第8話 [部屋のルール決め]

「よし、あんたたちそこに正座」

「正座確定……」


 美紅がどかっとソファに座り、足を組んで頬杖をつく。国民を即初見しそうな女王様みたいだ。

 俺たち三人は言われた通り正座をする。


「えー、今からあたしたちの部屋のルールもとい、下の階の二人のルールを決めようと思うわ。異論は認めない」

「「「は、はい……」」」


 こ、この俺が美紅の威厳に少し圧倒されている……ッ!? メイドたちが怯えて美紅の言うこと従うって話は本当だったみたいだな。


「まず下の階の部屋に住んでいる九里と百合について」

(ぐ○とぐらみたいだな……)

「二人が任されてる仕事はあたしたちの仕事確認、安否確認、その他諸々の確認……。自分たちの部屋のルールはあなたたちで決めてもらうわ。

 合鍵は渡してあるけど、この部屋に入る時は必ずインターフォンを押して入ること。あと……」

「プゲッッ!?!?」


 美紅がポケットから何かを取り出すと、多々良さんはカエルが轢き殺された時のような声を発していた。

 美紅が手に持っているのは……盗聴器と小型カメラ……?


「こーゆーの、仕掛けないこと」

「で、でもお嬢様がこの男に襲われるようなことがあったりでもしたら……」

「多分、蒼夜はそんなことしないから。いらないのよ、そういうの。なったとしても、いつでも呼べるような装置あるじゃない。わかったかしら、ゆ〜〜り〜〜?」


 どすの利いた声で多々良さんを圧倒している。


「は、はいぃ……」


 多々良さん、流石変態。すかさず監視するための道具を設置するとは。

 そこに痺れないし憧れないッ。


「ふぅ、じゃあ二人は部屋戻っていいわよ」

「えっ!? 私たちこれだけですか!? もっと美紅お嬢様と同じ空間で同じ空気を……はぁ、はぁ!」

「さっさと出ていきなさい、この変態が」

「うひゃ〜〜ッ!! ご褒美きッッたぁよ!! いやっはァァァァ――ッ!!」


 テンション爆上がりのまま部屋の外に出て行く多々良さん。

 あの人はダメだ。もう、どうしようもないくらいに手がつけられない変態だ。


「じゃあ僕も部屋戻りますね〜。僕は基本的に部屋でモンスターハン……間違えた。一狩り行ってるんでいつでも呼んでくださ〜い」

「九里先輩隠す気ないでしょ」

「ナンノコトカナ〜? あ〜忙しい! 逆鱗(レア素材)集めに忙し〜〜!」


 カタコトのまま部屋を後にする九里先輩。

 仕事をサボってモ○ハンしてるとは……。赤薔薇家のメイド、本当に大丈夫か?


「……さて、あとはあたしたちのルールを決めましょうか」

「あの……いつまで正座をしていればいいのですか?」

永遠フォーエヴァー

なんてこったオーマイゴッド

「冗談よ。あと二人なんだし、敬語やめて」

「はいはい、あんがとさん」

「許してはいないから」

「…………まじですまん」


 姿勢を崩し、タメ口で美紅と話を進める。


「まず家事とかのルール決めにしないか? 一応美紅の責務は生活能力の向上だろ?」

「そうね、それから決めましょ」

「オッケー。じゃあ最初は料理だ。朝ごはん、弁当orオア昼ごはん、そして夜ご飯だな」

「……言っとくけど、あたし包丁触った回数は指で数えれる程度だからね。ふんっ!」

「そこでドヤんな」


 両手を腰に当てて胸を張る美紅。可愛らしいが、ドヤるところ間違えてる。


「そうだな……。朝ごはんと、弁当か昼ごはん、それは俺が作ろう。夜ご飯は俺のサポート込みで作る。

 美紅の腕が上達してきたら朝か昼、どちらかも一緒に作るとしよう」

「そうね、じゃあそうしましょ」


 俺の負担結構あるが、流れ作業のように決定したな。美紅に良心の呵責はないのだろうか。


「次は……風呂とか? さっきみたいなことが起きないようになぁ〜。なんつって」

「もっかい正座させてその上にピラミッド逆さにして乗っけるわよ……」

「俺の股間を殺そうとするのやめてくれ」


 ナニがとは言わないが、ヒュッとした。


「そうね……じゃあお風呂はあたしから入らせてもらうわ。あたし、熱い一番風呂好きなの」

「俺も好きなんだが?」

「異論はないようね」

「あるんだが??」


 やれ、自分勝手なお嬢様だ。


「さて、それじゃあ他の家事は空いてる方がすると考えているんだが……お前の家事がどの程度まで壊滅的なのか見ておきたい」

「んー、わかったわ。じゃあ早速――」

「待て、美紅」


 リビングに散らばっているタオルの方へ足を進めた美紅だったが、俺は美紅を呼び止めた。


「俺の予想では、ここらあたりのクローゼットに……ほらあった」

「んなッ!?」


 近くにあったクローゼットには、数枚のヴィクトリアンのメイド服があった。

 予めここに入れていてくれたみたいだ。わかってるぅ。


「メイドと言ったらメイド服だろ。九里先輩とかだって着てるんだし……着ざるを得ないよな?」

「ッ……! 蒼夜、あんたァ……!」

「ほれ、俺は外で待ってるから着替えるんだな」

「〜〜ッ!!」


 ギリギリと歯ぎしりの音を聞きながら俺は部屋の外に出た。

 はてさて、どの程度なのかねぇ。

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