第3話 いい加減にしろ

 付けられてないか?

 なんかさっきからどこかから視線を感じる……。

 こんなの漫画の中だけの表現かと思ったけど、実際他人の視線というものは感じることが出来る。

 なんだろうか?

 この背中に刺さるようにくる感覚は……。


「ん? どうした石嶋?」


「あぁ、いやなんか見られてる気がして……」


「はぁ? お前をガン見する奴なんか居るのか?」


「いや、そう言われればそうなんだけど……」


 既に俺達は駅前に来ており、人の通りは多い。

 誰が俺を見ていたなんて分かる訳がない。


「気のせいだろ? それよりラーメンだラーメン!!」


「あ、あぁ……」


 本当に気のせいだったのだろうか?

 俺はそんな事を考えながらラーメン屋に向かい、井岡と背油もりもりのラーメンを食べた。

 しかし、ラーメン屋に居ても視線を感じた。

 なんだ?

 やっぱり誰かに付けられてるのか?


「んじゃぁ、そろそろバイトだから俺はここで」


「あ、あぁ……また明日な」


「おう、じゃぁな」


 ラーメン屋を出て井岡と別れた後も視線を感じることは多かった。

 やっぱり誰かが俺を見ている。

 俺は一人になったこともありどんどん怖くなってきてしまった。

 しかも周りも少しうす暗くなって来ていた。

 夏を前にしているとはいえ、辺りはだんだん暗くなり始めている。

 

「………」


 住宅街に入るに連れて人通りは少なくなり、視線がどこから来ているのかも分かるようになってきた。

 居る。

 今振り向いたら後方に誰かが居る。

 足を止めるとそいつも止まる。

 一体誰なんだ?

 そして何が目的なんだ!

 恐怖と興味が入り混じった変な気持ちになり、俺はパニックになってしまった。

 家まではまだ距離がある。

 このままだと何をされるか分からない、そう感じた俺は……。


「くっ!!」


 家まで走り出した。

 いや、怖い!

 だって怖いじゃん!

 誰か後ろに確実についてきてるんだよ!

 もしかしたらこの世の者じゃないかもしれない。

 そう考えたらなんだか俺は怖くなり家までダッシュをしていた。

 しかし、そこで予想外の事が起きた。


「ま、待って!!」


「え!?」


 なんと背後に居る何者かが俺に声を掛けてきたのだ。

 しかも声は女の子でどこかで聞いた声だった。

 俺は気になり足を止めて勇気を出して振り向いた。


「え? か、堅山さん?」


「はぁ……な、なんで急に走りだすのよ……」


 そこに居たのは昨日俺に告白ドッキリを仕掛けてきた堅山さんだった。

 俺を追いかけたせいか髪は少し乱れ息も上がっている。

 というかなんで堅山さんがここに?


「どうしたの? 俺に何か用?」


「うん……昨日のこと……話したくて……」


「え? あぁ、あのドッキリ? もう良いよ。でももう他の人にはしないでね。多分傷つく人も居るから」


「そ、そうじゃなくて!! あ、あのその……」


「ん?」


 なんだ?

 走ったせいか堅山さんの顔は真っ赤になっており、なんだか緊張している感じだった。

 

「実はあれは皆からやらされたことで……」


「うん? そ、そうだろうね……」


 いや何が言いたいんだ?

 俺は彼女が何を言いたいのか分からなかった。

 そして、堅山さんは何かを決意したように俺に声を上げてこういった。


「あれはドッキリだったけど、私の告白はドッキリなんかじゃないの!!」


「ん???」


 ますます意味が分からなくなった。

 ドッキリだけどドッキリじゃない?

 いや、どういう事?

 全くが意味が分からない。


「だ、だから私……本当はアンタ……石嶋君の事が……」


「う、うん?」


 どういう意味なのだろうと彼女の話を聞いていると、またしても誰かがやってきた。


「あれ? 伊奈じゃん! 何してるの?」


「え? あ、み……みんな……」


「石嶋も一緒じゃん! 何? またドッキリ?」


「おいやめてやれよ、可哀想だろ!」


 またこいつらか……いい加減なんだかムカついてきたな。

 上っ面では冗談のように笑いながらそんな事を言っているが、内心ではどうせ俺を見下している感じ。

 あぁ、そうか……堅山さんもこいつらといっつもつるんでるんだっけ?

 そっか、また退屈しのぎに俺を馬鹿にしようとしてこうして放課後まで付けてきたってわけか……可愛い顔してやることひでーな。


「あぁ、そういう事か……あのさ、あんまりいい気分しないから今度からやめてね」


 俺は笑顔で堅山さんにそう言った。

 本当はいい加減にしろと怒鳴ってやりたかったが、それをしたら俺は翌朝学校で何を言われるか分からない。


「ち、ちが……私は……」


「じゃぁ、また明日」


「あ! ま、まっ……」


「伊奈~カラオケ行こうよぉ~」


「お、良いねぇ、皆で行こうぜ~」


 はぁ……やっぱりリアルの恋愛って残酷だなぁ。






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