6限目 ダンジョンで矯正するんです。実地矯正ということです。
「あー欝だわ」
誰も聞いてないけど、ひとり言なのです。
なぜって、周りに誰もいないから。
俺、屋上にいます。
また呪い部屋に連れて行かれると怖いからです。
空がとってもキレイで……。
どんな悩み事だって包み込んでくれる。
ソラ、SORA、ボクの空……。
「ここここ怖いんですけどぉ」
ギロリ。
「誰だ?」
「あ、先輩」
ひとりになりたい昼休み。
屋上のトビラをぶち破って来ちゃいましたあ。
なんで、コイツがいるんだろう?
「お忘れですか?ほら初日に、先輩のとっても恥ずかしいミステイクを教えて差し上げたカワイイ後輩です。同級生ですけど」
クソ長いクソ台詞をたれ流しやがって……。
思い出したぞ。
「屋上は立ち入り禁止だコラ」
だから、トビラをぶち破ったんだよ、ボク。
「そうなんですけど、先輩の後をつけたら辿り着いてしまいまして……」
ピーン!
謎の研究機関だ。
間違いない。さらいに来たとしか思えん。
奇病から目覚め、魔法を体得してしまった現代の奇跡。
俺の身体をくまなく調べ上げて、人類を進化の先へと――。
「噂を聞きつけまして――」
「そうか、魔法瓶だ。魔法じゃない」
「はい。そのふたつはまったく異なるものですね」
どうやら、分かってくれたらしい。
「それでですね、噂を聞きつけまして――」
ぎゃわわ、通じてない!
「待て。どっかに連れ去るのだけは止めてくれ」
「はい」
「よし、じゃあ話を続けろ」
簡単に説得できたわ。
謎の研究機関って、案外チョロいんだな。
「その……」
エージェント後輩が、辺りに人がいないことを確認する。
慎重派だから、かなり優秀だろう。油断できん。
「軽部くんと、すこし揉めているとか?」
かるぅく軽部くんか。
俺はトモダチになりたいだけだ。
もちろん、いつかはケンカすることもあるだろう。
雨降って地固まる、だ。
「まあ、先々は分かんねーけど」
「や、やはり!」
エージェント後輩は、うんうんと満足げに頷く。
「いつか現れると思っていました。救世主が……」
どうも話の流れが見えないな。
早くひとりにして欲しいぜ。
だいたいさ、救世主がいるなら、俺を救ってほしいよ。
金儲けするために金が必要ってオカシイだろ。
詐欺みてーな話だと思うわ。
「申し遅れましたが、わたくし――」
エージェント後輩が、片膝を立てて騎士みたいなポーズでひざまづく。
そして、キリリとした眼差しで俺を見上げた。
ほえぇ?
「――聖乙女解放騎士団 見習騎士 夜桜マイと申しますッ!」
爆睡かましている間に、この学校はさらにアホになったんだな。
◇
「なぜですか?」
カツカツカツ。
「だから、バイトだって」
カツカツカツ。
「キミは矯正してダンジョンに行くって、先生と約束したんですッ」
カツカツカツ。
「だから、それが行けないんだっての」
カツカツカツ。
「待って!」
声と共に、俺の髪が強風に舞う。
バッ!
次の瞬間には、後ろから追ってきていたはずのアンジェ先生が眼前に立っていた。
な、なんだ、今のイリュージョンは?
「待ってください」
頬を膨らませる大人女子はカワイイが、早く小汚い吹き溜まりの店に行かないとダメだ。
あそこをクビになるとヤバい。
「借金がある。返すために金儲けをしたいが、それにも金がいることが分かった」
世知辛い世の中だぜ。
「つーわけで、バイトだ」
「だ・め・で・す」
身を乗り出して、美しすぎる顔が俺に迫る。
ヒール穿いてこれって、ちょっと身長低いのかな。
まさか、それで常にヒールを……。
「ダメって言われてもよ――」
「禁止です」
「あ?」
「当校では学生のバイトが禁止されていますッ!」
し、知らんがな!
「だったら、借金返してくれんのか?」
「返しましょう、いくらですか?」
「200万」
「当校では学生のバイトが禁止されていますッ!」
キリリ。
「ともかく無理なんだって。初級行くのも20万掛かるんだろ?」
「あ」
アンジェ先生が、口元に手を当てる。
「それですか」
初級ダンジョン行くには、初級ライセンスがいる。
でもって、初級ライセンス取得に、登録料が20万円。
登録で20万って、ボッタくりもいいところだと思う。
講習があるにせよ、だ。
「確かにアレは利権が絡む構造になっているのです。私も改善が必要だと――」
そうは言っても、仕組みがそうなっている以上どうにもならん。
ならば、まだ緩そうな校則を破って金を稼ぐ!
「まあ、そういうことなら解決できますね」
「え?」
フフッ、とアンジェ先生が笑った。
◇
野良ダンジョン。
そういえば、この前アンジェ先生に拉致られた場所にあった。
廃病院を燃やして意識が飛んだので、ダンジョンに入ることはできなかったが……。
「あそこで稼げば解決です」
「……危なそう……なんだけど」
「もちろんです」
だよね……。
「初級とかで言うと、どれくらい?」
「同じくらいですね」
となると、アンジェ先生って大して強くないのかな。
「今、失礼なこと考えましたね」
ジト目で俺を睨む。
「い、いや……でも、いきなり行っていいのか?」
矯正とかするんじゃなかったのだろうか。
「ダンジョンで矯正するんです。実地矯正ということです」
「なるほど」
机に座って、ムチでバシバシやられるよりいいか。
いや、それはそれで……いかんいかん。俺は高校生だ。そいつは早すぎる。
「矯正ってさ、何するんだ?」
「多岐に渡りますけど、まずは――」
ともかく、力の制御みたいのがダメダメらしい。
だから、中級クラスの呪文で山火事を起こして、ぶっ倒れてしまったわけだな。
「それもあります。ただし、あなたは何といっても【極】ですから」
「……極まってやがるのか」
ノー努力で。恐ろしいぜ。
「エルフ族でも滅多にいないのです。ちょっと……羨ましいかな」
え、と横を見る。
アンジェ先生は、ハンドルを握って前を見ていた。
聞けば、エルフ族ってのは、基本みんな魔法が使えるらしい。
ただ、その強さにはバラツキがある。
バラつきは、格差を生む。
つまり、アンジェ先生は……。
「さ、着きましたよ」
焼野原になった廃病院に到着した。
立ち入り禁止のガードテープがあるが、気にせずスタスタ入っていく。
アンジェ先生って、こういうとこ恐ろしいよな。
ただ今回は、普通の運転だったので、ゲロの心配は無い。
「消火活動で見つかるかと思いましたが、発見されなかったようですね」
例のダンジョンは野良のままだ。
政府管理下になると、ダンジョンそばに、受付所が出来るらしい。
正式名称、未確認地下構造物見学受付所。
法律上の立て付けとしては、見学ってことになってるらしい。
どうでもいいけど。
「メンドウな名前だな」
「誰もそう呼びませんよ。みなさんギルドって呼んでます」
本来の意味と異なるが、ニュアンスで伝わるからだそうだ。
つーか、本来の意味を俺は知らん。
そこでアイテム買取とかもしているらしい。
とりあえず、そんな建物も無いので、野良ダンジョンなのだ。
「あ、ここです」
敷居の隅っこに、延焼を免れた草むらがある。
かなり丈の高い草が生い茂っていた。
そこをかき分けて進むと、デカい石がある。
さらに石の裏手に回ると――、
「穴だ……」
石と地面の隙間に隠れるようにして、黒い空洞があった。
上空からは発見されにくそうだ。
アンジェ先生は、気軽な様子で穴の前まで進む。
「このまま行くの?」
「そうです」
「ハイヒールで?」
「フフ。行けば分かります。さあ」
アンジェ先生が、穴の前で俺に手を差し出す。
「行きましょう!」
少しだけ悪戯っぽい笑顔を浮かべている。
普段の俺なら絶対にしなかったと思う。
自然にアンジェ先生の手を握った。
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