第15話 権力者の耳は自分に都合の良いことだけが聞こえる
「宰相殿、この内容はいったい?ライカハン王の婚約者とはもしかして陛下が追放したあの女なのではありませんか?」
「そうですよ、どう見てもこの内容からあの平民が結界と言う能力の使い手ではありませんか?」
「宰相殿、もしかすると魔物が急に目撃された原因は例の平民を追放したために結界が無くなってしまったからではないのですか?魔物が目撃され始めた時期と陛下が追放なされた時期は確か同じであったような気がしますが。」
貴族達は次々と前国王の手記から分かった事実を突きつける。宰相ですら、その考えは他の貴族と同感であった。むしろ、それ以外のことが考えられない。
しかし、これはまずいことになった。国王が平民を追放したから国の危機というのは体裁が悪すぎる。宰相として、どうにかしなければならないのは明白だった。
「とりあえず、この話は私から陛下へ伝えておく。お前たち、このことはしばらく内密にしておけ。こんなことが知れれば体裁が悪すぎる。」
宰相は現国王に意見を求める間はここにいた貴族たちに内密にするように命令を下すのであった。
「陛下、陛下大変です。」
ドンドンと国王の寝室を宰相がたたく。それは以前に訪れた時と同じ構図であった。
「うるさいぞ、宰相。何度言わせれば気が済むのだ、邪魔をするな!」
以前はこれで引き下がった宰相であったが今回はそうはいかない。今回はどうしても国王の意見を聞かなければならないのだ。宰相は国王に文句を言われようとドアをたたくのをやめない。
「陛下、お願いでございます。五分で良いのでお時間をください。」
いつまで経っても引かない宰相にうんざりしたのだろう。仕方なく、宰相を部屋の中に引き入れる。そのすれ違いざまに何人かの令嬢たちが部屋から出ていく。
「宰相、何回言わせれば分かる。邪魔をするな、全く、興がそがれたではないか。」
「申し訳ございません、ですが一大事なのです!」
宰相は先ほど自身が見た前国王の手記の内容をすべて国王に伝える。しかし、宰相の気持ちが国王に伝わることはなかった。
「宰相、そんなしょうもないことを言うために邪魔をしたのか?あの平民のおかげで今まで国が無事だった?馬鹿らしい。それでは何か?私があれを追放したから魔物が出てきたというのか?そんなわけないだろう。」
「ですが、前国王の手記の内容です。事実の確認だけでも行ったほうがよろしいのでは?」
宰相はしつこく、国王へ手記の内容の検証を求めるが国王からの返答は変わらなかった。
「必要ない!宰相、あのような平民にそんな力があるわけがないだろう。前国王は病気でお隠れになったのだ。そのような人間が書いた手記などあてになるはずがないだろ。」
「しかし、・・・。」
いつまで経ってもしつこい宰相の態度に国王はうんざりしていた。そこで、彼は仕方なく、妥協案を提案するのであった。
「分かった、分かった。その話が本当であればどこからか結界の力を持つ人間がいると噂になるだろう。そうなればあれをもう一度、呼び戻せばいい。」
「陛下がそうおっしゃるのであれば、それでよろしいですが。」
「なら、そうしろ。魔物など、兵士を使えばよいではないか。あいつらは放っておけば勝手に増えるのだから問題ない。」
一国の国王であるにもかかわらず、いつまで経っても楽観的な国王であった。
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