第15話

「高台に上ってみよう」


 敵を確実に把握するため、俺は近くにあった急斜面を登り見晴らしの良い高台に立つ。


「なるほど。ここまで大きかったか。まともに戦っていたら危なかったかもな」


 上から見る限り20を超える家が並び、推定で100匹は住んでいると思われる。しかも子供のゴブリンは見当たらず全て大人のゴブリンであると推定される。


「ダンジョン内の生物は繁殖をしないのか」


 確かに今まで子供と思われるモンスターは見かけたことが無かった。確かにダンジョンがモンスターを生み出すのであれば繁殖は要らないか。


 そもそも生物が一層あたり一種類しか見当たらないのだから普通の生物を生み出していては生存が難しいか。


 そんなことを考えながら、どうやったら居場所を気取られずにモンスターを処理しきれるか観察していた。


「常にゴブリンが見張り台に立ち敵襲を警戒。そして見張り台に居るゴブリンが狙撃で殺される可能性を考えて見張り台を地面で見守るゴブリンも居る」


 それに見張りに回っているゴブリンはかなり多く、同時に倒すにしてもかなり難しい布陣だった。


 先程のゴブリンは持っていなかったが、集落を守っているゴブリンは弓を所持している。この位置であれば一部のゴブリンは俺に当てることが出来るだろう。


 流石に一発当たった程度で死ぬことは無いだろうが、確実に追撃を貰って死ぬことになる。防御は無振りだからな。


「作戦を考えるのは苦手なんだがな……」


 作戦は基本的にリンネが決めていたし、俺の体力はここまで弱いことは無い。


「良い案は無いか?」


 俺はカメラを回収し、視聴者に案を求める。


 様々な言語が飛び交っているため、探すのに苦労したが、良さそうな案が一つ見つかった。


「ありがとう。案は決まった」


 俺はカメラを再度飛ばし、戦闘に入る。


 ブーメランを上空に放つ。


 見張り台のはるか上空を飛ぶブーメランに気付いたものは誰もおらず、集落を歩いていたゴブリン達の脳天に突き刺さる。


 そしてそれは予定通り俺の元ではなく、全く関係ない一点に集結する。立案者曰く、ゴブリンはブーメランを知っているらしく、戻った方に敵がいると判断できるらしい。


 ゴブリン達は居ない襲撃者の方へ向かって行った。


 見張り台に立っているゴブリンも降りて戦闘に向かったため、集落に残ったのは丸腰のゴブリンだけ。フィーバータイムの開始だ。


「これは愉快だな」


 安全な所から一方的に敵を殲滅する。そんなチートモードのような状況に心地よさを覚えていた。


「何よりもゾンビの時と違って居場所がバレていないのが良い」


 しかしそんな幸せな時間は直ぐに終わってしまう。


「そこまでゴブリンは多くなかったな」


 大体70匹程か。ゾンビの時よりかなり少なかった。


「まあ、アレは階層全てが集まる勢いだったらしいしな」


「次は戦闘員だな」


 様子を見てみると、居もしない襲撃者を必死に探すゴブリンの姿が。


 あまりにも見つからないので隊列を崩し、個人個人で捜索をしているようだ。


「それなら簡単だな」


 俺は外側に居るゴブリンから順々に倒していくことにした。


「これで全部だろうか」


 森の中に居るので確実とは言い切れないだろうが、それでも大体は倒しきってしまっただろう。


「ブーメランを回収するか」


 残っていたとしても対処可能だと判断した俺は、ブーメランを集めておいた位置に向かった。


 結果として3匹程残っていたが問題なく討伐し、無事にブーメランは全て戻ってきた。


 地味に高いからなくしたら大変だからな。


 それから散策を続けること数分。第2層への扉を見つけた。


「先程と同じような場所だな」


 第二層も先程ど同じ森。強いて言うのであれば木の背が全体的に高く、若干暗い所が違うと言える。といっても誤差レベルの違いしかないが。


「なるほど、コボルトか」


 第二層に上がた瞬間に俺のことに気付き、駆け寄ってきた。


 コボルトは犬の特徴を持った人型のモンスター。ケモ耳とモフモフの毛がチャームポイントだ。


 とは言ってもそれだけで可愛らしいわけではなく、恐ろしい獣みたいな顔をしているのだが。


 犬ということもあり鼻が良いらしく、上がってきた瞬間に駆け付けられたらしい。


「攻撃してこないのであれば先手を打つか」


 俺はマジックバッグから素早くブーメランを取り出し、順々に敵を狙い撃つ。


 俺を見て即攻撃してこなかった程度に警戒心が強い上、ゴブリン以上の反応速度を持っているらしく初撃は見てから避けられてしまった。


 しかしゴブリン程賢いわけでは無いので、戻ってくるブーメランに気付けず俺に向かってくる瞬間に頭に当たって簡単に倒されてくれた。


「こいつは毛皮が売れるんだったな」


 初めての毛皮採集ということで指南書をあらかじめマジックバッグに準備していた。


「ふむふむ。なるほど」


 初心者なりに指南書に従って解体を続けること数分。


「出来た」


 意外とあっさりと毛皮を剥ぎ取ることが出来た。


「初心者の割には良い出来ではないか?」


 俺は毛皮をカメラに向けて掲げる。視聴者たちの尊敬の声が聞こえてくるようだ。


「じゃあ行くか」


 剥ぎ取りは一回やれば十分だろう。俺の目的はダンジョン散策ではなく攻略だからな。


「この階層にも集落があるのか」


 歩いて階段を探していると、第一層で見かけたものと似た集落を見つけた。


 先程と同じように高台に向かう。


「さっきよりは丈夫そうな家だな」


 ゴブリンの方の集落は主に藁で作られた家だったが、コボルトの方は完全に木のみで作られたログハウスチックな家だった。


 しかし大きな違いはそこくらいで、規模感や見張り体制は殆ど変わりが無かった。


「ただ遠距離での攻撃手段は無いみたいだな」


 集落に居るコボルトは誰も弓を持っていない。全員が槍や剣を装備している。


「それなら普通に殲滅して終わりだな」


 俺は先程みたいにブーメランを別の所へ飛ばすようなことはせず、ただいつも通りにブーメランを投げる。


 何体かは周囲のコボルトが倒されていることに気付き、咄嗟にブーメランを避けられたようだが、9割以上を仕留めることに成功した。


「反応して避けたか。ならば複数投げて避けられないように退路を塞げばいい」


 俺は先程と同数のブーメランを残り1割のコボルトに向けて投げる。


 1個は避けられても、10個は避けられないようで、2度目で完全に仕留め切った。


「直接戦えば強さが比較できるんだろうが、接近しなければどちらも同じだな」


 この階層も苦労することなくクリア。第3層へ。


 次の階層で現れたのはオーク。棍棒を武器に戦う巨大な豚のモンスターだった。


 武器は退化しているが、巨大な体を持つためにコボルトよりも強大な敵なのだろう。


 しかし遠距離から攻撃するだけなので的がでかいだけで大した差は無かった。


 そして再び集落を見つけたのだが、コボルトの時と全く同じ流れで殲滅。


 家が煉瓦製となり、少しだけグレードは上がっていたが何も変わらなかった。


「対して苦労は無かったな」


 というわけでほとんど苦労せずに第4層のボス部屋手前まで辿り着いた。


 これまでの流れと同じであれば、ゴブリン、コボルト、オークの3種+何かの構成となるが、それらの延長戦の敵が何かということもあり、正直苦労する道筋が全く見えなかった。


「さっさとやるか」


 というわけで俺は何のためらいもなく扉を開く。


 ボスは真ん中にあるゴブリンやコボルトより少し大きいモンスターか。


「あれはリザードマンか?」


 所謂トカゲモチーフの人型モンスターだ。たまにドラゴンがモチーフになることも多いリザードマンではあるが、本物のドラゴンなんて当然見たことが無いので分からない。


「オークよりも弱そうだが」


 そんな感想を抱きつつ、ボス部屋へと入る。


「なるほど、確かにボスっぽいな」


 中に入った瞬間、リザードマンが一気に詰め寄ってきた。そのスピードは他の比ではない。


「ふん」


 といっても中央から入り口付近までの距離はだいぶ離れているのでブーメランが間に合うのだが。


「ギャアアア」


 自分のスピードも相まってリザードマンはたまらず倒れた。


 頭が弾け飛んでないあたり他の奴らよりも丈夫なのだろうが、一撃であることに変わりは無かった。


「残りもやるか」


 倒されたリザードマンの後を追ってやってくる3種のモンスターたち。


 しかし、リザードマンよりも遅く脆い敵等ただの的でしかなく。


「終了だな。思っていたよりも楽だった」


 配信を終わらせるためにさっさと宝箱を開く。


「報酬のスキルは『DIY』らしい。確実に攻略には使えないだろうが、日常生活では役に立つかもしれないな」


 主に家具組み立てで。


 それだけ報告した俺は、配信を終わらせてから手続きを済ませる。


「帰るか」


 というわけで、D級ダンジョンである神田ダンジョンの攻略が終了した。

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