呼び出して言いたい事っていう状況、何をするか答えは一つしかないよね。

 体育館裏、あまり人目につかない場所。わざわざ僕はそこに人を呼び出した。何故か、それは好きな人に告白して交際を申し込むため。


 約束の時間まで、腕時計を確認してみるとあと5分ていうところだ。とても緊張してドキドキしてきた。うまくやらなければ。そう思うとさらに拍動は加速していく。


 なんて言って告白するか、一応頭の中で整理しておく。『好きです。付き合ってください。』なんて言うのは流石にシンプルすぎる。好意がうまく伝わらないなんてこともありうる。『貴方の桜の花のような美しさに心惹かれましたどうか私と未来を共にして頂きたく存じます。』……これは流石に仰々しすぎる。自分だったら悪ふざけにしか聞こえない。昨日から考えているけど結局名文句は思いつかない。……成り行きに任せるしかないのだろうか。


 「おまたせ佐原くん。用事って何かな?」

 

 「うん。安宅さん。……それは、言いたい事が……あってね。」


 「言いたい事?」


 「うん、それはね……僕の好きな人の事なんだ。」……ちょっと待て、これじゃあ安宅さん以外の人を好きって言ってるように聞こえるぞ。早速やらかした!


 「す……好きな人?」ほら!安宅さんも訝しげな表情してるし!こうなったらもうなんとか繋いでいくしかない!


 「そう。……その人はね、あまり社交的じゃない僕とでも仲良くしてくれる人で、時折見せる笑顔がとってもかわいらしい人なんだ。」


 「……そうなの。」


 「うん。でね、僕はその人と何度も交流を重ねていくにつれて、その人知れば知るほどに惹かれていったんだ。……今は表情も仕草もお話してくれる言葉の一つ一つも何もかもが好きなんだ。」


 「そう……なんだ。とっても、好きなんだね。」


 「……うん。それでもなかなか告白する気にはなれなかったんだ。もしかしたらあくまでクラスメイトの一人として接してくれているだけで本当のところそんなに親密じゃないかもとか、実は嫌われているけどそれを、隠していてくれているだけかもとか色々考えちゃってね。」


 「佐原くんに限って嫌われているとか無いよ。きっと。誰にでも優しいし、真面目だもの。」


 「……そうかな。」


 「そうだよ。」安宅さんは優しく言った。


 「……だから、きっとその人は想いに答えてくれる。応援してる……。」伏し目がちに安宅さんは言う。これ、間違いなく誤解させてしまった。……まずい。まずいぞ。誤解を解くには……こうするしかない。


 「……何よりその人はね、他人のために喜んで行動できる人なんだ。……今も、そうだよ。」


 「……え?」虚を突かれたという表情をする。


 「だって、目の前で好きな人が居るとか言っても怒らないで応援してくれるんだから。……普通なら僕相手に好意が無くても怒るよ、こんなの。」意図しなかったとは言ってもあの言い方では誤解されても文句など言えるはずもないのだから。


 「その、だから、随分と遠回しな言い方になっちゃったけど、……好きです。僕とお付き合いしてください。」


−−−−−−−−


 私は喫驚している。佐原くんに告白してもらえるなんておもってもみなかったことだから。


 話したいことと言われ呼び出されたのだからそこでどのような話をされるか予想はしていた。けれど告白とは限らない。人に話し辛いことを私のことを信用して相談してくれるということもありえたのだから。


 ……正直、私は期待していなかった。佐原くんの事は好きだったけれど、こっちの事を好きになってもらえる自信は無かった。特に個性なんて私は持ってないのだから。


 「……本当に私でいいの?」思わず私は確認してしまう。


 「勿論。……安宅さんだから付き合いたい。」佐原くんは私をまっすぐ見据えてくれている。その顔は少し赤い。


 私は暫し思案して、そして何と返答するか決めた。


 「わかった。……よろしくお願いします。」これ以外にすべき返答は多分無いと思う。なにせ、私は佐原くんが好き。そして佐原くんもまた私の事が好きだから告白してくれたのだろうから。


 「……ありがとうございます。」佐原くんは少し顔を綻ばせて言った。その顔を見ると少し嬉しい気持ちになる。


 「……そうだ。記念に写真撮らない?」スマホを取り出しながら佐原くんは言う。


 「良いけど、ここで撮ってもいい写真にならなくない?回りは塀と壁しかないよ?」


 「それでも良い。今日この日この場所を思い出に残したいんだ。」


 「……わかった。じゃ撮ろっか。」私は画角に映るために佐原くんの隣に立つ。


 「よし、それじゃ……はいチーズ。」スマホの画面にほんのりと顔を赤くした二人が映っていた。シャッター音が鳴ってそれは記録された。


 これから、きっと写真は一枚、また一枚と増えて行くのだろう。そしてそれらには思い出も一緒に刻まれていく。そんなふうに過ごす日々が今から楽しみだ。

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恋愛・ラブコメ短編集 〜こちら、どこからでも読めます。時、場所、場面よりどりみどりです。お好きな所からどうぞ〜 緑川 湖 @Green_River_114

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