第4話 [再開]
ポンコツに出会って、次は変態に出会った……。この家、見ないうちに変化したところもあるなって思ったけど、それは大丈夫か?
そんなことを思いながら面接の順番を待っていた。
「しっ、失礼します……!」
俺の一つ先の人が声を震わせながら部屋から出てきた。面接がそんなに恐ろしいものだったのだろうか。
「お、おい最後のあんた」
「はい、なんでしょう?」
話しかけてきた人の声色からは、恐怖の感情が感ぜられた。
「この家のお嬢様、赤薔薇美紅様がなぜかめっちゃ怒ってんだ! 漏らさないように気ぃつけろよ!」
「は、はい……」
うーん……。俺のせいじゃね?
あのお部屋ならぬ、汚部屋を見ず知らずの輩に見られたこと癪に触ったんじゃないかと推理した。
「まっずい……! ……で、でも行くしかないな」
深呼吸をして扉の前に立つ。そしてコンコンコン、と三回ノックする。
「入っていいぞ」
「!」
中から懐かしい声が聞こえてきた。旦那様だな。
「失礼します」
ガチリャリト扉をあけて中に入る。部屋の中には、先程会ったハーフアップの美少女。同じ赤髪に翡翠色の目を持った厳格そうな男性。黒髪糸目でおっとり系の女性の三人が椅子に座っていた。
昔からあまり変わっていないようだった。
……ちなみに、お嬢様であろう美少女は俺に視線を飛ばしており、ビシビシとそれを感じている。
「ふむ、取り敢えず座れ」
「はい」
言われた通り、俺は置いてある椅子に姿勢正しく座った。厳格そうな男性ことこの家の当主――赤薔薇
「ゴホン……久しいな、蒼夜」
「お久しぶりです、旦那様、奥様、お嬢様。今日はよろしくお願い致します」
「……ねぇ、あなた――いや、蒼夜。さっきのことについて、謝罪の一言も無いのかしら?」
腕を組み、『ゴゴゴゴ……』という擬音が聞こえてきそうな恐ろしい表情をしているお嬢様。
「……先程は申し訳ありませんでした」
「ふんっ。ま、久々の再会って事で今回は無しにしてあげる」
……いや待て。お嬢様が許したとしても、隣の人が許してくれいんだよ! お嬢様のお父様は娘大好き魔人だから……。
「なんだと……。おい貴様、娘に何をしたァッ!!」
「ほらほら、落ち着いて豊一さん。折角久し振りに清水くんに会えたんだから〜♪」
椅子から立ち上がり、こちらに向かって来ようとする旦那様を制止させる糸目の女性。
この方はお嬢様のお母様――赤薔薇
「な、何をされたんだ美紅!」
「いや、部屋を見られただけよ」
「何だとォーッ!? …………不合格&死刑だ」
重すぎやきませんかねぇ。まさか極刑を要求されるとは。
娘好きにさらに拍車がかかってきたな。
「ちょっとお父様! 確かに恥ずかしかったのはあるけれど、それだけで不合格にするのは理不尽すぎると思います」
「よしわかった。では蒼夜、面接を始めようか」
「あ、はい。わかりました」
その後は家族三人からの質疑応答をした。旦那様に何かと難癖ををつけられたりしたが、奥様やお嬢様が抑制してくれた。
「ふむ……大体わかった。もう行っていいぞ」
「はい、失礼します」
ドアの前で一礼した後、部屋を後にした。
スタスタと長い長い廊下を歩き、貸し出してくれた正装を返却し、屋敷を後にしようとしている。
結果は三日後に合否通知が電話でくるらしい。
「さて、帰るとする――」
「ま、待って!」
刹那、手に柔らかい感触が走る。
振り向くとそこには、息を切らしたお嬢様がいた。
「どういたしましたか?」
「ちょ……蒼夜やめなさいよそれ。昔はタメ口だったじゃない!」
「昔の話でしょう? 今やきちんと身分は弁えております」
「あたしが良いって言ってんだからいいのよ! 次敬語で喋ったら口にマリトッツォ放り込むから!」
「はは、物理的に甘い罰だな」
「!」
俺がタメ口で話すと同時に、彼女の持つエメラルドの瞳はさらに輝きを増した。
「それで……どうしたんだ? 手は十分あったかいぞ?」
「え? あ、いやっ、ち、違う! ってか恥ずかしいじゃない!!」
「なんて理不尽な……」
バシッと俺の手を振り払うお嬢様……いや、美紅と呼ぶか。少し悴んでいた手だったから痛みが強かった。
「あの……あんた、あの後ってどう暮らしてたの……? あ、嫌だったら言わなくていい……けど、その……別に心配なんかしてたから!」
「そこは『してない』って言うところじゃね?」
「本当に心配してたのよ。っていうか話を逸らさなくていいのよ」
美紅がいう『あの後』とは、俺が物心ついた時から優しく育ててくれていた遠い親戚のおじさんとおばさんが事故で死んだ後のことだろう。
あの後は――
「っ!!」
思い出そうとすると、心臓にナイフを突き立たれたかのような痛みが走った。
「蒼夜? なんか顔色悪い気がするんだけど……。本当に何かあったの? 無理だったら話さなくてもいいけど……」
「……いや、別に、特に何もなく普通に暮らしてたよ」
「本当に……?」
「ああ」
後ろ首をぽりぽりと書きながらそう答えた。美紅はツンケンしてるが、普通に優しい女の子だ。だからこうして心配してくれているんだろう。
ふぅ、と息を吐き、美紅の頭の上に手をポンと置いた。
「本当に大丈夫だから。心配してくれてありがとな」
「あ……ぇ……」
「……あ、やば」
美紅の顔が、持ち前の赤髪よりも赤くなる勢いで紅潮し始める。
「そ、そ……蒼夜のバカァ――ッ!!!!」
「どわぁーっ!? み、見事な回し蹴りッ! 10点!」
「点数もつけるな〜〜!!」
その後、なんとか宥めた後帰路を辿るのであった。
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「豊一さん、もう決まりましたか?」
美紅の母親、静が美紅の父親にそう話しかけている。
「ああ……だが本当にやらせるのか? やめたほうが……」
「言ったのはあなたじゃないですか。美紅の生活能力の無さはみんな承知してます。だからこそです」
「しかし……年頃の子供らが……」
「ぐずぐずしないでくださいっ! 決めるんですか? 決めないんですかっ!?」
静の一喝で、豊一の石が固まったようだった。
「うむ、じゃあ決めた。使用人アルバイト試験、清水蒼夜は不合格だ」
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