47 「彼女」は何処へ①
おいしい食事を堪能してたくさんのお喋りもして、食事会は解散となった。
「では、現地解散としましょう。これから遊びに行く人は、門限の十時までには必ず学校に戻ること」
ディアナが言うと、生徒たちはそれぞれ散らばっていった。
今はまだ夜の八時くらいなので、女子たちは夜の露店を見て回り、ルッツは実家に寄るそうだ。
「なあなあ、先生。これからオレと一緒に大人の時間でも、どう?」
「十七歳が何か言ってら……」
「うるせぇな、十七歳。悔しければおまえも先生を誘ってみろ」
「いや、俺は……」
「あ、すみません。私、寄るところがあるので」
ディアナが言うと、顔を突き合わせていた二人は同時にこちらを見て「え?」と声を上げた。
「寄るって……もう暗いんだけど?」
「護衛くらいならするから、一緒に行きますよ」
「うわてめぇ、こういう形で抜け駆けするとか……」
「うるさいな、脳内ピンク男」
「……ええと、申し出はありがたいのですが、ちょっと一人で行きたい場所なので」
ディアナがやんわりと断ると、最初は怪訝そうな顔をしていた男子二人はやがてほぼ同時にはっとして、頷いた。
「ああ、まあ……そうだよな。レディにも用事はあるもんな、うん」
「……俺、こいつを連れて先に学校に戻ります。放っておいたらこいつ、何をするか分からないんで」
「うわー、男二人で帰路につくとか嫌だわー、むっさいわー」
「黙ってろ。……それじゃあ先生、今日はありがとうございました。また明日」
「ごちそうさまっした。先生も、遅くならないようにしなよ」
「ええ、ありがとうございます。気をつけて」
ディアナはぽかぽか殴り合いながら去って行く二人を見送り、さて、と振り返った。
(せっかく町に出たんだから……ちょっとでも、調べておこう)
エルヴィンたちはいいように解釈してくれたみたいだが、実際には「行きたい場所がある」のではなくて「探したい人がいる」だった。
(もう三月も後半なのに、まだヒロイン入学の話が出てこないなんて!)
補講クラスの六人の進級とディアナの正式採用が決まった今、彼女が気になっているのはゲームヒロインについてだ。
思いがけず「ヒカリン」の攻略対象を一人退職させてしまったが、まだ人気ナンバーワンのリュディガーはいるし、来年度の入学生名簿を見ると王道攻略対象である第一王子の名前や同じく攻略対象であるヒロインの幼なじみの名前はあった。
(それなのに、光属性をひっさげて入学する女子生徒の情報は、どこにもない……!)
これはまずいのでは、とディアナも薄々思っていた。
この調子だと、ディアナがショボ悪役としてゲームのようにクビになる運命からは避けられそうだ。
だが、だからといってヒロインの入学イベントまで潰したいわけではないし、せっかくだから魅力たっぷりのゲームヒロインの授業にも行きたいとさえ思っていた。
(アルノルト先生がクビになったこともそうだけど、私がゲームのシナリオにない行動を取ったことでヒロインの運命まで大きく変えてしまっていたら……)
そこまでは、望んでいない。
確かゲームヒロインの実家はそこまで裕福ではなくて、ヒロインは「家族のためになるなら……」という思いを胸に入学を決めるのだ。
であれば、そんなけなげで家族思いなヒロインを早く探し出して、入学させてやるべきだ。
(ヒロインが去年の秋くらいに会うはずの予言者は、どこで何をしているの!? ちゃんと光属性の力を見いだしていれば、ヒロインの情報が魔法学校に行くはずなのに!)
だが幸運なことに、手がかりゼロというわけではない。
というのも、例の幼なじみ攻略対象の個人情報は名簿にばっちり載っていたので、彼を訪ねればヒロインの手がかりが分かるはずなのだ。
(確か、ヒロインと親ぐるみで仲よしの幼なじみ攻略対象は、このへんで暮らしているってことだったけど……)
皆で食事をしたレストランから徒歩三十分くらいの場所にある、住宅街。
このあたりは、それほど裕福ではない民たちがひっそりと暮らしている。幼なじみ攻略対象も、少ないが奨学金をもらって入学するタイプだったはずだ。
(もう暗いし、若い女の子は一人で歩かないかな……)
それに、ディアナはヒロインの名前も見た目も分からない。
(ゲームではデフォルト名があったけれど、私はいつも自分で名前を付けていたから思い出せないし……見た目も、季節イベントやガチャで手に入られるアイテムでいくらでも変えられたし……)
「ヒカリン」はヒロインの育成や恋愛イベント、攻略対象のスチル集めがメインだが、可愛いドレスやメイクでヒロインを飾るのも楽しみの一つだった。
ガチャやイベントランキング報酬として入手できるドレスや髪型などはどれも可愛らしいものが多くて、気分によって付け替えられる。
(今日のところは幼なじみ攻略対象の家の場所だけ確認して、今度明るい時間に――)
「あっ」
学校で見た資料の内容を思い出しながら歩いていると、声がした。
顔を上げたディアナは――息を吞んだ。
正面にある民家からちょうど、桶を手にした少女が出てきたところだった。着ている服やエプロンはくたっとしており、顔にも化粧っ気はない。
だが――ディアナは、分かった。
(こ、これは……! ゲーム開始時に初期設定されている黒髪セミロングとぱっちり黒目、そして初期衣装の「町娘の服装」!)
ゲーム開始時のヒロインそのまんまの格好と見た目をした少女が、ぽかんとしてディアナを見ていた。確かにこんな暗い時間、いつもよりもおしゃれなドレスを着たディアナの姿は異様だろう。
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