 想定していたよりも遥かに短い時間で辿り着いた。しかし息も切れておらず、体力の向上を感じた。


 受付でダンジョンに入る資格があることを証明し、池袋ダンジョン内部へ。


「ここからは虫が映る。苦手な奴は配信を閉じてくれ」


 池袋ダンジョンは虫が大量に映るため配信向きではないが、ここ以外に選択肢は無かった。


「あれか」


 このダンジョンに出てくるのは確かにモンスターで間違いないのだが、本来想定されるモンスターではない。


 少し遠くを飛んでいるのはハニービー。いわゆるミツバチそのものだ。モンスターとして特殊能力が追加されているというわけでは無い。


 ちなみに今後このダンジョンに出てくるのは全て現実世界に存在する虫だ。


 じゃあ何故このダンジョンがD級なのか?それは、虫のサイズがあまりにも大きいから。


 例え現実世界に存在する人間の脅威足りえない虫であったとしても、それが50㎝くらいあったなら話が変わってくる。


 小さな体だからこそ許された力が、そこら辺の犬くらいの大きさになり、力もそのまま拡大されているのだ。


 そこら辺の犬っころの比ではない。


 格下げどころか、C級ダンジョンに格上げすら議題に上がっているくらいには強力な化け物たちだ。


「肉体はそこそこ固いらしいな。まあ脆い部分はかなり脆いらしい倒せないことは無いんだがな」


 俺は群れで飛んでいるハニービーそれぞれの羽目掛けてブーメランを投げる。


 するといとも簡単に羽が捥がれ、地を這った。


 それでも足はあるので動けるらしい。


「まあ俺に追いつけるわけでもないし放置するか」


 巨大化した分足での移動が難しくなったらしいハニービーは、俺の全力ダッシュには敵わなかった。


 見かけたハニービーの羽を捥ぎ、逃げるのを繰り返し、第二層へと辿り着く。


「次はドラゴンフライ。とんぼだったな」


 ただの原っぱにとんぼが飛んでいるという光景。別にそれだけだと普通なのだが、トンボのサイズが大きすぎて間違った所に来たのではないかと思わせられる。


「確か動体視力が半端ないらしいな」


 俺は避けられることを考慮し、一匹当たり三個のブーメランで対応する。


「これでどうだろうか」


 それぞれ三方向から飛んでくるブーメランを、トンボは避けることなくクリーンヒット。見事地面に落下する。


「は?」


 いやいや、情報と大分違うが。


 攻撃を徹底的に避けた上で攻撃を仕掛けてくる厄介な虫だと聞いていたのだが。全弾ヒットは聞いていない。


「流石にまぐれか」


 流石にそんなことは無いだろうと思い再度投げる。


「当たったな」


 見事命中。先程と同じ流れ。


「なら1個だとどうなる」


 またもや命中。綺麗に墜落。


「まあ簡単に当たってくれるのであれば有難いだけだな」


 ボーナスゾーンだと判断し、俺は全速力で駆け抜ける。


 見かけたとんぼ全てにブーメランを投げ、先んじて脅威を取り除く。


 そしてあっさり第三層へ。


「次はビートル。カブトムシだな」


 これは純粋に俺と相性が悪い敵だ。全身が強固な鎧であり、生半可な攻撃は通ることが無い。


 身体の裏は大したことが無いため飛んでいる場合は倒せるのだが、地に足を付けていた場合どうしようもない。


「極力見つからないようにせねばな。ブーメランでは時間がかかりすぎる」


 一応一点を狙い続けて倒すことは可能ではあるが、時間がかかりすぎるのでRTA走者としては避けるべき相手だ。


 というわけで探知をフル活用して一戦もせずに通り抜ける。


 流石に正面突破出来た今までの階層よりは時間がかかってしまったが、中々好タイムではあると思う。


「ボスはマンティスか」


 このダンジョンのボスとして君臨するのはカマキリ。巨大な鋭い鎌によって全ての防御を貫通してくるタンク泣かせの敵だ。


「まあ一番脆いから俺からすると楽なんだがな」


 その分体は細く、密度も大したことは無いので頭に当たれば一撃で倒せる。


 当然瞬殺だった。


 同時にドラゴンフライも倒したので残るはビートルとハニービー。


「先にハニービーだな」


 俺は先程同様羽を狙い撃ち、地面に墜とす。


 そして弱った所に足を狙い撃ち。移動能力を完全に潰す。これで一旦無力化出来た。


「後はこいつだな」


 第三層では時短のために逃走という選択肢を取ったビートル。


 一応一か所を狙い続ければ倒せることが分かっているのだが、時間がかかるんだよな。


「攻撃回数を考えると、ボス部屋は狭いんだよな」


 最低でも7回は当てないといけない以上、ダメージを気にせず自慢の体で突進されたらしんどいな。


 防御力は一般人並みだから一撃でも食らうと死亡確定だ。


 俺はこういうゲームをするのは不本意なわけだが、乗り越えなければ先に進めないのなら仕方ない。


「試しに足を削ぐか」


 カブトムシらしく足は細いからどうにか出来るだろう。


 6本の足目掛けてブーメランを投げる。


 しかし鈍い金属音と共に弾かれた。

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