19 サボり魔王の実力①
授業の後片付けを終えたディアナは早速、一年生が参加している魔法応用の授業を見に行った。
(皆、魔法剣の扱いがだいぶ上手になったと思うけれど……)
「おっ、イステル先生だね」
「あ、お疲れ様です、アルノルト先生」
校舎を出ようとしたところで、廊下の反対側から歩いてきていたフェルディナントと合流した。
「先生もこれから、表へ?」
「うん、実技系はどうしても負傷者が出やすいし、今は医務室も空いているからね」
「そうですか。……実はですね、今日はめでたく生徒六人が揃いまして!」
「……えっ? あのエルヴィン・シュナイト君も来たのか?」
「はい! 朝の補講時間も、皆と一緒に頑張っていましたよ」
ディアナが嬉々として報告すると、フェルディナントはしばし考え込むように横を向いていたが、やがて「なるほどね」と笑顔を向けてくれた。
「彼にも事情があるとのことだけど、君の熱意が通じたってことだろうね」
「そう……だと嬉しいです」
「きっとそうだよ。……おっ、あれが一年生たちかな?」
フェルディナントと並んで訓練場に向かうと、そこには既に一年生の生徒たちが集合して教師の話を聞いていた。皆、制服であるジャケットやスカートではなくて動きやすそうな服に着替えている。
体操服の一種だろうが、日本の学校のジャージよりもむしろファンタジーに出てくる騎士のようなデザインなので、魔法剣を腰に提げた姿と衣装がなかなかマッチしていた。
(これで体操服だったら、ちょっとがっかりかもね……)
生徒たちが前世勤務していた中学校の紺色ジャージを着ている姿を想像すると、おかしいような微笑ましいような気持ちになる。
ディアナとフェルディナントが並んで訓練場に来ると、魔法応用担当の教師はこちらを見て会釈をしただけだったが、生徒の中にはざわつく者もいた。
「……あれって、補講クラスの担任だよな?」
「ああ、あれじゃない? 今日はサボり魔王も来てるし」
「見てよ、あの先生。フェルディナント先生と仲よさそうにくっついて!」
「いやらしいわよねぇ」
(いや、アルノルト先生との距離は十分にあるし、そんな想像しないで先生の話に注目してほしいな……)
補講クラスの六人たちも、ちらっとこちらを見た。レーネやエーリカなどはディアナを見て少し表情が明るくなったが、ツェツィーリエに背中を叩かれ慌てて前を向いていた。
教師の説明が終わったらしく、生徒たちが訓練場に散らばる。どうやら一対一の魔法剣練習試合をするようで、向き合った生徒たちが腰から提げた剣を抜き、刀身に自分の魔力を込めていた。
なお、火、氷、雷、土、風、光、闇の七属性はともかく、癒やし専門である聖属性の生徒はこの練習には参加できない。
むしろ彼らにとっては、練習試合で負傷した同級生の治療をする方が訓練になるようなので、フェルディナントも彼らに指示を出したりするという。
「おっ、あそこで早速、エルヴィン・シュナイト君が構えているよ」
「……あ、本当ですね」
思わずその場で背伸びをすると、フェルディナントが「もっと近くに行こうよ」と誘ってくれたので、二人で訓練場に近づいた。
エルヴィンと対峙しているのは、背の高い男子生徒だった。
(えーっと……あの子って確か、同級生に対する態度がちょっとよくないって聞いたことがあるような)
職員室で聞いた内容を思い出そうとしていると、エルヴィンの対戦相手は振り返ってディアナを見ると、ケケッと笑った。
「おーい、サボり魔! おまえの担任が見てんぞ!」
「……」
「格好いいところ見せたいんだろう? だったら俺を倒してみせろよ! 逃げてばかりの臆病野郎にできるならな!」
「……うっさいな」
「あ?」
「あんたに言われなくても、先生の姿は見えている。いちいち馬鹿でかい声を上げるな」
(お、おおー……。シュナイト君、言われっぱなしじゃないのね……)
てっきり無視を貫くと思いきや、エルヴィンはほどほどに言い返していた。
無論それで黙る相手ではなく、むしろカチンときたように幅広の剣を構えた。
スートニエ魔法学校では入学時に授業用の魔法剣を与えられるが、生徒の身長体重、運動神経などにより剣の長さや重さを調節する。
補講クラスだと、大柄で筋肉もあるリュディガーは刃も分厚い大剣だったが、ツェツィーリエ、ルッツ、エーリカは細身で刀身も短い剣を持っている。レーネは騎士の娘だからか剣の扱いは慣れているようで、男子生徒用の標準剣を使っていたはずだ。
この対戦相手もリュディガーのものと同じくらい大きな剣を持っていて、対するエルヴィンの剣はレーネのものと同じだ。相手もその剣を見て鼻で笑ったのが分かった。
(頑張って、シュナイト君……!)
「では、全員位置について……始め!」
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