18 六人いるクラス
どうなることかと不安だったが、エルヴィンは約束通り翌日朝から教室に現れて、皆を驚かせていた。
「まあ! やっと来ましたのね、このサボり魔!」
「ツ、ツェツィーリエさん、もっと優しく言ってあげようよ……」
「そうそう。ツェリさん、自分の後ろの席がいつも空席なの、地味に気にしてたじゃないですか」
「レ、レーネ! わたくしはそんなこと……!」
「ううん、みんな分かってたわ。六人揃えたことが、ツェリもとっても嬉しいのよね?」
「エーリカまで……!」
最初は手ひどくエルヴィンを歓迎したツェツィーリエだが、皆にあれこれ言われると次第に真っ赤になり、ふてたようにそっぽを向いてしまった。
そしてリュディガーは、自分の左隣に座ったエルヴィンの背中をバシバシ叩いていた。
「いやー、本当に来るとはな! あ、ノートが見たければ見せてやるから、言えよ!」
「……まあ、うん、感謝する」
エルヴィンが教室に入ったときにこの席順を見て、明らかに嫌そうな顔をしたことにディアナも気づいていた。
だが、リュディガーの隣、ツェツィーリエの後ろというこの席くらいが、エルヴィンにはちょうどいいと思う。
初めて六人揃った状態で出欠を取り、朝の補講を始める。今日はまず、連絡事項があった。
「皆も知っての通り、十二月半ばには冬のグループ試験があります。その詳しい日程が決まったので、お知らせします」
そう言ってディアナは、抱えてきた石版を教卓の上に立てた。
日本の学校だったら一人一枚ずつプリントを配ったりできるだろうが、この世界には輪転機のようなものはまだ存在しない。よって、教師が石版に書いたものを皆が各自ノートにメモするのが主流だった。
「試験期間は十二月十五日から二十日です。一年生の生徒が十二のグループに分かれて、一日に二グループずつ試験を行います。多くの教員が試験に同行するため、この期間中の授業はありません。ただし課題はあるので、試験日以外は自主的に課題に取り組むことになっています」
「え、ええと……先生。僕たちのクラスは本当に解体せずに、この六人で行けるのですよね……?」
慎重派のルッツに尋ねられたので、ディアナは頷いた。
「はい、間違いありません。他の生徒は十二月の頭にグループ発表となり、そこからグループでの練習を行いますが、補講クラスに関してはこのグループで練習を始めていいとのことでした」
「……ハンデを与えられているようで少々癪ですが、まあいいでしょう。わたくしたちのことを見下す連中の度肝を抜くような成績をたたき出せばいいのですからね!」
ツェツィーリエが自信満々に言い、その隣のエーリカが首をかしげた。
「それで、先生。グループ課題では魔物退治をするとのことだけど、どんな魔物を倒すことになるのかはいつ分かるのかしら?」
「私も気になったのでアルノルト先生に聞いたのですが、どうやら当日現地に行くまでどんな魔物が課題になるのか、分からないそうです」
フェルディナント曰く、冬の課題のために毎年生徒たちは王都郊外にある森に行くのだが、生徒たちが戦う魔物はこの森の管理者が事前に捕らえて準備しておくらしい。
ある程度のことは学校との間で連絡は取られているが、どのグループにどの魔物をあてがうかなどについては明かさないことになっているという。
(そういえばゲームでも冬の試験があって、ヒロインは大型の熊みたいなのと戦うことになったっけ……)
同級生たちと協力して魔物を倒すこのイベントは、あまりにも授業や魔法の訓練をサボっていると倒せず、「私、だめだったわ……」というヒロインのモノローグに続き画面が暗転、そしてゲームオーバーになってしまう。
(ゲームだと……多分あれって、ヒロインが魔物に殺された、ってことになったのよね……)
明確な記述はないが十分予想できるし、プレイ当時のネット掲示板では「冬の課題でヒロイン死す」のようなスレッドがあったような気もする。
ゲームオーバーになった場合も約一ヶ月前に遡ってゲームを再開するという救済措置もあるが、普通にやっていたらなんとかクリアできる程度だった。そもそもヒロインの光属性は魔物相手に特攻扱いなので、やられることの方が難しいくらいだ。
(でも、当たり前だけどこのクラスには光属性の生徒はいない……)
魔法属性は、ツェツィーリエが雷でエーリカとルッツが土。エルヴィンが風でリュディガーが火、レーネが氷とバランスはいい。そして幸いにも、補講クラスは他の一年生よりも早くグループ試験練習を行える。
「どんな魔物と戦うことになるかは分からないのですが、先生たちから過去の試験結果についてのデータや魔物の情報については教えてもらっています。これらを使って、どんな魔物にも対応できるようにしておきましょう」
ディアナが言うと、皆元気よく返事をしてくれた。
朝の補講時間が終わると、皆は次の教室に移動することになる。
「……ほら、行くぞエルヴィン」
エルヴィンにすぐさま声を掛けたのは、リュディガーだった。
「多分、他の連中はおまえを見てあれこれ言ってくるだろう。ま、おまえは図太いし我が道を行くタイプだから大丈夫だろうが……念のため、今日は皆で移動しようぜ」
「……そこまでしなくていいんだけど」
「あーら、ずいぶん自信があることね? いいこと? エルヴィン・シュナイト。もし単独行動を取ったあなたが皆から文句を言われた場合、わたくしたちにもその累が及ぶ可能性がありますのよ」
「う、うん。それくらいなら、みんなで移動した方が安心できるよね」
「……いや、本当にいいって。あんたらの方が迷惑だろう」
「そんなことないよ。私たちは六人で頑張ってますってアピールした方が、いいと思うし」
「そうよ。みんなで行けば怖くないわ」
「……別に、怖いわけじゃないけど……ああ、もう、分かったよ」
五人に言われて最後にはエルヴィンの方が折れたようだ。
彼が困った目でちらっと見てきたので、ディアナは笑顔を返してやった。
「私もそれでいいと思いますよ。……よかったですね、シュナイト君。皆、あなたと一緒に頑張りたいそうですよ」
「……はぁ、分かりましたよ。皆も、面倒くさくなったら離れてくれていいからな」
「ふんっ。一度決めたことは曲げないのがわたくしですからね。覚悟なさい!」
「あんたはもうちょい、素直になれよ。……んじゃ、先生。オレたち行ってくるぜ」
「はい、行ってらっしゃい。手が空いたら様子を見に行きますからね」
ディアナが言うと、ルッツとレーネは「先生が見るなら……頑張ろう」「うん! あ、先におやつ食べておこっと」と前向きに言い、ツェツィーリエは「わたくしの勇姿をご覧なさいね!」と自信満々に、エーリカは穏やかな微笑みを浮かべ、エルヴィンとリュディガーは互いの頭を叩きながら部屋を出て行った。
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