第36話 あ・な・た♪
公爵との婚約も決まったため、他国の王族などから送り付けられているお見合い写真をこれ以上見る必要もなくなり、自身の家で再び暮らすことが出来ると考えていたミラナリアだが、それは甘い考えだった。
「ぷ~っ、どうして私はあなたと婚約したのにお家に帰ることが出来ないんですか!婚約者の肖像画もすでに燃やしたのでやることはないですよね?これなら意味がないじゃないですか。」
「悪かったな、婚約した意味が無くて。だが、仕方ないだろ、婚約者が決まったから見合い相手の写真は送らないでくれって陛下が各国に通知したら、うちがミラナリアを囲って利益を独占するつもりだろと批判を受けているんだから。
今のこの状況でもしも君がどこかの国に連れ去られでもしてみろ、今度はうちが他国の目に触れないように監禁して閉じ込めているとでも言われるぞ。そんなことになってしまえば困るからな。
悪いけど、しばらくはおとなしくしていてくれ。もしも、城での生活が飽きたのなら私の屋敷にでも来るか?私だって曲がりなりにも公爵だからな。警備という点に関しては城なみだし、警備を強化することもできる。すでに陛下にも許可を頂いているから、君が決めていいぞ。」
ミラナリアがこれ以上お見合いの写真を見たくないと言うので国王が各国にこれ以上、肖像画を送らないで欲しいという趣旨の通達を行ったところ、大批判を受けたのだ。
そのため、国王は今もその件に関しての処理を行っている。もっとも、各国が批判を行った理由はサクラ王国のみにミラナリアを独占させないためだが。
もしも、彼女がサクラ王国に独占されてしまえばサクラ王国の発言力は一気に跳ね上がる。つまりは各国は国家間のバランスを崩壊させてしまうことを危惧し、サクラ王国を批判しているのだ。
「そうですね、お城も飽きてしまいましたし公爵様の屋敷で過ごさせてもらいましょう。お世話になりますね、あ・な・た♪」
「それを言われると鳥肌が立つからやめてくれ、君がそんな甘い声を出すなんて気味が悪い。」
ミラナリアはふざけたつもりで甘い声をだし、公爵に挨拶をしたが、公爵にとっては不評だったようだ。公爵は腕をさすりながら必死に鳥肌を抑えようとしている。
「何でですか!私が甘い声を出したら気持ち悪いんですか、心外です!何です、せっかく婚約者みたいに振舞おうとしたのに、ノッてくれても良いじゃないですか。」
「だってさ、君はどこぞの国王に一言、二言話しかけただけで廃人に追い込むほどの凶悪なキャラなんだよ。そんな君が、甘い言葉なんて何か裏があるとしか思えないだろ?自分でやっててもキャラじゃないって思わないのかい?」
「ぐぐっ、それを言われてしまえばそうかもしれませんが。それにしても、凶悪なキャラって何ですか!公爵様は私のことをそんな風に思っていたんですか。
それならそれでいいです。また次の犠牲者が増えるだけですからね。はぁ~、また変な奴が目の前に現れないでしょうか?そうすれば私がやらかして公爵に後始末を任せることが出来るのに。」
ミラナリアはやれやれと言うように話しているが内容は凶悪そのものだ。そんな彼女に公爵だって抗議の一つもしたくなる。
「何をアホなことを言っているんだ。私は後始末なんて絶対に嫌だからな。頼むから何もやらかさないでくれ。前回のメロロ王国ですらどれだけの苦労を要したか君は知らないだろ。本当に、本当に頼むよ。」
公爵は心底疲れたような顔で遠くを見つめていたが、それに対してのミラナリアの答えは無言だった。
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