24 補講クラスの戦い②
「レーネは、ツェツィーリエを守れ! ルッツとエーリカ、おまえたちの土魔法で足場を崩せ!」
「う、うん!」
「やってみるわ……!」
敵が敏捷性に欠けている魔物だということで、リュディガーはすぐに作戦を練っていた。
ツェツィーリエの守りをレーネだけに任せ、ルッツとエーリカの土魔法で敵の足止めをさせる。
二人が協力して魔法を放つと、ぐらりと象魔物の体が揺れた。すぐにリュディガーが炎を纏わせた剣で斬りかかるが、象魔物の振り上げた巨大な前足に阻まれてしまう。
「ちっ……!」
「リ、リュディガー! あたし、あの左足を沈めてみるわ!」
「無茶するなよ、エーリカ!」
「ぼ、僕も協力する!」
土属性の二人が地面に魔力を流し込むと、がくん、と象魔物の左後ろ足が地面に沈んだ。土魔法によってそこだけ地面がへこみ、バランスを崩させたのだ。
「ツェツィーリエ、あの魔物の脳天に雷を落とせるか!?」
「え、ええ! リュディガー、もう少し魔物を転ばせなさい!」
「ああ。……うわっ!?」
片足が沈んだ象魔物が、ぶんっと長い鼻を振り上げてきた。
リュディガーはなんとか避けたが、長い鼻は鞭のようにしなり――無防備なツェツィーリエを狙う。
(危ない……!)
「ツェリさん!」
すぐにレーネが魔法剣を地面に突き立て、象魔物の体高ほどの氷の柱を発生させた。
うなる長い鼻はツェツィーリエではなくて氷の柱にぶつかって、ぎりぎりとかみ合い――バリン! と派手な音を立てて柱が砕け散った。
「わぁっ!?」
「きゃっ……!」
「え、嘘……ルッツ君、エーリカさん!」
粉々に砕けた氷の破片が降り注いだのは、土魔法に専念していたルッツとエーリカのもと。
「ちっ……! 二人とも、伏せろ!」
すぐにリュディガーが手のひらから放った炎で氷は解けるが、ルッツとエーリカはへたり込んでいるし、自分の魔法が原因で仲間を傷つけそうになったレーネも青ざめている。
「っ……おいこら、レーネ! ぼさっとすんな!」
「で、でも、私……う、うぇ……」
(……いけない! レーネの体調が……!)
レーネは低血糖気味だが、その他にも緊張したりプレッシャーが掛かったりしたら動悸が激しくなり、動くのも辛くなるという症状も持っていた。
へたり込んだレーネをすぐさまツェツィーリエが抱き寄せようとしたが、リュディガーが「馬鹿野郎!」と叫ぶ。
「おまえの役目は攻撃のための準備だろう、ツェツィーリエ!」
「でも! レーネが!」
「っ……おまえたちは、一旦下がっていろ!」
リュディガーが象魔物に向き直り、魔法剣の先端から紅蓮の炎を放った。
炎は象魔物の鼻の中程に命中して、黒い魔物は悲鳴を上げる。すぐさまリュディガーは地面を蹴り、大剣の一閃で象魔物の鼻を切り落とした。
ギャアアア、とすさまじい悲鳴がディアナの全身を震わせる。切り飛ばされた鼻の先端がぼわっとかすむように消えた直後、体調が落ち着いたらしいレーネが立ち上がって剣先から氷の刃を放った。
鋭い氷の矢が、象魔物の左目に命中する。魔物はとどろくような声を上げて、がっくりと膝をついた。
「……よし! ルッツ、エーリカ。落ち着いて、もっとあの魔物の足下を沈めろ!」
「う、うん!」
「はい!」
「ツェツィーリエ、一発かましてやれよ!」
「お、お任せなさい!」
土属性でべこっと地面が波打ち、象魔物の体が沈む。じたばたもがく前足がリュディガーとレーネの魔法で阻まれ、ツェツィーリエが立ち上がった。
「リュディガー、レーネ、避けて!」
ツェツィーリエが大声を上げて、細身の魔法剣を振り上げた。白い稲光がとどろき、弾け――鼓膜をつんざくような音を立てて、象魔物の脳天に命中してそのまま顎下まで貫通した。
白く光る雷の槍はまだバチバチと音を立てながら残っており、象魔物はガフッと音を立てて巨体をぐらつかせると、そのまま地面に倒れた。
その拍子に土と雪の交じった泥がはねてリュディガーたちの服を汚したが、ディアナはほっとして体の力を抜いた。
(よ、よかった! 倒せた……!)
「先生、やりましたよ!」
光の壁の向こうで、生徒たちが拳を握っている。隣のフェルディナントも満足そうに「よかったね」と言い、試験監督の教師たちも頷いて光の壁を解除しようとした――
(……え?)
お互いの体を助け起こして、喜びに浸る生徒たち。
その背後で、一時は光の失せた魔物の目がぎらり、と赤く輝いた。
「まっ……! 待って、皆、後ろ!」
「えっ?」
ディアナが慌てて声を上げるが、遅かった。
ツェツィーリエの雷魔法で脳天から砕かれたはずの象魔物がのっそりと起き上がり、口を開いた。
その先に渦巻くのは――漆黒の闇。
(あれは……闇魔法……!)
生徒たちが振り返った直後、漆黒の波動が五人に襲いかかった。
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