第37話 おっと、つい本音が

ここはヘーゲ帝国の一室。ここでは豚のように肥えた一人の皇子が怒りに身を任せ、部屋中のものを傷つけていた。周囲には割れた花瓶や酒瓶、食べかけの皿などが散乱し、後から片付けに来る使用人がかわいそうと思えるほどだ。


「クソが!僕がわざわざ婚約をしてやるっていうのに自国の公爵と婚約を結んだだと!ふざけるなよ!皇子である僕の誘いを断るなんて許さないぞ!」


ここで暴れているのはヘーゲ帝国の皇子、シュバインである。彼はミラナリアの力を知った直後にその力を自分のものにしようとするために、自分の妻に迎え入れるという趣旨の書状と自身の肖像画をサクラ王国へと届けさせた。


しかしながら、待てど暮らせど返事は来ず、最終的にはミラナリアからではなく、サクラ王国から婚約者は決定したと通達がなされたのだ。


今まで生きてきた中で、自分が望めばなんだって思い通りになっていた。しかし、今回はそうではなかったのだ。そんな彼は自分の望み通りにならなかったことに対して、ミラナリアに強い憎しみを抱いているのだった。


「シュバイン様、どうかお静まり下さい。割れた破片でシュバイン様が怪我をしてしまいます。」


「うるさい!お前は黙っていろ!」


豚のように肥えた皇子、シュバインを止めようと彼のお付きの人間が近づくが、彼に阻まれてしまう。彼は気に入らないことがあればすぐに癇癪を起し、そこら中にものを投げつけているのだ。


そんな場所に止めに入った人間が怪我をしないはずがない。お付きの人間は頭部に花瓶が直撃し、気を失ってしまうのだった。


「クソッ、クソッ、クソッ!僕の誘いを断ったことを絶対に後悔させてやる!ただで済むと思うなよ!サクラ王国のミラナリア。」


こうして、ミラナリアの知らないところで知らない国の知らない皇子から憎しみを向けられるのであった。もちろん、彼女からしてみればたまったものではないが。




「クシュン、ハ~ハクション!」


「おや?風邪ですか?あなたがくしゃみなんて珍しいですね。」


「何言っているんですか?これは風邪ではなく、誰かが私の噂をしているんですよ。きっと、今頃この世界のどこかで私の有能さを布教している人がいるんです。」


ミラナリアは自信ありげに公爵の問いに答えるものの、公爵の反応は冷めたものだった。


「そんなわけがありませんよ、あなたの有能さを布教する人間が1人いるのであれば1000人はあなたの悪い噂を広めていますよ。」


「ぶ~っ、そんなことを言うのなら証明してあげますよ。街に出て、私がどれだけ優れているのか通行人に聞いていきましょう!」


「やめてください!なんのために私の屋敷に引っ越してきたと思っているんですか!他国の貴族達をあなたから守るためにやっているんですよ!」


「ん?他国の貴族に私がさらわれないようにするためですよね?」


ミラナリアは不思議に思って公爵に尋ねるが、公爵は一向に目を合わせてくれない。それどころか今にもため息をつきそうな顔つきだ。


「おっと、つい本音が。そうですね、本来の目的はあなたを守るためでした。決して、あなたが目的で王都を訪れている他国の貴族ともめ事を起こさせないようにするためではありませんよ。」


公爵の本音は駄々洩れである。もはや、最近ではミラナリアに対してグイグイ迫っているようにも感じる。これは、二人が婚約したことに関係があるのだろうか?それは、公爵でさえも知らないことだった。


「何で私の扱いがそんななんですか!」

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