第9話 貴族って偉い生き物なんですか?
「それで、話は戻るのだけれど、私たちがここを訪れていたのはとある薬草を採取するためだったんだ。知っての通り、この大森林にはここにしかない貴重な薬草がいくつもあるからね。
先日、私の領地に陛下が視察と称して遊びに来た時のことだ。国王が来るということで警備を強化していたのだけれど、警備の隙をついて魔物の襲撃にあってしまったんだよ。
その時に、陛下は魔物の毒を受けてしまってね。調べたところ、その毒に有効な薬はこの森でしか採取できないものだと分かったんだよ。
流石に、私にも責任があるから、自ら志願してこの森で目的の薬草を採取することには成功したんだよ。
採取できたのは良かったんだけどね、強力な魔物に襲われてしまい、全滅しそうなところで君に助けられたわけさ。」
「なるほど、こんな大森林に来ていたのはそんな理由があったのですね。貴重な素材を欲しがったおバカな貴族が兵士たちを率いて自殺でもしに来ていたのかと思いましたよ。」
ミラナリアはかれが公爵と知っているにも関わらず、辛辣な言葉を投げかける。もはや相手が同じ平民であってもなかなか掛けられない言葉だ。
「君、本当にあのメロロ王国から来た人間なのかい?そんな言い方をすればあの国ではすぐに殺されていたのではないかい?」
公爵自身は彼女の言葉遣いを気にはしていないがメロロ王国は平民の人権がないことを知っていたため、そこからやってきた彼女がこのような言葉づかいで驚いていたのだ。
「あの国にいたころは一日中しゃべらないことなんてよくあったので問題ありませんでした。私にも色々あって貴族だろうと気にせずに生きていこうと決めたんです。最悪、殺されそうになったらこの森にでも逃げ込んで余生を過ごせばいいだけの話ですしね。」
前世の記憶を思い出したミラナリアは貴族と言われても特に偉いものだと思えなかったのだ。そのため、わざわざ下手に出る必要がないと考えていたのだ。
最悪、彼女には結界の力があるため、どの国も追いかけてこないこの大森林でスローライフを送るのもアリだと考えていた。
「確かに、君ほどの力があればこの森で生活をするなんて簡単なうえに、追っ手は森の中まで追いかけてきても先ほどの私たちのように魔物が邪魔をしてくれるというわけか。」
「そういうわけです、この結界はどれだけの時間、張っていても疲れることがないですので問題もありませんよ。」
「それは強力だね。まぁ、私は基本的に貴族だの身分は気にしないし、うちの国もメロロ王国のようなヤバい国ではないから過ごしやすいと思うよ。
できれば、すこ~しだけ、やさしい言い方をしてくれれば他の貴族達にも何も文句は言われないと思うよ。」
いくら言葉遣いを気にしない貴族がサクラ王国に多いと言っても中には気にする者もいるだろう。そんな彼らともめ事を起こさないように、公爵はアドバイスをするのであった。
「その点に関してはできるだけ気をつけます。それで、王様が倒れてしまった経緯はよく分かりましたが、私に何をしてほしいのですか?」
「そこで、今回の相談なんだ。いくら陛下を治療するための薬を用意して無事に回復したとしても陛下が魔物に襲われた事実は変わらないからね。私も今回の件で何か再発防止に努めなければならないんだよ。
話を聞くところによれば、君は国一体に魔物の侵入を拒む結界を張ることができるのだろう?それならばその力を使って我が国を結界で覆ってもらえれば助かるのだけれど、どうかな?」
公爵が提案してきたお願いとはミラナリアがメロロ王国で行ってきた仕事と変わらないものだった。
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