12 それぞれの悩み①
まずは一番手強そうなツェツィーリエの教育相談から行い、順にレーネ、エーリカ、ルッツと実施することにした。
最初にツェツィーリエにしたのは大正解だったようで、「先生と二人きりのお茶会」ということで緊張している様子だったレーネやルッツも、ツェツィーリエに叱咤されたらしくちゃんとバルコニーに来てくれた。
そうして分かったことだが。
「なるほど、トンベックさんはすぐにお腹が空いてしまうのですね」
「はい。……昔から、こうなんです。だからといって朝ご飯をたくさん食べてもよくならないし、むしろすぐに体調が悪くなりやすくて……」
授業中でも菓子を食べてしまうレーネだが、話を聞く限り彼女の我が儘というわけではないそうだった。
それに、あれだけ食べているわりに彼女は細身で小柄だし、菓子を禁止されるとふらふらしてしまうことがあるという。
そうして彼女と話をして、ディアナが思いついたのが――
(おそらくトンベックさんは、反応性低血糖に似た症状持ちね……)
前世に勤めていた学校にも、反応性低血糖の生徒がいた。彼らは血糖値が急激に下がることがあり、糖分を補給しなければ発汗や頻脈などが起こり、場合によっては意識不明状態になることもある。
対処としては、血糖値が下がりそうになったら糖分補給をすること。だがフェルディナントにも相談したがこの世界には低血糖という概念はまだないそうで、それ用の治療法もなかった。
となれば、彼女が適宜菓子を摘まんでいたのは低血糖対策として大正解だったのだ。
ということでディアナは職員室で、「レーネ・トンベックの補食」を提案した。
彼女は急に大量の食事を摂ると、低血糖になりやすい。だから一度にたくさん食べるのではなくて少しずつ食べて、血糖値が下がらないようにする。
そしてもし低血糖気味になったら遠慮せずに補食用の菓子を食べればいい、ということを他の教員にもお願いしたのだ。
これにはさすがに反対してくる者もいたが、校医であるフェルディナントも背中を押してくれたこともあり、最終的には「レーネは自身の体調管理のために、補食をする」ということが許されたのだった。もちろんレーネにも、食べる前には一言教員に申し出るように、と言っている。
そして、ルッツ。
彼が極度の臆病者になったのは、幼少期に実家が盗賊に襲撃されたことが原因だと分かった。よって、人の怒鳴り声や悲鳴などに過敏に反応してしまうのだという。
これに関しては、声が大きくなりがちな人――ツェツィーリエやリュディガーなどにも事情を話して、普段から落ち着いた態度で授業をするように皆で協力することにした。
そしてルッツにはもこもこの耳当てを荷物に入れさせて、どうしても怖くなったら周りの音が聞こえないようにすればいいこと、そしてこの場にいるのがきつくなったらせめて誰かに一言告げてから退出すればいいことを伝えた。
ルッツは、自分が臆病なのは直さなければいけない悪癖だ、と思い込んでいたようなので、ディアナが出した案を聞くと安堵で泣き出してしまった。
そして、ディアナの提案を受け入れると同時に「ちょっとずつ慣れていきたいです」と笑顔で言っていた。
エーリカに関しては単純に勉強が苦手なので、放課後の時間などを使ってディアナと一緒に復習をすることにした。
またそれを聞いたツェツィーリエが、「基礎教養ならわたくしが教えてあげるわ!」と名乗りを上げ、ルッツも「魔法理論なら……」とおずおずと挙手してくれたので、時間のあるときに皆でお茶を飲みながら一緒に勉強しよう、と約束すると、エーリカは安心したように微笑んだ。
(ブラウアーさんも私と一対一より、仲間が一緒の方が心強いわよね。他の皆も、ブラウアーさんに教えることで復習にもなるし)
そして、残るはエルヴィンとリュディガー。
リュディガーの希望により彼は最後に回して、お茶会の場にはリュディガーに引きずられたエルヴィンがやって来た。
「先生。約束通りこいつ、捕まえてきましたよ。裏庭で寝ていました」
「……あんた、本当に厄介。馬鹿体力」
「ははっ、オレから逃げたけりゃ、もうちょっと体を鍛えろ。おまえ、腕もほっそいもんなぁ」
「……うるさいな」
どうやら彼らは追いかけっこでもしたようで、エルヴィンの方は髪も息も乱れているが、リュディガーの方はけろっとしている。
彼は普段から補助教科の武術などにも参加しているので、基礎体力や運動神経が桁違いなのだろう。
「じゃ、オレは行くよ。エルヴィン、今回くらいは逃げずに先生と茶を飲めよ」
「……分かったよ」
「ありがとうございました、ベイル君」
「先生の頼みならこれくらい、お安いものさ」
去り際にぱちっとウインクを飛ばしてくるあたり、この攻略対象は本当に自分のことがよく分かっていると思う。
リュディガーに追いかけ回されたからか既にお疲れ気味のエルヴィンだが、彼は存外素直に席に着いた。
「あなたと会うのも久しぶりですね、シュナイト君」
「ええ、初日以来でしょうか。逃げ回った甲斐がありました」
「そうですね、私が自力であなたを見つけられなかったのは、非常に残念です」
「……あんた、空き時間に俺のこと探してましたよね」
彼の言う通り、ディアナはほぼ毎日エルヴィンを探していた。残念ながら彼を発見するには至らず最終的にリュディガーに頼ってしまったが、エルヴィンもある程度観念しているのではないだろうか。
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